一度で二度美味しいユニットのベストアルバム MYTH & ROID「MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID -」
MYTH & ROID / MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID -
MYTH & ROIDは2015年にオーイマサヨシとのユニット「OxT」や様々なアーティストへの楽曲提供等も担当しているTom-H@ckと、同じく「OxT」でも仕事をしてきた作詞のhotaruとボーカルのMayuでデビューしたユニットだ。2017年にMayuはソロ活動のために"卒業"し、代わってKIHOWが加入し現在に至る。
アニメの主題歌等のタイアップを中心に作品を重ね、今年の3月に約5年の活動の中での歴代のシングル表題曲と挿入歌を全て収録した本作品「MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID - 」をリリースした。
本ベストアルバム16曲のうち前半の8曲がMayuのボーカルによる楽曲で、後半の8曲がKIHOWによるボーカルの楽曲という、ユニットの歩んできた流れに沿ったアルバムの構成となっており、その音楽性は様々なジャンルを下地にしながらデジタル・サウンドを多様したロック・サウンドを軸としたものが一貫してあるが、プロデューサーのTom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニットという柔軟な形態が二人の異なった女性ボーカルを各々違った時期に有し、ベストアルバムでありながら独特なこの二層構造の形を生んだように思える。
アルバムは初代ボーカリストのMayu在籍時代のデビュー曲「L.L.L.」のラウドな一曲から始まる。どこか演歌のこぶしにも通ずるような力強さと同時に"艶歌"的なしなやかさも兼ね備えた歌唱がMayuの特徴だ。「STYX HELIX」や「Crazy Scary Holy Fantasy」等の楽曲にそんな魅力を見出だすことができるが、勿論その他の楽曲でもその個性は遺憾無く発揮されている。しかし、ボーカルとサウンドの強烈なまでの加工に溺れることなくその破壊力と鋼のしなやかさを堪能できる一曲を選ぶのならばやはり「JINGO JUNGLE」ではなかろうか。
そしてKIHOW加入後の楽曲が収められた後半にアルバムは突入する。広大で深く尚且つ"歌い込む"と言った感覚の喩えが似合うその歌唱は、時に繊細さに構築された軽やかさも含みつつも楽曲に負けない強さも持ち合わせている。「Rememberance」はそんなKIHOWの個性を実に高純度に反映させた仕上がりの一曲だ。シャッフルビートを軽やかに伝うように歌う「VORACITY」のようなロックナンバーをも"歌い込める"のも彼女の魅力の一つだが、個人的にはトラックの壮大さに添うように歌われる「Cracked Black」のような楽曲に彼女の最大の魅力と効力を感じる。
先にも書いた通りMYTH & ROIDはプロデューサーのTom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニットである。その独特の形態がフットワークの軽さに繋がり、サウンドもジャズやクラシックの教養が確かに感じられる表層上のラウドでデジタル・サウンドに加工されたロックやポップスは本質ではない。より深く聴き込んだ分だけ立体的に堪能できる作りの楽曲は素晴らしい品々ばかりと言える。
一つのユニットのベストアルバムでありながら異なった個性を持った二人の女性ボーカルを楽しむ事ができる異色な一枚となっている本作品をもって、是非ともMYTH & ROIDの魅力を皆さんにも知って欲しい。
最後に、そんな二人の女性ボーカルの個性と旨味を堪能できる二曲を紹介↓
"Cracked Black"
デジタライズされたボーカルとサウンドを支えるのも根本には人間がある。そして、そこに載せられた普遍不動の価値と意味を示すhotaruの歌詞があることを最後の最後に記したい。
MYTH & ROIDは深い部分で実に魅力のあるユニットだ。
(文:Dammit)
エモリバイバル入門の手引き
先日、出前寿司RecordsからCap’n Jazzについての記事が公開されて、非常に嬉しかった。
というのは、自分が元々エモが大好きだというのもあるし、自分も昔、Cap'n Jazzからの派生バンド、Joan of Arcについての記事を出前寿司Recordsで書いたことがあったからだ。
delivery-sushi-records.hatenablog.com
delivery-sushi-records.hatenablog.com
他にも、良質なインディオルタナを鳴らしてる女性アーティストについて書いたこともあった。
delivery-sushi-records.hatenablog.com
そんなわけで、どうしても新しく、エモに関する記事を書いてみたくなったので、今回もお願いして寄稿をさせてもらいます。
(注意1)
今回の記事は「基礎中の基礎中の基礎」について書きたいと思うので、かなり内容は薄いです。
(注意2)
この記事は、まず結論から書きます。時間がない人は結論だけ読んでください。
目次
①結論
はっきり言います。
こんな記事は今すぐ閉じて、名古屋のstiffslackに行ってください。
stiffslack、通販もありますので。とはいえ現在は移転+ライブハウス化の作業中で稼働してないですが。(お店の再開は3/27から)
これを書いてる自分は愛知県民ですが、今から書くものは、stiffslackに足を運んで知ったものが大多数です。
「世界で一番、toeの音源が売れる店」として、toe自らが認める、エモ/ポストロックのメッカ、それが名古屋のstiffslack。そこには古今東西、新旧問わず、エモのすべてがあります。
この記事を読むより、実際にお店に行って、何がいいのか聞いて、確かめるのが一番早いです。
東京だったら、新代田のLike A Fool Records、大阪だったら南堀江のFlake Records、とかがお店のタイプ的には近いと思います。(こちらのお店も通販あり)
他には渋谷のNERDS、八王子のToosmell Records、奈良のThroat Records(LOSTAGEの五味さんのお店)、高松のImplse Records、等々があるかと思いますが、それぞれ持ち味が違うと思いますので、実際に足を運んでください。
②二大バンド
二大バンドなんてエモリバイバルにはいません。勝手に僕が決めました。
とはいえ、実力、人気、入りやすさといった点から、二つのバンドがド定番なんじゃないかということで、選びました。
・Into It, Over it
なによりもまずはこのバンドなんじゃないだろうか。歌心もあり、ギターもうまく、日本が大好きで、ソロでも来日するようなバンド。
エモというよりはインディロック/オルタナの系譜にあると思うけど、このバンドがもつ哀愁は近年のエモリバイバルバンドの一つの手本というか指標だと思う。
まずは『Proper』から。
・ttng(This Town Needs Guns)
エモリバイバルの一つの流派というか、マスロックのように美しい単音を紡ぎながら、というタイプの音楽がエモリバイバルのスタンダードだと思う。
で、ttngはその流派を作り出したバンドの一つ。現行で活躍してるイギリスのバンド。もともとはThis Town Needs Guns のバンド名で活動してたけど、いろいろあって今のバンド名ttngに。
アルバム『Animals』はエモリバイバルを語るうえではマスト。名盤というより、「ザ・スタンダード」。
③今が旬なエモリバイバルバンド
2020年現在で旬なエモリバイバルを3つ紹介。新しいもの、トレンドをとにかく取り入れたい人はここから入門でも全然問題ないかと。
・Pinegrove
今年の一月に新作『Marigold』をリリース。紛れもなく彼らの最高傑作と言える。というか、今年のエモの最高傑作という観点でいうと、早くも最有力かと。
フォーキーな感じがして、歌モノとして楽しみたい人にはうってつけ。特にデスキャブなんかが好きな人に。
・Ratboys
こちらもつい先日に新作『Printer's Devil』をリリース。これも彼らの最高傑作でしょう。心地よく歪んだギターが響く、メロメロになるようなギターポップ。ティーンエイジファンクラブなんかが好きな人向け。ちなみに、来日ツアーで名古屋に来てくれた時に見たことあるけど、結構演奏してる姿は激しい。特にギターのほうは、ザックワイルドみたいに長髪を振り乱す。かっこいい。再来日を熱望してる。
・Dogleg
これは、かなりエモリバイバルをよく聞く人の中で今話題のバンド。新譜『Melee』をつい先日リリース。硬派な感じがする。エモリバイバルの中で、最近はなかなか硬派なエモをならすバンドがいないんだけれど、これはそういうバンド。ポップさなんかいらない、マスロックみたいなわちゃわちゃしたいのはイヤ、そんな人に。
④次に聞くといいエモリバイバルバンド
とりあえず入門向けなものはわかったけど、どう広げていけばいいかというところで、先にあげた5つのバンドについて、次の行き先を書いていきます。
・Into it, Over it から広げていきたい人
ウィーザーみたいな泣き感があるバンドということで、まずAnnabelを勧めます。アルバムは3枚しかないので、どれから入っても大丈夫。
ちょっとだけ毛色は違うだろうけど、Pet Symmetryなんかもいいかも。今年の来日が決まってて、もうすぐなんだけど、コロナウイルスが猛威を振るう現在がどうなるか本当に不安。「これこれ!」って言いたくなるような、エモらしいエモ。90年代とかのバンドが好きな往年のエモファンでも楽しめるサウンド。
・ttngから広げていきたい人
イギリスにttngがいるなら、アメリカで対をなす存在として、Tiny Moving Partsがいます。2月に全エモファン待望の初来日ツアーがあり、各地で大盛況。自分も名古屋編に行って、優勝してきました。100点満点で言うと、8兆点つけれるくらいの出来。とりあえず、アルバムは昨年リリースの『Breathe』もいいけど、『Swell』からがおすすめ。
あと、ttngと同じ系譜にあるバンドとして日本人として外せないのは、中国のバンド、Chinese Football。アジアで最高のエモリバイバルバンドでいいんじゃないだろうか。音楽はもちろん素晴らしいが、とにかくすさまじい数のライブをこなすし、去年は日本ツアーをして、新譜『Continue?』も出した。もちろん名古屋に来た時に見に行った。あのアメリカンフットボールともライブをしてる。日本人というか、アジア人として彼らを応援せざるを得ない。
昨年奇跡の再結成と来日ツアーをした、Snowingも必聴。先日Cap'n Jazzについての記事が出前寿司Recordsで書かれたけれど、まさにCap'n Jazzを感じるような、ショートチューンを立て続けに放ちながら蒼く駆け抜ける、マスでエモいロック。アルバムはわずか一枚しか出さなかったけど、エモリバイバルのシーンにとてつもない影響を与えたレジェンド。そのアルバム、『I Could Do Whatever I Wanted If I Wanted』自体は入手が難しいかもしれないけど、アルバムを含めた全音源集『Everything』なら、がんばったら見つけられるし、最初に挙げたそれぞれのお店のどこかで買えると思う。
・今が旬なエモバンドから広げていきたい人
Pinegroveから広げるなら、Foxingの『Nearer My God』を絶対聞いてほしい。外国のとあるサイトが選んだ、2010年代のエモアルバムランキングにて堂々の第二位。にもかかわらず、知名度が低すぎる。Death Cab For Cutieの元メンバー、クリスがこのアルバムに携わってて、デスキャブの繊細さにミューズの静と動のコントラストとクイーンの煌びやかなメロが乗っかったような大・大・大傑作。この十年で最も過小評価されてるオルタナのアルバム。エモとか関係なく、もっとたくさんの人に見つかってもいいはず。
Ratboysから広げるなら、Tigers Jawとか、Slingshot Dakotaがいいと思う。特にSlingshot Dakota は夏に来日が決まったので、まさに今聞くにはちょうどいいと思う。Tigers Jawもカッコいいバンドで、来日で大阪のコンパスに来てくれた時は見に行った。みんな飛び跳ねてた。
Doglegから広げるなら、イチオシはHolding Patterns。圧倒的に硬派。誰にも媚びない、キレキレのナイフみたいな切れ味。昨年、stiffslackから1stアルバム『Endless』をリリースしたばかりだから、これも簡単に追える。エモ好きに伝わるように言うと、JAWBOXが一番近い感じ。
⑤エモリバイバルをより深く知るためのバンド
エモリバイバルの深すぎる世界を知るための入り口となる音楽を挙げていきます。
・The world is a beautiful place & I am no longer afraid to die
これより長い文字数のバンドがいたら教えてください。最初にエモリバイバルの二大バンドとしてInto it, Over itとttngを紹介したけど、その二つのバンドと同じくらい、エモリバイバルという音楽を代表するバンド。現行で活動中。
音響系ポストロック的なアプローチもできる、大所帯バンド。現在までに3枚のアルバムを出してる。今年になって、過去の曲をコンパイルしたアルバムもリリースしてるので、割と旬な感じもある。深く知るためには絶対押さえてほしいバンド。
・Empire! Empire! (I was a lonley estate)
惜しくも既に活動をやめてしまっているが、エモリバイバルにおいて確かな爪痕を残したバンド。エモのレジェンド、ミネラルを彷彿とさせるような、美メロの応酬を楽しませてくれる素晴らしいバンド。ボーカルのキースはまた音楽活動を開始みたいで、もしかしたらキースの来日はあるかもしれない。
このバンドも2枚のアルバムと、stiffslackからリリースした未発表音源集があるだけなので、押さえやすい。けれども、このバンドは確実のエモリバイバルの中心にいたと思う。
入門ということで今でも活動してるバンドを優先的に挙げてるけど、多分一番エモリバイバル入門には向いてるバンド。
・You Blew it!
これも、活動を休止してしまっているバンド。ただ、アメリカンフットボールが3rdアルバムを出した時に、活動休止中にも拘わらず一緒にツアーをしたから、まだ観れる可能性があると信じたい。アルバムは3枚だから、これも押さえやすい。
ウィーザーみたいな泣きの効いたグッドメロディが楽しめるバンドだと個人的には思ってる。実際、ウィーザーの曲をカバーしたEPを出すぐらいだし。
真っ向から切ないロックを聞きたい人に手に取ってほしい。
・Algernon Cadwallader
活動してないバンドがまた出てきてしまって申し訳ないが、エモリバイバルを話す上でこのバンドも絶対に絶対に欠かせない。ttng、snowingと共に、今のエモリバイバルの流行りを作り出したバンド。むしろ、このバンドこそがエモリバイバルの始まりと言ってもいいかもしれない。
アルバムは2枚だけで、長らく廃盤になっていたが、去年、未発表音源集も含めてようやく再発されたので、手に入れやすくなったと思う。エモリバイバルを原点から押さえたいのであれば、ここからがいいと思う。
⑥個人的な推し
ここからは完全に自分の趣味。今まで挙げてるバンドも自分の趣味丸出しだけど。
・Magnet School
Shiner、the life and times を彷彿とさせるようなバンド。適度な轟音を混ぜつつ、ドラマチックなコントラストが楽しめる。名付けるなら「スペース・エモ」。シューゲイザー的なエモといえば、NothingやCloakroomとかを考える人がいると思うけど、そういう人にも十分受け入れられるであろう音楽。
・Haal
これもMagnet Schoolと同じタイプ。Magnet Schoolは2018年に来日があったけど、彼らも来てほしい。Magnet Scoolよりはダークで、ハードコアやグランジの影が濃い印象がある。
・Beach Slang
エモリバイバルではないと思うけど。イチオシ。最近ドハマりしてしまった。名門Polyvinylからアルバムを2枚だして、今年はBridge Nine Recordsから新作『The Deadbeat Bang of Heartbreak City』を発表。今が旬。
エモ・ガレージ・シューゲイザー・グラムロック、いろんなものが混ざった、煌びやかで最高に爽やかなロックだ。
・Pool Kids
女性ボーカルでマスロック感のあるエモ。ただ、他のその手のバンドよりも、静と動のコントラストがはっきりしてると思う。こちらもイチオシ。今回挙げた自分の推しバンドの中では一番、エモリバイバルらしいエモバンド。
⑦まとめ
いかがだったでしょうか。2010年代が終わって早くも3か月が経とうとしてる。エモリバイバルはとどまることなく10年を駆け抜けた。これからの10年を楽しむためにも、この記事が参考になることを願います。
最後に、フガジのイアンマッケイのいつか言ったというこの言葉を。
『エモーシャルじゃない音楽なんてないんだ』
エモいと感じたもの、それが貴方のエモだ。
(文:ジュン)
「日本ロック史における"史観"」について
日本のロック史におけるその"史観"となりうるアーチストに関しての意見ないし見解は、暫し人によって分かれてしまうことがある。そしてその大半がGS(グループ・サウンズ)における第一人者たるザ・スパイダースか、後にそのメンバーらが日本のポップミュージックに多大なる影響を与えたはっぴいえんど、そして自作自演によるその先鋭的な視線をアングラに見出だして語られるジャックスら辺りが代表格として祭り上げられているように見える。
そもそも「日本のロック史」という多量の歴史に対して、アーチストという一個体の単位での解釈や見解ではあまりにも象徴的かつ記号的で、アーカイブとしては歪曲なものになるのではなかろうかという疑問が生まれる。同時にそれらの象徴的かつ記号的な解釈や見解を論点のポイントとして幾つか配置することにより、この「日本のロック史における"史観"」の正体を照射し導くことができる仕組みが浮き彫りとなる表裏一体の事実があることにも気付く。これらの事実に基づいた俺の拙いながらの持論を今回はここに記したいと思う。
「日本のロック史における"史観"」の前に、日本のロックのルーツとは何なのかを書かなくてはならない。筆者の知る限り、日本最古のロックムーブメントは50年代中期~60年代にかけて起きた「和製ロカビリーブーム」に他ならない。しかし、この時代の蓄音機の普及率が壁となり全国区的なムーブメントとはならず、東京などの一部の都市生活を営む者たちのヒップな流行としてこのムーブメントはあったように思う。故に「日本のロック史における"史観"」とするにはあまりにその視野と規模が"点"で集約され過ぎており、後列のアーチストらの多面的な意味での多様性に対応できずに理論としての劣化も早く尚且つ弱い。同時並列的に起きていた「和製カントリーブーム」にも同じ事は言える。
しかし、この上記二つのムーブメントから内田裕也やミッキー・カーチスが登場し、後に「GSブーム」に対抗するためにバンドを結成しており、ザ・スパイダースの一員となるムッシュことかまやつひろしもカントリー畑の人間だった。
GS(グループ・サウンズ)の登場は画期的ではあった。バンドという形式でロックをやった日本最古のムーブメントは間違いなくこのGSである。アイドルのような人気を誇り、「バンド形式のロックというポップス」の存在を全国区に知らしめたその功績は大きい。しかし、このGSですら「日本のロック史における"史観"」とはなり得ない。それはGSの体質そのものに理由がある。もしGS"のみ"が「日本のロック史における"史観"」とするのならば、あまりにも日本のロックは軽薄でトレンド・ウォッチャーの"カモ"で子供のオモチャにしかならないものとなるからだ。GSが60年代を越えることができなかったのは、トレンドのポップカルチャーとしての消耗品でもあったからだ。
だからこそ、アングラの文学性や演劇然とした重厚さが必要不可欠なエレメントとなりうるのだ。アングラにこそ磁場があり、アングラというポジションにおける気骨と精神をロックのそれと重ね合わせたものからの発信があり、それが日本のロックに陰影を与えた。ロックの内省的な精神性というシリアスな面持ちの表現において、アングラの劇的な手法こそが今日までロックを"仕掛ける側"に位置付けた最大の理由でもある。しかし、それでもこのアングラからのロック"のみ"の「日本のロック史における"史観"」だとするならばどうだろうか。ロックにおける拡散力において、アングラというジャンルはその体質面において実に鈍い動きにならざるを得ないのだ。局地的ともいえる爆震地を"点"で発生させることはできるが、GSのような全国区レベルの人間を取り込む事ができないのだ。結局のところ「和製ロカビリーブーム」のような視野と規模の"点"の集約による脆弱な理論の高速の劣化に陥ってしまうこととなる。
では、フローラルというGSバンドからエイプリル・フールというバンドとなりそこから発展し、尚且つ作詞面においてアングラ勢のジャックスからの影響もあった、はっぴいえんどというバンドは単体で「史観」となり得るのか。今回の記事を書く上で上記の「GS史観」と「アングラ史観」を検証し思考したのは、この二つの「史観」が「はっぴいえんど史観」に対するカウンターとして検証と思考されることに対する、そのカウンターとしてのポジションに更に対したアンチテーゼとして独立した検証と思考を立脚させるために書いたものだ。「はっぴいえんど史観」というものをこの記事上で検証と思考することでこの記事はやっと"本題"へと入ったこととなる。
はっぴいえんどが日本のロック史、ポップス史に与えた影響は実に強大なものである。YMOから松田聖子までという例え方をすれば、最短でその範疇の咀嚼と理解が出来る筈だ。はっぴいえんどの登場無くして日本のロックとポップスは洒脱なセンスを手にすることは出来なかった。ロックにおけるラディカルな衝動を外に発したGSと内に発したアングラの二つに足りなかった思想的なものを、建設的なものへと移行できる知性に裏付けされた選民性こそがはっぴいえんどの洒脱なセンスの正体だ。しかし、このはっぴいえんどを持ってしても単体で「日本のロック史における"史観"」とはなり得ないのだ。はっぴいえんどのその洒脱なセンスを理解するには地方の人々とではあまりに知的文化の格差がある。彼らの代表作「風街ろまん」はあくまでも23区内の空想なのだ。ロックが都会にあることが標準としてあるはっぴいえんどでは「史観」として広がるべき普遍性に欠いているのだ。
結局のところ「日本のロック史における"史観"」とすべき正論とは何なのか。上記三点の検証と思考が全てであると俺は改めて主張する。即ちまとめてしまうならば「GSの拡散力」と「アングラの磁場」そして「はっぴいえんどの洒脱さ」のどれが一つ欠けても日本のロックは今日までの発展は成し得なかった。個々に弱点と呼べる要素を孕みながら、それを補う要素も内包して三者三様にあることが、日本のロック史の海外の何に似ているようで似ていない独自のロック文化を作り上げたと言っても過言ではない筈だ。「日本のロック史における"史観"」という一つの点を照射し導くには、上記で重々に記した三点こそが必要不可欠なるエレメントなのだ。日本のロックがまだ手探りだった時代に発生した個々の存在は、姿や形を変えても尚も確実に後列に強い影響を及ぼしているのも事実だ。日本のロックには確かな歴史があり、そこには改めるべき強固な「史観」が存在する。それをここに記す。
(文:Dammit)
地獄の門への旅路〜BAROQUE「SIN DIVISION」(2020)
はじめに
皆さんどうも。アキオです。
個人的に色々紹介したいのですが、まずはより多くの人に広まって欲しいこちらから。
BAROQUE「SIN DIVISION」(2020)
I. RITUAL
II. END VISION
III. SIN QUALIA
IV. REDME
V. FALLEN VENUS
VI. SUCCUBUS
VII. SABBAT
VIII. GLOOMY LILITH
IX. FROZEN ABYSS
X. COCYTUS
XI. I LUCIFER
XII. INFERNO
Vo.怜、Gt.圭の2人組になってから3枚目のアルバムである。
今作は、というか2人組になってからの3枚はすべてコンセプトアルバムだが、圭さんによると
「PLANETARY SECRET=哲学的な生命の誕生、PUER ET PUELLA=現実的な人の一生を表現、
SIN DIVISION=罪の境界線、人の罪や変態的な欲望、地獄、悪魔とは?といった、現実の中でも人が普段は隠しているようなものがテーマ」
ということらしい(PLANETARY SECRETは前々作、PUER ET PUELLAは前作のアルバム)。
今作のアルバムは前作「PUER ET PUELLA」からおよそ半年という短いスパンでリリースされており、そのテーマも前作と今作では光と闇…分かりやすく対照的だ。
そして、このアルバムは最後の曲「INFERNO」を現在地として、それまでの曲を通して一人の人間が闇に堕ちる過程を表しているという。
闇を表現した「SIN DIVISION」にはそれまでのBAROQUEには無かったクラブミュージック、ラーガの要素が盛り込まれ、基本的に暗く妖しい音楽、言うなればどことなく4ADレーベルのような雰囲気が漂っている。
ただ、その音像は今までのアルバムと一変しているわけではなく、むしろ完全な地続きにある。
それこそが、光と闇は表裏一体であることを端的に表しているし、そのすべてがBAROQUEの要素であることも感じ取れる。
そして、ダークなコンセプチュアルの中にも疾走感あふれるロックチューンからジャジーなテイストの曲、アンビエントや民族音楽など決してコンセプトに縛られすぎない幅広さも見せる。
実はこれ、ポップなパブリックイメージがあった両人のルーツにもダークな音楽があることが伺える、初めての作品である(カタカナや小文字英語表記の頃含め、おそらくなかった)。
そう思うとこのアルバムは
「初期のヴィジュアル系に通じるプリミティブな暗さも実はBAROQUEには血として流れ、その上でBAROQUEの持ち味である表現の幅広さも組み込まれたある意味挑戦的な作品の証左」
となることは間違いないだろう。
それにしても2人になってからの3枚でBAROQUEとしての高いクオリティで美意識や方向性が示せたのは流石だし、アルバム毎にあらゆる面で、特に歌唱やギターのフレーズセンスで目覚ましい進化が見られるのも素晴らしいことである。
最後に
短めの文章になりましたが、この先のBAROQUEがどうなるのか僕は楽しみです。なかなかハイクオリティのアルバムを連発してくれているので…。
昔の彼らしか知らない人も、THE NOVEMBERSとの対バンで知った人たちも、普段ヴィジュアル系を聞かない人も…
とにかく音楽に興味のある人はみんな聞いてほしいです。そのくらいにはおすすめです。
(できればサブスクがあればいいのだけど…もしこの記事を見て興味があればフィジカルでもぜひ…!)
ピーキー・オヤナギが語るジャニーズ名曲選③少年隊/仮面舞踏会
今回紹介するのは少年隊の稀代の名曲にしてデビュー曲、仮面舞踏会です。
1985年12月12日リリース。
第28回日本レコード大賞・最優秀新人賞
'86FNS歌謡祭・最優秀新人賞
第17回日本歌謡大賞・優秀放送音楽新人賞
など、
デビュー曲ながらオリコンチャートでいきなり第1位を獲得し、1986年のオリコン年間シングル売り上げでは第3位。現時点で少年隊自身最大のセールス・ヒット曲となりました。当時は各賞を狙いこの時期でのデビューが多かったようです。
作詞を担当したちあき哲也さんは矢沢永吉の楽曲作詞も多く手がけており(止まらないHa~Haなど)、矢沢ファンである錦織がちあきの起用を希望したものであるということです。ちなみに曲中のスタンドマイクのパフォーマンスも矢沢永吉の影響が色濃いようです。
余談ではありますが、昔ジャニーズの合宿所と同じ建物内に矢沢永吉の事務所があり、かつて近藤真彦が矢沢のファンで楽曲提供のオファーを出し、その際に矢沢は『あなたのことよくテレビで拝見して、すごい素晴らしいし、本当にかっこいいと思う。あなたのこと好きです。あなたに最高の曲を作りたい。ただごめんね、最高の曲ができたら僕が歌いたいよね。』と断ったことも錦織さんは知っていたので、錦織さんは本人の楽曲提供ではなく矢沢永吉に提供している作詞家のちあき哲也に頼んだのだろうとも思います。そんな関係上、ジャニーズタレント(元を含む)に矢沢ファンが多く、錦織一清だけでなく、田原俊彦、近藤真彦、諸星和己、松岡昌宏、今井翼、山下智久、生田斗真らがファンとして知られています。
また当初は、イントロ部分の歌詞(Tonight ya ya ya・・・tear)が書かれていなかったのですが、錦織一清のアイデアにより歌詞が付け加えられたらしいです。錦織さんのセンスがすごい。何者なんだ貴方は!
ちなみに錦織さんはジャニーさんから「とりあえずこれ、楽曲としては成立している。とりあえずいい曲にはなっている。ここから何かが必要だ」「なにか仕掛けがほしい」と言われたそうで、そこから考えたそうです。
さて、とりあえずこちらをご覧ください。
個人的にこの「夜のヒットスタジオ」の映像は神がかっております。
見ていただければ分かるかと思いますがダンスのキレが半端じゃない。
特に最初の錦織さんの片手バク転からの歌唱は度肝を抜かれました。各自バク転バク宙が出来る少年隊の強みです。息つく暇すら瞬きすら許さないであろうダンスの連続です。
東山さんのターンも美しく、ジャニーズのダンスの基本であるバレエ、ジャズダンス、ヒップポップダンスを極めた少年隊の凄さがこれでもかと詰め込まれたものであります。(ちなみに少年隊はマイケル・ジャクソンの振付師だったマイケル・ピータースの指導を受けたり、海外でもトレーニングを積んでいる。)
一曲三分ちょっとの間に展開されるミュージカルです。その後開始される少年隊主演ミュージカル「PLAYZONE」は必然だったと言えるでしょう。
Aメロ
SHYな言い訳 仮面でかくして
踊ろ踊ろかりそめの一夜を
きっとお前もなやめる聖母
棄てな棄てな まじなプライドを今は
と、ここから
迷いこんだ幻想(イリュージョン)時を止めた楽園
むきに眉をひそめてもこころうらはら
こんなにも感じているじゃないか
このBメロへの流れは「迷い込んだ幻想(イリュージョン)〜時を止めた楽園」の重なりが大好きです。甘いメロディ。筒美京平先生半端ない。
あと歌謡曲でもありつつベースがディスコミュージックなので、ノリの良いダンスミュージックでもある。これがツボです。トムジョーンズの「ラヴ・ミー・トゥナイト」を大胆に導入しています。
編曲は船山基紀さんなのでアレンジもお手の物でしょう。ちなみに2人は田原俊彦の抱きしめてTonightでも「ラヴ・ミー・トゥナイト」をパクってます(笑)
WAKE UP! DESIRE (好きさおまえが)
LIGHT UP! YOUR FIRE (好きさ死ぬほど)
目眩くってくれ PLEASEPLEASEPLEASE
WAKE UP! DESIRE (I WANT YOUNONONO)
LIGHT UP! MY FIRE (I LOVE YOUNONONO)
ゆれて魔性のリズム
仮面舞踏会を比喩表現にした男女の一夜限りの夜遊び。どことなく少女漫画的でありつつアダルトな怪しさも携えていて、大人に憧れる少女達を刺激する幻想的な浮世離れした歌詞は、何処か別の場所に連れ去ってくれそうな三人の王子様達にはぴったりです。あと個人的には「いっそ X・T・C 俺と X・T・C 強く強く」の部分が好きです。X・T・Cと書いてエクスタシーと読ませるわけですから。この時代の歌謡曲らしさもある。それまでのたのきんやシブがき隊とは違う大人びたアイドルによる新機軸であったと思います。
ちなみに生前のジャニー喜多川氏は「自ら作ったグループの中で最高傑作は?」という国分太一(TOKIO)さんの質問に「少年隊だよ」と食い気味で答えられたとのことで既にジャニーズの完成系は80年代に誕生していたということになる。デビュー曲でこの完成度を達成したジャニーズは後にも先にもいないだろう。
(文:ピーキー・オヤナギ)
CAP'N JAZZから辿る90年代EMO
EMOとは何か。
EMOとは生き様だ。と言いたいがそれは答えではないだろう。
EMOとはPUNKという大きなジャンルの派生である。
もっと細かく言えば、80年代後半ワシントンD.Cを中心に広がったUSハードコアが起源となり、90年代にそれらは「EMO」と呼ばれるようになった。
それだけではよくわからないだろう。
今回は90年代EMOを語る上で欠かせないバンドと、そのバンドの解散後メンバーが組んだバンドについて書こうと思う。
彼らの辿った道を辿れば、EMOがわかるかもしれない。
そのバンドとは
CAP'N JAZZ
メンバー:
Tim Kinsella(ティム・キンセラ)※兄
Mike Kinsella(マイク・キンセラ)※弟
Sam Zurick(サム・ズーリック)
Victor Villarreal(ビクター・ビラリール)
Davey von Bohlen(デイヴィー・フォン・ボーレン)
※キンセラ2人は兄弟。
1989年結成。
1995年に解散しているが2010年と2017年にリユニオンしている。
そしておそらくそろそろまた復活するのでは。。?
2007年リユニオン時のライブ映像。かっこいい。
結成当時はまだEMOという言葉もなかったため感覚的にはハードコアに近いかも。
ティム・キンセラの悲壮感強めな絶叫に近い歌い方は後のEMOを生み出したのではないだろうか。
この頃キンセラ兄弟はまだ10代前半・・・末恐ろしい・・・
1stアルバムとEPが一緒になったディスコグラフィー『ANALPHABETAPOLOTHOLOGY』は1枚は持っておきたいアルバム。
caP'n Jazz Analphabetapolothology (full album)
CAP'N JAZZ解散後メンバーは様々なバンドを結成する。
それが後にEMO/Post Rock界に多大な影響を与えることになる。
Joan of Arc(ジョーン・オブ・アーク)
CAP'N JAZZ解散後キンセラ兄弟を中心に結成。なんと今でもメンバーを変えながら精力的に活動している。(弟のマイクキンセラはいつの間にか脱退)
CAP'N JAZZの荒々しさはなくなり、演奏はポップ。
ティム・キンセラのヘロヘロボイスがくせになる。
アコースティック楽器、民族楽器、シンセサイザー、なんでも取り入れながら常に新しい音楽を生み出している。
奇才ティム・キンセラを代表するバンド。近年はさらに実験音楽さが増してきた。
1stの「A Portable Model Of」
Joan of Arc - A Portable Model Of... (Full)
11枚目の「Boo! Human 」がおすすめ
Joan of Arc - If There Was a Time #1 [OFFICAL AUDIO]
Make Believe
ティム・キンセラとCAP'N JAZZのギター、サム・ズーリックを中心に結成。
当初はJoan of ArcのツアーバンドVer.として作られたがツアー終了後にアルバムを制作しMake Believe名義でリリース。
印象としてはJoan of Arcにポストロック、シューゲイズを加えた感じだろうか。
難解さの中にポップ、ユーモアもちゃんと混じっており、そこがキンセラらしさだと思う。
American Football
CAP'N JAZZのドラム、マイク・キンセラがギターボーカルを務める。
EMOを語る上では、なくてはならないバンドだろう。
98年にEP、99年にアルバムを1枚ずつリリースするも解散。
しかしその大きすぎる爪痕は現在まで多くのアーティストに影響を与えた。
1st Albumに収録されたNever Meantはすべての音楽ファンの心をつかむEMOアンセムとなっている。
14年にまさかのリユニオンを果たし現在まで2枚のアルバムと2枚のEPをリリースしている。
ちなみに現在ベースを弾いているネイト・キンセラはキンセラ兄弟の従弟。どうなってるんだこの家系。。
American Football - Never Meant "Live At Webster Hall, NYC, NY"
owen
マイク・キンセラのソロプロジェクト。
American Footballをさらに歌に昇華させ、フォーク/インディーロックファンすらも射程に捕らえている。
儚く静かに語るように歌うowenは演奏もシンプルなアコギ1本などが多いのだが、チューニングはやはり変則的なものが多くさすがキンセラといったところか。
好きなアルバムはたくさんあるのだが1番は『I Do Perceive』。
Owen - Who Found Whose Hair In Whose Bed
正直キンセラ兄弟についてはここでは書き足りないのでまたいつか別の記事でかけたらと思う。
Ghosts And Vodka
サム・ズーリックとビクター・ビラリールが所属するEMO/Math Rockバンド。
1999年~2001年という短い期間にアルバムとしては1枚しかリリースしていないがその人気は絶大で、日本のバンドtoeなども彼らに強く影響を受けている。
唯一のアルバムとEPをまとめたディスコグラフィー『Addicts And Drunks 』は一家に1枚の名盤。
Ghosts And Vodka- Addicts and Drunks (2003- Full Album)
2曲目のイントロは世界で5本の指に入るかっこよさだと思う。
Owls
デイヴィー・フォン・ボーレン以外のCAP'N JAZZのメンバー4人で結成。
2001年に1stアルバムを発売したかと思えば解散。
思えばEMOバンドの短命説はCAP'N JAZZ界隈のせいでは?
そして2012年に奇跡の活動再開。
2014年に2ndアルバム『two』をリリース。10年でティムの歌がかなり上手くなっている。
Joan of Arcにマスロックを織り交ぜたテイスト。
それぞれ違うバンドを経験し集まるべき時が来て結成したような、ある意味CAP'N JAZZの正統続編だろう。
Promise Ring
Owlsに参加しなかったデイヴィーだが彼もまたEMOの歴史に名を刻むバンドを結成している。
それがPromise Ringだ。
こちらはキンセラ兄弟とは違いシンプルでポップ。正統派EMO PUNKとなっている。
歌詞も率直で若者の間でカルト的な人気を博す。
2002年に解散しているが2度ほど復活している(EMOバンドあるある)。
4枚のアルバムを出しておりどれも名作だが、必聴は2作目の『Nothing Feels Good』だろう。
Promise RingのボーカルのデイヴィーとドラムのダンがPromise Ring解散後に結成。
キーボードやアコースティックギターを用いてさらにポップに進化。
個人的に好きなアルバムは2nd『WE, THE VEHICLES』
EMOと言っても一言では表せないほどその幅は広がっている。
今回は一つのバンドとその派生から書いたが、90年代を代表するEMOバンドはまだまだたくさんある。
CAP'N JAZZという未完成のバンドから始まった一つの壮大なファミリー・ツリーですらこれで終わりではない。
(まだ紹介できてないバンドもたくさんある。。。)
そしてさらに2020年になった今でも彼らの意志を受け継ぎ活動するバンドが多い。
EMOは静かに、だが確かに次の世代にリバイバルされている。
EMOとはなにか。
生き様だろうと、声に出してみる。
(文:ゴセキユウタ)
血みどろクレイジーのダーティー・ダーク・ヒーロー「チェンソーマン」を読め!!
"そこ"に関しては個人的な感覚の話であって、故に肯定も否定もできなければされるつもりもない話なのだけれども、雑で語弊もあるやもしれない、それでも分かりやすい言い回しをするところの所謂「ロックな漫画」というものに対して俺が考えるもの、ロックを感じるものというのは、実際にバンドが出てきて演奏して様々なバンド名や音楽の知識が散りばめてあるようなものではなかったりする。
ざっとどんな作品にロックを感じてきたのかと言えば「あしたのジョー」であったり「デビルマン」であったり、山下ユタカ作品や平口広美の一世一代の未完の大傑作「バイオレンス・トーキョー」であったり、昨今一部で熱狂的な話題と磁場を放つ斉藤潤一郎の「死都調布」であったりと自分にとっての「ロックな漫画」とは"そういうもの"なのである。
言葉にして言うなれば「如何に自分のロックを貫かれるか」である。とにかく「自分のロックが貫かれたか否か」、実に頭の悪い言い回しやもしれないがこれに尽きる。
そんな俺が久しぶり「貫かれた」漫画が、ここで紹介する現在も週刊少年ジャンプで連載中の藤本タツキの「チェンソーマン」である。
藤本タツキは2013年に読み切り作品「恋は盲目」でクラウン新人漫画賞佳作を受賞し翌年の2014年に「ジャンプSQ.19」に掲載される。そして紆余曲折があって2016年には「少年ジャンプ+」にて「ファイアパンチ」を連載、その衝撃的で壮大なストーリーからインターネットで話題と注目を集める。2018年には作品の連載が終了し、翌年の2019年より「週刊少年ジャンプ」にて「チェンソーマン」を連載開始する。
ちなみに上記の略歴にて紹介した「ファイアパンチ」も傑作なので是非とも読んでほしい。「一つの神話が連載されていた」という衝撃をまさに神話として追体験できる漫画作品だ。
話を本題の「チェンソーマン」に戻そう。先ずはあらすじ↓
『悪魔のポチタと共にデビルハンターとして暮らす少年・デンジ。借金返済のためにこき使われるド底辺の日々を過ごしていたところを、裏切りに合い殺されてしまう。だが、ポチタがその命と引き換えにデンジを「チェンソーの悪魔」として蘇らせる!敵を皆殺しにしたデンジはマキマに拾われ公安のデビルハンターとなるのだった。』(単行本より抜粋)
ポチタ(可愛いけれども悪魔)
デンジ(主人公)
マキマさん(公安対魔特異4課を取り仕切っている)
ポチタとデンジの「契約」のシーンは切ない名シーン……
俺がこの漫画の何に「貫かれた」のか、それは作中のアクション、バトル・シーン全編に芳醇に血生臭く散りばめられた、爽快なまでに突き抜けたB級スプラッター・ホラー要素てんこ盛りのハード・コア・バイオレンス描写に大きくかかる部分がある。
表現に対する規制がイビツにキツくなる一方の昨今に、かの超級メジャー誌「週刊少年ジャンプ」の連載においてここまで突き抜けたゴア表現を全面に押し出した作品を掲載することは実に危ういものだ。しかし、「チェンソーマン」はその辺の表現を上手くB級スプラッターホラー特有のケレン味を効かせてカバーしている。
それは主人公・デンジのバカなのだけれども憎めないキャラクターも要素の一つとして機能している。
彼は貧しさ故に無教養だが、その分だけ生き方が実にシンプルで欲望に誠実だ。そこに「チェンソーの悪魔」の力が加わり、降りかかる問題を文字通り切り開いて解決していくデンジの姿はネットによる情報過大やSNSでの謗り合い等で溢れ狂った社会とは無縁で、そんな"隙間だらけ"でシンプルなデンジのキャラクターや生き方は読者にすれば実に魅力的に映るのかもしれない。
また「チェンソーマン」で見逃してはならないのがそのキャラクターのデザインだ。実に暴力的で野蛮とも言える、スマートなデザイン性を無視したかような大胆さが思わず笑える程にカッコいいのだ。
この一歩間違えればギャグになるような際どいカッコ良さというのは、実にロックにおけるパンクやハード・コアにも通ずるものがあるのではないか。
例えば日本の「殺害塩化ビニール」系であったり
ホラーパンクの元祖MISFITSであったり
B級スプラッター・ホラーのケレン味とロックンロールにおけるケレン味にはこういった共通点がある。より分かりやすく例を出すのであればKISSやマリリン・マンソン、更には聖飢魔IIこそがそれと言える。
B級スプラッター・ホラーにせよロックンロールにせよ、その仰々しさにこそ面白味がある。「チェンソーマン」にはそれらと同じ仰々しさがある。だからこそ血みどろのスプラッター・シーンがあっても後を引くことなくある種の作品としての清潔を保っていられるのだ。
また、「チェンソーマン」はなんとも魅力的なキャラクターが多い。例えばレゼという女性キャラとデンジの何とも甘酸っぱい恋愛模様等は作品の中でもかなりの読み応えがあったパートだった。しかし、ラブコメのようなシチュエーションにも耐えうるキャラクターを藤本タツキはこの作品で平然と戦わせて殺していく。実に憎いがその作者の冷血なまでの冷静さが作品をソリッドにかつタイトにしているのは間違いない。
また「ファイアパンチ」の頃と比べて週刊連載用に狙いを定めたような作画になったが、藤本タツキの描く絵の動きは雑なようで精密だ。今後連載を作品を重ねる度に進化していくであろう作画も実に楽しみな部分でもある。
個人的にイチオシのキャラクターについても書こう。
なんと言ってもパワーである。差別主義で嘘つきで人のポイントカードを勝手に使うという最低なキャラ、「血の悪魔」の魔人ことパワーがなんとも好きだ。藤本タツキは本当にキャラクターが上手い。何気ない会話等も実に味わい深いシーンがある。けれどもそんな藤本タツキの描くひたすら暴走するキャラクターのパワーが大好きだ。
卑怯臭くて小物感ある発言をするパワー
角が増えたパワー
パパパパパワー!!
いかがだろうか、こんなキャラである……
最後に勝手に何となくキャラクターをイメージした曲を何曲か貼っておこう。
レゼ(ボンバーガール)
パワー
デンジ(チェンソーマン)
近年「週刊少年ジャンプ」という雑誌自体が変化したと言われている。その変化に伴い人気を博した漫画作品に「鬼滅の刃」があり、そして今回ここで紹介した「チェンソーマン」があるとも言われている。この記事を読んで、とにかく一人でも「チェンソーマン」という作品に興味を示してくれたら幸いだ。
(文:Dammit)