My Mind Makes Noises レビュー(Pale Waves デビューアルバム)
現在注目を集めるマンチェスター出身でthe 1975の後輩にあたるロックバンド、Pale Waves。そのデビューアルバム「My Mind Makes Noises」が9/14にリリースされた。
今年のサマーソニックにはそれまでに出した曲を引っさげてライブをし、多くの人を虜にした。期待のルーキーである。
今回はこのアルバムを、僕の友人、あつみ君と会話形式で掘り下げていこうと思う。
(あつみ君は前回僕がデスキャブとフォクシングについて書いた記事でもコラボしている。よければそっちも読んでほしい。以下がその記事のリンクである)
風。(デスキャブとフォクシング) - 出前寿司Records
=========(以下、会話がスタート)=========
ジュン(以降「ジ」):まず今回の新譜、全体のざっくりした感想はどう?
あつみ(以降「あ」):1stアルバムとして完璧って印象ですね
ジ:ほほう。俺は、100点満点ってほどじゃないかな。若干金太郎飴感はある。でもデビュー作として期待されてた、用意されてた合格点は余裕でクリアしてると思う。
あ:シンセのアルペジオから入るノリのいい曲から始まって、アコースティックなバラードで終わる構成が綺麗でまとまってるますよね。金太郎飴は否定しきれないけど、それもデビュー作の醍醐味かと。
ジ:うん。始まりと終わりがきちっとしてるのは評価できるよね。じゃあ改めて、お互い既に何周かしてるだろうけど、聞きながら会話というか感想というか言い合っていこうか。
#1「Eighteen」
あ:先行配信の段階でこのシンセのイントロを聞いた時からかなり好きな曲。
ジ:がっつり四つ打ちダンスロックで、新曲ながらも既に彼らの十八番って感じがしてるよね。始まりのシンセはクラフトワークとかそっちのテクノみたいでいいよね。
あ:ザ・フーの「ババ・オライリィ」も彷彿とさせますね。
ジ:歌詞もいいよね。冒頭から「この街は私を落ち込ませるけど、あなたは私が望むすべてでいようとしてくれてる」なんて。
あ:ヘザー曰く、どうやら #6「When Did I Lose It All」の歌詞の人物と同一人物だそうですよ。(※1)
ジ:なにそれドラマチックすぎでしょ。
(※1 以下ソース)
Eighteen and when did I lose it all is about the same person. They will always have part of my heart #palewaveslisteningparty
— HBG (@HBARONGRACIE) September 14, 2018
#2「There's A Honey」
ジ:これが2曲目ってのがたまらないわけで。
あ:この位置にあるのがいいですね。
ジ:#2と#3はEPとかシングルとかで事前に出てて、ここで出てきて「そうそうこれこれ!」って思ってアガるよね
あ:わかりますね(笑)。今のライブだとこれは最後にやってる曲みたいです。「Television Romance」のほうが最後に向いてるような気がしますけど。
ジ:歌詞は最後っぽいね「俺の体をあげるよ。でも本当に君は俺がほしいのかな」なんて。・・・もしかしてさ。これってコンセプトアルバムなのかな。
あ:というと?
ジ:最初すごく女の子的な曲で、これは男の子の曲で、それで、最初の曲とつながってる曲があって。二人の男女のことがこのアルバムになってたりするのかな。
あ:歌詞についてはあまり追えてないのでそこにも注目していきましょうか。あと、確証がある話じゃないですが、Apple Music の歌詞欄にはマシューヒーリー(彼らの先輩、the 1975 のフロントマン)が含まれていますので、プロデューサーである彼の視点やアイデアもあるかもですね。
ジ:俺も歌詞はしっかりチェックしてなかったからね。一緒に確認していこう。
#3「Noises」
ジ:アルバムの顔ですね。
あ:歌いだしからアルバムタイトルですしね。さっきこの曲のPVを見ましたが、金髪のヘザーが可愛かったです。
ジ:サマソニで観たときもゆらゆら揺れて、十字架にかけられたみたいなポーズもとって、まさに「クールでキュートなロックバンド」を体現したような感じだった。
あ:ヘザーのパフォーマンスいいですよね。フェミニンな可愛さとゴスっぽい動きがバンドサウンドの力強さを強調してるような。
ジ:曲の話に戻ると、#1~#3で彼らの王道というか持ち味を存分に出してくれて、これまでの彼らのおさらいもできる感じになってるんじゃないかな。
あ:最初の3曲は強い印象を与えてきますよね。シンセとユニゾンしたギターソロも粘っこくて好きです。
ジ:これは秀逸よね。ここのソロはちょっとテイストが違う。
あ:ここまでギターに割いた曲もあまりなかったんじゃないでしょうか。まあタイトルも「Noises」ですし。
ジ:こういうユニゾンの良さが先輩the1975とのうまい差別化になってる
あ:音像は似てますが、彼らはよりロック志向が強そうですね。
#4「Come In Close」
ジ:で、そんなロックを感じてたところにこれ。正直初聴きの時はびっくりしたね。
あ:ポップですよね。普通にヒットチャートに乗ってそうな。
ジ:ダンスに振り切ったこともやっちぁうんだねぇ、と思ったよ。
あ:まだあまりこれは消化できてない曲ですね。
ジ:確かにこれまでの彼らの中では異色な曲だね。でも俺は結構好き。ここでまた同じような曲がきたら「もう飽きた」って思ってたかも。
あ:変化をつける引き出しと考えると感心できますね。
ジ:歌詞は・・・・・・・・・・・・・・。すまん。切なすぎて言葉を失った。
(※2)
あ:これは男の子と女の子のどっちの曲なんでしょう。フレーズとテーマが「There's a Honey」と被る部分もありますよね。
ジ:どっちでもいけるかな。
(※2 以下、この曲の歌詞の一部。アルバム全体の歌詞の詳細はここへ。
https://www.azlyrics.com/p/palewaves.html )
「だれも私とあなたがどんな風にテレビを見て、そして時々キスをしてるのかなんて知らない。あなたが部屋にいるときに私は何も、何も見てない。あなた以外に。」
「ねぇ、キスしたいって近づいたらあなたはノーって言う?あなたが本当に欲しいのは私?あなたとただの友達でいたくない。でもこれは終るんだってことは知ってる。」
#5「Loveless Girl」
ジ:これ前の曲とちょっとつながってるよね。
あ:セットと考えられますね。この流れは好きです。
ジ:歌詞的にはさ、俺の妄想だけど、この曲は昔の二人の会話とかを振り返る曲。サビ前が男の子の言葉で、サビ前が女の子の言葉。歌詞にある「Did you make your televison breakthrough?」ってところが当時二人が見てた壊れたテレビのことで、そこから流れてた壊れたループが、この曲でずっと聞こえてる「Loveless」ってループで生きてるんじゃないか、なんて。
#6「Drive」
ジ:冒頭のギターでノックアウト
あ:いいリフですよね。実に80年代的。
ジ:ギターソロがシューゲイザー的というかドリームポップというか、今までになかった鋭さと浮遊感を持ってるよね。すごく好きな曲の一つ。
あ:ヘザーが自身のツイッターで発売日に「どの曲がすき?」って聞いてた時もこれは多くの人が挙げてました。
ジ:#1~3、#4~5ときてこの曲はズルいよ。
あ:前半のハイライトですね。
#7「When Did I Lose It All」
ジ:でました。俺にとって今作のベストトラック。
あ:ここで流れが変わってるような気がしますね。これまでの曲はアガる曲が多かったので、アルバムにはスロウな曲もあるだろうと期待してました。
ジ:冒頭から歌詞が切なすぎて初聴きから惚れてしまった。歌詞をみながら記事を書こうとおもったのはこれがきっかけ。全部の歌詞が泣ける。歌詞的には前の曲の「Drive」が男の子で、この曲が女の子の曲かな。(※3)それぞれが付き合ってたころを思い出す曲。
あ:「Eighteen」とも関わってるみたいですし、そうでしょうね。
(※3 以下、「Drive」と「When Did I Lose It All」の歌詞の一部)
「Drive」
「まだ同じ『もしも』を感じてるんだ。これは君についてじゃない。僕についてだ。」
「大丈夫じゃないよ。でもそれはいいんだ。」
「早くドライブする。“何か”を感じられるんだ。」
「When Did I Lose It All」
「そのすべてを失ったのはいつだろう。瞳の端には貴方がいた」
「交わって堕ちていったのはいつだろう。それはいつだって貴方だった。」
「二人で愛し合って年老いていくと思ってた。お互いを最高にした。私たちならなんだってできるんだって、あなたは信じさせてくれた。」
「これから、これから、あなたを放してあげるわ。貴方と結ばれたいの。でも今じゃないの。今じゃないの。」
#8「She」
あ:流れが変わったってさっき言いましたけど、それは単純に踊れる曲からさっきの曲とかこれとかみたいなドリーミーなことをしてるからですね。
ジ:デビュー作とは思えない引き出しがあることを示してくれたよね。
あ:単純なポップソングを逸脱して、構成美へのこだわりといえばこの曲が一番細かいですね。これはかなりthe 1975先輩に近い印象を持ちました。
ジ:歌詞がめちゃくちゃエロいけどね。「彼女は貴方を私と同じくらい気持ちよくしてくれてる?」ってあって、「代わりの誰かでイってるんでしょ。嘘はいいわ。私は言えるから」って(※3)。「代わりの~」の部分は途中で男のコーラスがあって、遠くで二人が同じことを思ってるってことを表してるんだと思う。
あ:エロいですね・・・
(※3 歌詞の「getting off」には口語で「異性と性的に親しくする」、「オルガスムスに達する」という意味もあるんだそうです)
#9「One More Time」
あ:いきなりさわやかサウンドに戻りますね
ジ:歌詞的には「また17の頃の私たちに戻れないのかな」ってあるから、過去を振り返ってるところは続いてるけどね。
あ:タイトルから未練の感じありますね。
ジ:感傷的なメロが続いてからこれだから、湿っぽくなりすぎないようにってことかな。
あ:マシューヒーリーから「後ろ向きな歌詞を書いてもスタジアムで演奏することを想定した曲を書くこと」ってアドバイスされてたらしくて、その手法が生きてるんじゃないでしょうか。
ジ:腕を突き上げて飛び跳ねたくなるね。
あ:ところで、CDのブックレットには前の曲とこの曲の間にアーシャがあって、これがカッコいいんですよ。
ジ:(確認)ちょっと怖いかんじもするけど(笑)
あ:ところで、このバンドはドラムのシアラがかなり中核を担ってるんですよね。プロデュースにか関わって、シンセサイザー・プログラミングもやったってことが書いてあるんです。
ジ:多彩だなあ。
#10「Television Romance」
Pale Waves - Television Romance
ジ:おまちかね
あ:今ライブではオープニングソングになってますけど、これからミューズの「シドニアの騎士」とかアメフトの「ネバーミーント」みたいなアンコールソングになるんじゃないかと思ってます。大名曲ですね。
ジ:俺もこれが〆曲だと思ってたけど、もっと自信ある曲を後ろに持っていきたいのかな。
あ:歌詞的にはなんか浮いちゃってますが、どうなんでしょう。
ジ:うん。これも俺の妄想なんだけど、さっきの曲「Loveless Girl」でテレビの話がでたでしょ。その時に二人が見てたロマンスものをこれが表してたらいいなぁ、なんて思うんだ。考えすぎかな(笑)
#11「Red」
ジ:これもリードギターが光ってるね
あ:ですね。ロックとシンセポップがうまく融合してます。Aメロがちょっとニューオーダーみたいですね。
ジ:たしかにそうかも(笑)。この曲がアルバム中で一番シンセをうまく使えてるような気がするよ。
あ:飾りみたいな空間的な音でも、メインの音でもなく、絶妙ですよね。
ジ:歌詞はあれだな。二人が付き合ってた頃に女の子が二人の初夜を思い出す曲だと思う。ホテルってワードも出てくるし。で、タイトルの「Red」っていうのは(自主規制)。もっと言えば、歌詞に「Slow down baby, are we gonna make it alive」ってあるしね。
あ:エロいですね・・・。
ジ:前の曲が、このアルバムを聞く人にとって、「二人が付き合ってたまさにその時期を見せてあげる」ってスイッチになってると思う。だから付き合ってるときのキラキラした感じが続いてるんだよ。
あ:あと、これもヘザー曰く、どうやらこの曲の人物とさっきの曲「Come In Close」の人も同一人物だそうですよ。(※4)
ジ:やっぱつながってるんだね。
(※4 以下、ソース。)
Red and came in close are about the same person
— HBG (@HBARONGRACIE) September 14, 2018
#12「Kiss」
ジ:これも結構前からある曲だよね。なんかこのアルバムではRedとつながってるような。
あ:テンポ感も似てますよね。次の曲も含めて、#11~#13のドライブ感はアルバム後半だな~って思えます。
ジ:わかるよ。この彼らの王道サウンドを立て続けに放っていく感じがいいよね。
あ:歌詞には倦怠感がありますね。
ジ:そっちか。俺はてっきり「付き合ってて人生バラ色!」って曲だと思ってた。(歌詞を確認)。・・・たしかに君の言う通り、バラ色ソングではないな。
あ:「はじめのころにしてたみたいにキスして」ってありますし。昔のほうが盛り上がってたのに、って曲ですね。女の子のほうが思ってるんですよ。
ジ:次の曲でも触れるけど、別れがほんのり近いんだろうね。
#13「Black」
あ:僕はこれがベストトラックですね。
ジ:人気あるみたいやね。
あ:やっぱり。なんかエモい。
ジ:歌詞とか気にせず聞いてた初聴きのときは、いい〆曲だと思った。
あ:歌いだしから「貴方はあたしを嫌いだした・・・」ですからね。
ジ:まさに別れの切なさ
あ:「Red」と対になってるんじゃないですかね。だから曲のタイトルが「Black」
ジ:そうか!なるほど!
あ:そしてジャケのアートワークが黒と赤の二色ってところが。
ジ:たしかにそうだよなぁ。言われてみればすごいよくできてるな。
あ:ここは凝ってますよね。他の曲はシンプルに歌詞の世界を表してると思います。
ジ:歌詞の話はこれくらいにして、音の話をしよう。この曲、このアルバムのなかではすごくバンドサウンドを前に出してない?
あ:そこがベストトラックに選んだ要因です。ちょっとパラモアみたいな。サビのところなんてホントにうっすらシンセがあるだけですし。
ジ:パラモアみたいってのはちょっとわかるわ。ずっとシンセをバックに歌ってた「You don't love as anymore~」のところが最後はがっつりバンドサウンドでやるのは展開として素晴らしい。
#14「Karl」
あ:ラストにして唯一のアコースティックソングですね。
ジ:ピンカートンとかオアシス1stかよって思っちゃうよね。
あ:(笑)
ジ:シンセで始まってこれで終わるってのは君の言う通り、きれいに出来すぎだよね。
あ:ちょっとギターをコピーしてみたんですけど、スリーコードで弾けちゃうんですよねこれ。この曲が世界で初披露された渋谷のインストアライブもそうですけど、ヘザーはいくつかの曲を弾き語りでもやってるんですよね。音響的な編集に特徴がある彼らですけど、歌モノとして骨組みがしっかりできてることが分かる一曲でもあると思います。
ジ:は?渋谷でこれやってたの!?都民ぜったい許さん。
あ:僕も翌日の用事のせいでなくなく行けませんでした・・・。
ジ:(都民を許さない気持ちが落ち着いてから)・・・落ち着いて、と。歌詞の解釈をしよう。多分だけど、この曲の主人公の女の子は、歌詞にある通りミュージシャンで、その彼女が作ってた作品が、今までの男女二人についてのことだったんじゃないかな。
あ:ロンドンでのショー、ってありますし、もしかしたらこの曲の主人公はヘザー自身なのかも。
ジ:大いにあるだろうね。で、主人公の女の子が好きだったカールって男の子のことを二人の男女の作品を作りながら思い出すのよ。男の子のほうはカールを重ねてるのかもね。今までの男の子も、カールもタバコを吸うみたいだし。そんな感じかな。この曲がある意味ボーナストラック的な役割をしてる。
ジ:さて、こうして改めて聞きながら振り返ってきたけど、あつみ君、どうでしたか。
あ:Pale Wavesって、僕にとっては初めてデビューを目撃したバンドなんですよ。サマソニでの初来日を見に行って、このアルバムも発売日に買って。
ジ:うんうん。
あ:今まで聞いてたものが基本後追いでした。これからこのバンドがどう変わっていくのか、あるいは何を貫いていくのかっていうことをリアルタイムで体感していく。その第一歩をこうして語れるのがとてもうれしい。それがこのアルバムに対しての最大の感想です。デビュー前から露出が多かったですし、多少いい意味で裏切られた楽曲が既にあったので。
ジ:非常に可能性に満ちていることが改めてこの作品で分かったよね。
あ:ジュンさんはどうですか。
ジ:やっぱり歌詞が素晴らしいってことかな。今回この記事を作るにあたって、初めて歌詞を解釈しながらじっくり時間をかけて味わうってことをやったけど、それが苦にならない、むしろそうさせてほしいと思わせてくれたことが大きい。アルバム構成も素晴らしい。彼らの十八番なメロディを出すタイミングも優れてる。金太郎飴っていう初聴きの感想は取り消さなくてはいけないと思ったね。
ジ:じゃあ最後に、二人でこのアルバムの採点を。
あつみ 85/100
ジュン 4.0/5.0
ジ:ヘザーが日本のiTunesでの今作の人気を知ってるみたいだし(自身のツイッターより)、進化して早く帰ってきてほしいね。今作で、いろんな方向に進化できることをわからせてくれたしね。
あ:2ndで真価が試されると言いますしね。とにかく近いうちの再来日に期待しましょう。
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(文:ジュン thanks:あつみ君)