どこにも行けない(くるり新譜「ソングライン」の感想とレビュー)
待ちに待ったくるりの新譜が発表された。「ソングライン」だ。
自分は今年の3月にツアーを見に行った。その時にはこの新譜に収録された曲を多く披露してくれた。どれも素晴らしく、期待値はとても高かった。
そしてそれはどんなアルバムだったのか。
アルバムの感想をまたしても僕の友人、あつみ君と振り返る。
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ジュン(以降、ジ):さて、出たね新譜
あつみ(以降、あ):出ましたね
ジ:線のツアーからずっと待ってたよ
あ:僕は最終日の東京公演が収録されたBD付のものを買ったので、雰囲気は味わいましたが、羨ましい。
ジ:ハイネケン(ソングラインはツアー中はこのタイトルだった)、ニュース、忘れないように、春を待つ が新譜に入ることはその時から分かってたしね。楽しみにしてたよ。とりあえず、ざっくりとした感想はどう?
あ:フォーキー、って表現したいところ。「その線は水平線」のような重いロックアルバムになるかなと思ってましたが、アコースティックな音像が耳に残りましたね。
ジ:ライブで岸田が「とっておきの曲」って言って「ニュース」をやってたから、俺はある程度この路線は読めてたかな。このアルバムはレコードで聴きたくなるね。Tokyo OPまでがA面。A面はソングラインとか、リスナーが楽しみにしてた曲をやって、B面は岸田が好きな曲を詰めた、って感じじゃないかな。
あ:レコードいいですね
ジ:それじゃ、また1曲ずつ感想を言っていこう
#1「その線は水平線」
あ:シングルは2月でしたねリリースは。何度も聞いてすっかり耳になじんでました。
ジ:まさかの1曲目だね。
あ:そうですね。「How To Go」みたいに最後になるんじゃないかと思ってました。
ジ:「How To Go」。そうか。これはきっと「How To Go」の答えなんだな。歌詞にもあるし。『どこにも行けないさ。どこにも行けないの』って。
あ:だとしたらいいですね。
ジ:「アンテナ」の最後に「How To Go」を歌ってから14年経って、アップグレードされたけど、くるりのロックはくるりのロックでしかなかった。どこにも行けなかった。なんて象徴かもね。歌詞とか印象のことは置いておいて、今までのくるりの中でも、かなり重い曲だよね。メロディは彼らの王道って感じだけど。
あ:今までと同じようでいて新しさがある、ってとこはこのアルバムを通して言えるかな。
ジ:重いギターが注目されがちだけど、裏で鳴ってる鍵盤がいいね。
あ:『流星群』って歌詞のところでキラキラした音があるのもいいですね。聴くごとに発見があります。
#2「landslide」
ジ:いきなりだけど、俺はこれが今作のベストだと思う。
あ:おお。それはなぜ?
ジ:なんでって言われると困るけどね。全部の音がアコースティックで綺麗だからかな。俺、「アンテナ」でも好きな曲が「グッドモーニング」だし。
あ:この曲のウッドベースが印象的でいいですね。最後の歌詞のコーラスもこれからの季節に合っていていいですね。
ジ:そうだよね。本当は俺って季節を感じさせるような曲って嫌いなんだよ。押し付けられてるみたいで。でもこれは・・・なんだろう。冬を待つ曲なのに季節を押し付けるようなところが全然なくて、それでも秋に聞きたくなるような。そういう俺のめんどくさいところにスポっって入る曲なんだよね。
あ:自然そのものをイメージさせてませんか?ジャケットに一番合ってる曲じゃないかと思います。
#3「How Can I Do」
ジ:シングルのアルバムミックス。
あ:事前に発表されてた曲では一番でしたね。なんだか「ニッキ」を彷彿とさせませんか?
ジ:さよならリグレットに似たものを感じたかな俺は。シングル版のほうが重厚で俺はそっちのほうが好きだな。
あ:これに関してはそうですね。
ジ:どのあたりが好きなの、この曲。
あ:多部未華子とデュエットでこの曲が流れるCMが去年あったんですよ。それはアコギとピアノ主体のシンプルなものだったんですけど。正直シングルのほうを最初に聞いた時はそこまでだったんですけど、CMのバージョンを聞いた時にメロディの良さに改めて気づかされて、以来お気に入りです。
ジ:家にテレビないから知らなかった。メロディ自体は良さみが深いよねこれも。
あ:Aメロのフレーズが指折りのお気に入りフレーズです。
ジ:俺は途中の鍵盤のソロかな。
#4「ソングライン」
ジ:多分、たくさんの人が期待値をぶち上げて待つことになった最大の要因はこれ
あ:ライブには行けず、ニコ生で観ましたが、ギターソロすごかったですね。
ジ:生はヤバかった。トリプルギターが永遠に思えるくらいうねってたからね。
あ:そもそも曲の半分以上がソロですよねこれ。
ジ:アルバムに入って、缶をあける音とか野球の音とかSEがいっぱいついて、楽しい曲になってるね。
あ:『首位打者はカントリー』の応援歌カップリングはびっくりですね。
ジ:あそこの歌詞の語感は今作のベストだよね。『右手にサントリー泊まりはセンチュリー首位打者はカントリー』って。めちゃくちゃだけど。
あ:僕もここの語感が大好きです。たぶん新幹線に乗りながらサントリー片手に野球中継聞きながら、って旅の泊まりがセンチュリーなんでしょうね。この曲、ボレロとかLet it beみたいなところも面白いですね。あと、生活感あるかんじが「ハム食べたい」みたいだと思いました。
ジ:1アルバムに1つでおなじみのお気楽ソングにしておくには、迫力がありすぎるけどね。
#5「Tokyo OP」
ジ:岸田「僕らがオリンピックや」(ツアーで披露時の一言)
あ:ガンダムかよ、ってかんじですね。
ジ:草。
あ:「惑星づくり」の完成度にも匹敵する激やばなインストが爆誕しましたね。
ジ:これはツアー中も公式のインスタグラムに演奏の様子を見せてくれてたね。そのときからアツかったね。いやぁ。くるりって、プログレバンドだったんだなぁ()。「東京」でデビューしたバンドが今作で「東京オリンピック」をやってると思うとそこもすごみがある。
あ:中学時代からの長年のインナーワールドがようやく具体化できたとのことです。ドラクエとかFFの戦闘曲から着想があるようです。
ジ:ほんと岸田はドラクエ好きだな。
#6「風は野を越え」
ジ:レコードならここからB面かな。
あ:僕にとっての今作のベストですね。
ジ:たしかによくできた曲だよね。
あ:セルフライナーノーツが面白いです。この曲は去年から今年にかけて作られたそうですが、コンセプトは「デビュー当時のくるりに持たれていたパブリックイメージの再現」だそうです。岸田は「実際はミディアムスローなテンポ以外は今も昔もくるりに当てはまる要素はない」ってその後続けてますが、僕はまさに「僕の住んでいた街」の前半部を聞いてるような感覚があるんですよね、これ。くるり全体を通しても上位にくる曲です。
ジ:ジュビリーがバンドサウンドになったみたいだと俺は思った。あと、これも結構ギター重いよね。こんな音だしてくるの久しぶりじゃないかな。
あ:90年代シューゲイザーとかグランジの音がイメージにあるとか。
ジ:オルタナティブだなぁ。ここ数年は音の数で厚みをだしてたところを、数を減らして一つ一つを大きくするような。そういうクラシカルなくるりを感じるよ。
あ:引き算の渋さがありますよね。そこも好きです。ただ、いい曲なのにファンファンのトランペットがないんですよね。
ジ:それはライブに行ってのお楽しみということで。それにしても、CDを買うと岸田のセルフライナーノーツが読めるのは超お得だよね。
#7「春を待つ」
ジ:これはツアーでも聞いた。よかったなぁ。
あ:その線は水平線、のカップリングでもありましたね。
ジ:くるりらしさがものすごくあるよね
あ:これは本当にデビュー当時の曲みたいですよ。間奏を挿入した以外は当時のままで。コールドスリープさせていたものを覚醒させたようになってますよね。
ジ:ほんとに「どこにも行けない」って感じだね。すごいぞ、くるり。
#8「だいじなこと」
あ:「春を待つ」のメランコリックな終わりから始まるオーボエがたまらないわけですよ。
ジ:これ1分半しかないんだな。流してると気づかなかった。内容濃いなぁ。
あ:面白いですよね。アニメ「3D彼女」のOPのためにって90秒で収める、ってできたそうで。岸田が原作の漫画も読んで主人公の気持ちで書いたみたいで、クリエイターな仕事ぶりが見えますね。
#9「忘れないように」
ジ:ツアーでやったとき面白かったな、岸田。色々話してから「いやほんと忘れないように気をつけないと。というわけで、「忘れないように」という新曲やります」って。自分でフリすんなよ。(笑)
あ:97年頃に作って忘れてたものを、その線は水平線た春を待つを作ってるときに思い出してできたんだそうです。
ジ:うっすら鳴ってるけど、レゲエみたいなギターが気持ちいいよね
あ:古い曲なのに、ほかにあまりないファンキーさがありますよね。
ジ:古い曲と今の曲のハイブリッドで、フィジカルグラフィティみたいだね。・・・違うか。
あ:ところで、これいろんな曲を彷彿とさせますよね。いやむしろオマージュというか。
ジ:・・・そこはなるべくノータッチで話してたけどね。うん。思ったよ。イントロがめっちゃスピッツ「涙がキラリ☆」だし
あ:コーラス完全にオアシスですね。「Go Let it Out」なんて。確信犯。
ジ:サビの入り方「How To Go」に似てるし。
あ:メロディほぼ同じですね。サビは竹内まりあの「元気を出して」みたい。
ジ:この辺にしとこう。いろんな要素が自分たち風に表現できるっていうくるりの持ち味が古い曲に乗っかった名曲ということにしよう。
あ:そういうとこがハマってるとこですね。
#10「特別な日」
【公式】くるり×ジェイアール京都伊勢丹 創業20周年メモリアルソング&ムービー「特別な日」
ジ:アルバム収録曲が分かった時に一番意外だと思った曲だな。だいたいくるりはこういう曲はアルバムから外してきてたし。
あ:京都伊勢丹のメモリアルソングですね。
ジ:PV楽しい。
あ:企画で生まれた曲ですが、アルバムにはなじんでますね。
ジ:湿っぽくなりすぎないように、ってことではいいね。岸田はほんとにこういう曲をつくるのがうまいな。
あ:伊勢丹の従業員に取材して歌詞ができてるみたいですしね。日常を感じさせる良い曲です。
ジ:俺はこれこそ「1アルバムに1つでおなじみのお気楽ソング」だね。あとは歌詞ね。『思い切り泣いたり笑ったり』ってとこに反応してしまうよね。これが聞けるから京都は羨ましいよ。
#11「どれくらいの」
ジ:これいいよなぁ
あ:「風は野を越え」に次ぐお気に入りです。「魂のゆくえ」にありそうですよね。
ジ:だよな。サビもアウトロの渋さも。
あ:あのころのジャジーなピアノがここで生きてるのがうれしい。ライナーノーツではデヴィッドボウイやピンクフロイド的って言ってますね。
ジ:「マネー」とか「アス&ゼム」かな。
あ:ブラスの雰囲気は似てなくはないですね。
ジ:歌詞いいわぁ。韻をふんでいくかんじ。
あ:言葉数は少ないんですけど、説得力ありますね。でもなんといっても、アウトロのドライブしていって、最後にディレイの残響を残して突然終わる展開が素晴らしいですよ。
ジ:ここまでドラマチックなソロの入りをしてる曲は今までなかったかな。
#12「ニュース」
ジ:ツアーでとっておきの曲としてアンコールでやってくれた。アルバムの〆。
ジ:「坩堝の電圧」の「グローリーデイズ」みたいな、その時の世情をよく表したいい〆をしてるフォークロックだよね。
あ:ニュースってタイトルの時点で時事的ですよね。遠まわしに歌詞でにおわせてきてますね。
ジ:おれはこの曲の感じはlet it beみたいだなと思ったよ
あ:コード感似てますね。あと、この曲も「どれくらいの」みたいにアウトロで厚みが増えていくのがいいですね。
ジ:ライブでよかったんだなそれが。
あ:今作はライブ映えする曲が多いんですかね。
ジ:ツアーでやってくれた曲をたくさん入れてるってことが大きいかな。
あ:事前にいろいろやって、ネットとかの評価を参考にしながら作品を提示していくってやりかたが今っぽさありますね。
ジ:ライナーノーツはどんなこと書いてあるっけ。
あ:去年の初春ごろに書かれた目下最新曲らしいです。(アルバム制作は昨年の初め頃からで、曲作りは2015年にいくつかやってたそう)過去のものや長い時間をかけてできたものが多いアルバムのなかで、こういう曲で〆られるのは面白いですね。
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最後に改めての自分とあつみ君の全体の感想、そして採点を載せて終わろうと思う。
あつみ
「坩堝の電圧で長くてコンセプチュアルなことをやって、Pierで音楽の旅をイメージさせてましたが、そういうものよりは、今作ソングラインは繰り返される日常に寄り添うものになってるんじゃないでしょうか。その中でもソングラインのサウンド・コラージュだったりTokyo OPの刺激的要素もあって、くるりのいろんな面が一つにまとまってる。これから聞くひとにはこれを勧めるのもアリでしょう。」
ジュン
「くるりのスタンダードとして永遠に残ると思う。俺の中でずっと「アンテナ」が最強だったんだけど、今作がついにそれを越えたと思う。くるりの王道ロックがここまで突き詰められた作品が今まであったか?と思えるくらいには素晴らしい」
採点
あつみ 89/100
ジュン 4.0/5.0
(文:ジュン)