出前寿司Records

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血みどろクレイジーのダーティー・ダーク・ヒーロー「チェンソーマン」を読め!!

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"そこ"に関しては個人的な感覚の話であって、故に肯定も否定もできなければされるつもりもない話なのだけれども、雑で語弊もあるやもしれない、それでも分かりやすい言い回しをするところの所謂「ロックな漫画」というものに対して俺が考えるもの、ロックを感じるものというのは、実際にバンドが出てきて演奏して様々なバンド名や音楽の知識が散りばめてあるようなものではなかったりする。


ざっとどんな作品にロックを感じてきたのかと言えば「あしたのジョー」であったり「デビルマン」であったり、山下ユタカ作品や平口広美の一世一代の未完の大傑作「バイオレンス・トーキョー」であったり、昨今一部で熱狂的な話題と磁場を放つ斉藤潤一郎の「死都調布」であったりと自分にとっての「ロックな漫画」とは"そういうもの"なのである。


言葉にして言うなれば「如何に自分のロックを貫かれるか」である。とにかく「自分のロックが貫かれたか否か」、実に頭の悪い言い回しやもしれないがこれに尽きる。


そんな俺が久しぶり「貫かれた」漫画が、ここで紹介する現在も週刊少年ジャンプで連載中の藤本タツキの「チェンソーマン」である。


藤本タツキは2013年に読み切り作品「恋は盲目」でクラウン新人漫画賞佳作を受賞し翌年の2014年に「ジャンプSQ.19」に掲載される。そして紆余曲折があって2016年には「少年ジャンプ+」にて「ファイアパンチ」を連載、その衝撃的で壮大なストーリーからインターネットで話題と注目を集める。2018年には作品の連載が終了し、翌年の2019年より「週刊少年ジャンプ」にて「チェンソーマン」を連載開始する。


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ちなみに上記の略歴にて紹介した「ファイアパンチ」も傑作なので是非とも読んでほしい。「一つの神話が連載されていた」という衝撃をまさに神話として追体験できる漫画作品だ。


話を本題の「チェンソーマン」に戻そう。先ずはあらすじ↓
『悪魔のポチタと共にデビルハンターとして暮らす少年・デンジ。借金返済のためにこき使われるド底辺の日々を過ごしていたところを、裏切りに合い殺されてしまう。だが、ポチタがその命と引き換えにデンジを「チェンソーの悪魔」として蘇らせる!敵を皆殺しにしたデンジはマキマに拾われ公安のデビルハンターとなるのだった。』(単行本より抜粋)


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ポチタ(可愛いけれども悪魔)


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デンジ(主人公)


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マキマさん(公安対魔特異4課を取り仕切っている)


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ポチタとデンジの「契約」のシーンは切ない名シーン……


俺がこの漫画の何に「貫かれた」のか、それは作中のアクション、バトル・シーン全編に芳醇に血生臭く散りばめられた、爽快なまでに突き抜けたB級スプラッター・ホラー要素てんこ盛りのハード・コア・バイオレンス描写に大きくかかる部分がある。


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表現に対する規制がイビツにキツくなる一方の昨今に、かの超級メジャー誌「週刊少年ジャンプ」の連載においてここまで突き抜けたゴア表現を全面に押し出した作品を掲載することは実に危ういものだ。しかし、「チェンソーマン」はその辺の表現を上手くB級スプラッターホラー特有のケレン味を効かせてカバーしている。


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それは主人公・デンジのバカなのだけれども憎めないキャラクターも要素の一つとして機能している。


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彼は貧しさ故に無教養だが、その分だけ生き方が実にシンプルで欲望に誠実だ。そこに「チェンソーの悪魔」の力が加わり、降りかかる問題を文字通り切り開いて解決していくデンジの姿はネットによる情報過大やSNSでの謗り合い等で溢れ狂った社会とは無縁で、そんな"隙間だらけ"でシンプルなデンジのキャラクターや生き方は読者にすれば実に魅力的に映るのかもしれない。


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また「チェンソーマン」で見逃してはならないのがそのキャラクターのデザインだ。実に暴力的で野蛮とも言える、スマートなデザイン性を無視したかような大胆さが思わず笑える程にカッコいいのだ。


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この一歩間違えればギャグになるような際どいカッコ良さというのは、実にロックにおけるパンクやハード・コアにも通ずるものがあるのではないか。


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例えば日本の「殺害塩化ビニール」系であったり


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ホラーパンクの元祖MISFITSであったり


B級スプラッター・ホラーのケレン味とロックンロールにおけるケレン味にはこういった共通点がある。より分かりやすく例を出すのであればKISSやマリリン・マンソン、更には聖飢魔IIこそがそれと言える。


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B級スプラッター・ホラーにせよロックンロールにせよ、その仰々しさにこそ面白味がある。「チェンソーマン」にはそれらと同じ仰々しさがある。だからこそ血みどろのスプラッター・シーンがあっても後を引くことなくある種の作品としての清潔を保っていられるのだ。


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また、「チェンソーマン」はなんとも魅力的なキャラクターが多い。例えばレゼという女性キャラとデンジの何とも甘酸っぱい恋愛模様等は作品の中でもかなりの読み応えがあったパートだった。しかし、ラブコメのようなシチュエーションにも耐えうるキャラクターを藤本タツキはこの作品で平然と戦わせて殺していく。実に憎いがその作者の冷血なまでの冷静さが作品をソリッドにかつタイトにしているのは間違いない。


また「ファイアパンチ」の頃と比べて週刊連載用に狙いを定めたような作画になったが、藤本タツキの描く絵の動きは雑なようで精密だ。今後連載を作品を重ねる度に進化していくであろう作画も実に楽しみな部分でもある。


個人的にイチオシのキャラクターについても書こう。


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なんと言ってもパワーである。差別主義で嘘つきで人のポイントカードを勝手に使うという最低なキャラ、「血の悪魔」の魔人ことパワーがなんとも好きだ。藤本タツキは本当にキャラクターが上手い。何気ない会話等も実に味わい深いシーンがある。けれどもそんな藤本タツキの描くひたすら暴走するキャラクターのパワーが大好きだ。


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卑怯臭くて小物感ある発言をするパワー


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角が増えたパワー


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パパパパパワー!!


いかがだろうか、こんなキャラである……


最後に勝手に何となくキャラクターをイメージした曲を何曲か貼っておこう。


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レゼ(ボンバーガール)


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パワー


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デンジ(チェンソーマン)


近年「週刊少年ジャンプ」という雑誌自体が変化したと言われている。その変化に伴い人気を博した漫画作品に「鬼滅の刃」があり、そして今回ここで紹介した「チェンソーマン」があるとも言われている。この記事を読んで、とにかく一人でも「チェンソーマン」という作品に興味を示してくれたら幸いだ。


(文:Dammit)