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一度で二度美味しいユニットのベストアルバム MYTH & ROID「MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID -」

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MYTH & ROID / MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID -


MYTH & ROIDは2015年にオーイマサヨシとのユニット「OxT」や様々なアーティストへの楽曲提供等も担当しているTom-H@ckと、同じく「OxT」でも仕事をしてきた作詞のhotaruとボーカルのMayuでデビューしたユニットだ。2017年にMayuはソロ活動のために"卒業"し、代わってKIHOWが加入し現在に至る。


アニメの主題歌等のタイアップを中心に作品を重ね、今年の3月に約5年の活動の中での歴代のシングル表題曲と挿入歌を全て収録した本作品「MUSEUM - THE BEST OF MYTH & ROID - 」をリリースした。


本ベストアルバム16曲のうち前半の8曲がMayuのボーカルによる楽曲で、後半の8曲がKIHOWによるボーカルの楽曲という、ユニットの歩んできた流れに沿ったアルバムの構成となっており、その音楽性は様々なジャンルを下地にしながらデジタル・サウンドを多様したロック・サウンドを軸としたものが一貫してあるが、プロデューサーのTom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニットという柔軟な形態が二人の異なった女性ボーカルを各々違った時期に有し、ベストアルバムでありながら独特なこの二層構造の形を生んだように思える。


アルバムは初代ボーカリストのMayu在籍時代のデビュー曲「L.L.L.」のラウドな一曲から始まる。どこか演歌のこぶしにも通ずるような力強さと同時に"艶歌"的なしなやかさも兼ね備えた歌唱がMayuの特徴だ。「STYX HELIX」や「Crazy Scary Holy Fantasy」等の楽曲にそんな魅力を見出だすことができるが、勿論その他の楽曲でもその個性は遺憾無く発揮されている。しかし、ボーカルとサウンドの強烈なまでの加工に溺れることなくその破壊力と鋼のしなやかさを堪能できる一曲を選ぶのならばやはり「JINGO JUNGLE」ではなかろうか。


そしてKIHOW加入後の楽曲が収められた後半にアルバムは突入する。広大で深く尚且つ"歌い込む"と言った感覚の喩えが似合うその歌唱は、時に繊細さに構築された軽やかさも含みつつも楽曲に負けない強さも持ち合わせている。「Rememberance」はそんなKIHOWの個性を実に高純度に反映させた仕上がりの一曲だ。シャッフルビートを軽やかに伝うように歌う「VORACITY」のようなロックナンバーをも"歌い込める"のも彼女の魅力の一つだが、個人的にはトラックの壮大さに添うように歌われる「Cracked Black」のような楽曲に彼女の最大の魅力と効力を感じる。


先にも書いた通りMYTH & ROIDはプロデューサーのTom-H@ckを中心としたコンテンポラリー・クリエイティブ・ユニットである。その独特の形態がフットワークの軽さに繋がり、サウンドもジャズやクラシックの教養が確かに感じられる表層上のラウドでデジタル・サウンドに加工されたロックやポップスは本質ではない。より深く聴き込んだ分だけ立体的に堪能できる作りの楽曲は素晴らしい品々ばかりと言える。


一つのユニットのベストアルバムでありながら異なった個性を持った二人の女性ボーカルを楽しむ事ができる異色な一枚となっている本作品をもって、是非ともMYTH & ROIDの魅力を皆さんにも知って欲しい。


最後に、そんな二人の女性ボーカルの個性と旨味を堪能できる二曲を紹介↓



"JINGO JUNGLE"



"Cracked Black"


デジタライズされたボーカルとサウンドを支えるのも根本には人間がある。そして、そこに載せられた普遍不動の価値と意味を示すhotaruの歌詞があることを最後の最後に記したい。


MYTH & ROIDは深い部分で実に魅力のあるユニットだ。


(文:Dammit)