ブリットポップの”深層”? ~Everyday Robots / Damon Albarn~
スラマッパギ!toraです。
ではさっそく、今回の主役はこの方です。
Damon Albarnです。
昔はめっちゃイケメンだった…BeetlebumのPVを見ると男ながらキュンキュンしてしまいますw(ちなみにBeetlebumは僕がblurで一番好きな曲です。)
…が、いつだか見たツイートのおかげで……
めっきり「金歯のおじさん」のイメージになってしまった…
そんな今回取り上げるのは、blurでもGorillazでもなくこちら!
2014年に発表されたDamonのソロアルバム
”Everyday Robots”です。
んん~このアルバムあまり名前が上がらない印象があるんですが人気ないんでしょうか??
まず申し上げると、Gorillazはほとんど知りません。blurは全作聴いております。
で、僕が持っているDamon Albarnという人の音楽の印象というのはとにかく”カラフル”といった感じでした。
なんせ90年代に一世を風靡したブリットポップムーブメントの代表バンドの一つのblurのフロントマンですからね…
Gorillazに関してもそんなイメージ。ずれてるかもしれないというかヒップホップに対する偏見かもしれないけどw
ですが、この”Everyday Robots”の印象はとにかく”灰色”。まさしく”Blur(かすんで見える)”といった印象です。
聴いていただいてわかる通り、キーボードを主体として、全体的に奏でられている音が少なめな印象。これがGirls & BoysとかCountry House作った人の音楽なのか?とも思ってしまう…
恐らく一番盛り上がる曲でこんな感じ。
ゴスペル調の曲まであります。こちらBrian Eno参加。
思えば、ギターのGrahamが脱退してから発表されたアルバム”Think Tank”はかなりアフリカ音楽的な趣が強かったので、ゴスペル調の曲が入っていてもおかしくはないように思えます。
この作品はDamon Albarnという人の音楽の基本骨子をかなりむき出しのままにして作られた、まさに”ソロアルバム”なのでしょう。
最も素のDamon Albarnを感じられる一枚かと思います。
この”Everyday Robots”、ぶっちゃけ全blurのアルバムより好きですw
とにかく聴いていて心地の良いサウンド。これを流しながら寝ると割といい感じに寝れるので重宝してますwww
それ以上に、blurという超ポップなバンドの人が書いたとは思えないほどの陰気さ。Radioheadとか大好きな根暗にもウケる類のアルバムだと思います。
blurの方は前作”The Magic Whip”以降音沙汰がないようですが、Gorillazの方で現在ツアー回っているみたいですね。6月に来日しますし。
今も活躍を続けるDamon Albarnの深層はもしかするとこの”Everyday Robots”のような世界が広がっているかもしれないですね…
(この路線の2ndソロ作、まだ少しだけ期待してますw)
(文:tora)
ありえん尊みが深いボカロのカプ「ゆかいあ」について本気を出してみたらヤバかった
VOCALOIDのカップリング「結月ゆかり×IA」について本気を出して考えてみたコンピ『惑星軌道』
同人・個人サークル「ハガネノウサギゴヤ」がリリースしたボカロのカップリングについてをテーマとしたコンピ作品『惑星軌道』について述べていきたいと思います。なお筆者も楽曲で参加していたりします。その部分だけ熱が入るかもしれないのでご了承ください。
ゆかいあとは何か?
まずこれについて説明……というよりは、このコンピそのもののテーマなのでどこまで触れていいものなのか気を遣う部分なのですが、ざっくり申しますと「結月ゆかり」と「IA」というボカロキャラの百合カップリングです。キマシタワー
で、具体的に「ゆかいあ」って何よ?という問いかけをコンピ主催であるKAI氏が投げかけ、それに対して主催を含む13人のボカロPが答え、もとい応えたものがこちらの作品となります。
コンピのテーマとしては相当抽象的なものとなっていることもあり、出揃った楽曲のバリエーションも幅広いです。バンドサウンド、ゆったりしたエレクトロニカ、クラブサウンドといった趣の歌モノが集まっています。
収録曲:
1.マケモノループ/ねじ式
2.ゲームをしよう!/ギャル子P
3.Freesia/来栖遥希
4.Seven Waves/Nia
5.Memorial Fantasy/はてぃ~
6.Sole/CloA
7.Love forever/夕立P
8.春の風に包まれて/Van=jin
9.TRUST DISTANCE/grief art
10.N.X.T./将
11.Shining ray/池本
12.3.8cm/y/Nyxiluca
13.星彩イルミネイター/KAI
サークルカット・告知イラスト:
愛我みちる
ジャケットイラスト:
夏目チョコ
マスタリング:
かごめP
それではひとつひとつ、少しではありますが曲について触れていきます。
各楽曲レビュー
Tr.1 - マケモノループ / ねじ式
バンドサウンド+ピアノやシンセの音でワチャワチャと騒がしく幕を開ける。Vo.のまくしたて方もあり、いわゆるステレオタイプ(というよりは筆者の偏見的)なボカロヒットソングそのものの姿を思わせます。3連符でのキメとタメを両立したフレーズなど聴きどころが満載です。
Tr.2 - ゲームをしよう! / ギャル子P
ゲーム実況プレイ場面も差し込まれる、チップチューン的な音でアプローチしている「ゲームサウンド」というのを重視している。完全なチップチューンではなく、リズムトラックはデジタルなドラムが担当していますが、これによってノリをより分かりやすいものに仕上げています。
Tr.3 - Freesia / 来栖遥希
しっとりゆったり、浮遊感とキラキラ感した曲調が心地よい。ちなみにタイトルであるフリージアの花言葉は色によって異なるようです。白はあどけなさ、黄は無邪気、赤は純潔、紫はあこがれ、淡紫は感受性を表すとのこと。ゆかいあ的には紫や白の花言葉をチョイスしていそうなところでありますが、どこまで歌詞を深読みするかも楽しみのひとつですね。
Tr.4 - Seven Waves / Nia
アンセミックで派手なシンセが耳と心臓を揺さぶるストイックさを感じさせながら、メロディアスかつリズミカルなゆかいあの歌唱がキャッチーさも内包したバランス感覚が素晴らしい。身体をあずけられるビートが文字通り波となって打ち寄せてきます。
Tr.5 - Memoprial Fantasy / はてぃ〜
どこか中世ファンタジック系なゲーム音楽を思わせる曲展開が、恐らく1990年代のゲーム時代を生きてきた人にぶっ刺さりそうな感触のあるTr.5。所々に差し込まれる金物の音にも味がありますね。
Tr.6 - Sole / CloA
ゆったりとしたリズム感でマイナー調の曲。クラブサウンド寄りの楽曲ですが、緊張感溢れる展開は、じわじわと耳から侵食していく感覚で「ああ!」となることうけあい。
Tr.7 - Love forever / 夕立P
筆者の曲です。アダルティなダンスナンバーで、シンセやギターなど諸々の楽器のリフをうまいこと使って展開していく曲構成です。Aメロとサビのみの、コンパクトな構成ですが、双方で若干、音色的なアプローチが違ってきているので、ダンスナンバーながら緩急もついています。
詳しい解説は下記の記事でやっていますのでそちらからどうぞ。
アルバムの配置としては真ん中に位置していることもあり、この曲でちょっとした転換という意味合いもあるカンジです。
ちなみにJOYSOUNDでのカラオケ配信もされていたりします。カラオケ音源なども配布しているので、聴いたらリミックス・アレンジしたり歌ったりしよう!
Tr.8 - 春の風に包まれて / van=jin
お馴染みのチャイムの音が鳴り響く、学生のジュブナイル的なものをモチーフにした楽曲ですね。疾走感と清涼感のある、フレッシュな曲です。
Tr.9 - TRUST DISTANCE / grief-art
作者の名前に似つかわしくないほど(失礼)ポップで多幸感に溢れる曲調となっています。キックの音が重たすぎず軽くもなく「ちょうどいい」ので、音の分厚さの割にとても軽快に聴くことができます。反面、どっぷり浸かって聴けるだけの細部の作り込みも一聴すれば分かるような、音の配置の丁寧さも光りますね。
Tr.10 - N.X.T / 将
HR/HM由来に思えるギターの音の質感やリフにまず度肝を抜かれますが、よくよく聴き込んでみると、どこかいわゆるビーイング系が今の時代まで続いてきたらどんなサウンドになっていたか?と思わせるような構成になっています。ヒロイックなサビの展開がお気に入り。
Tr.11 - Shining ray / 池本
前曲よりさらにヘヴィーなサウンドでゴリゴリ攻めてきます。そのヘヴィネスな部分にメロディアスかつ「ちょうどいい」スピード感のゆかいあの歌唱が乗っかって、エモーショナルな楽曲に仕上がっています。
Tr.12 - 3.8cm/y / Nyxiluca
しっとりとしたバラード調の切ないメロディーがたまらない!激しく掻き鳴らされた前2曲で存分に使った体力を回復させてくれるような曲調でありながら、むしろそういう存在であるが故にエレジーな曲調がより引き立つものとなっています。
Tr.13 - 星彩イルミネイター / KAI
ドラマチックなイントロから既にラストを飾るに相応しい曲調であることが容易く想像できるこの曲。サビのリズム感・歌心が90年代V系の雰囲気をうっすら感じさせたり、曲中にまぶされているシンセサウンドの多様さだったりと、リスナーの心を揺さぶる要素を満載で美味しい曲です。
作品について
抽象的なテーマであるが故に、バリエーションに富んだ内容の作品となっています。前述したとおり、ポップ・クラブ・バンドサウンドの3つが主軸となっているのは間違いありません。
一貫しているのが、この「ゆかいあ」というボカロキャラのカップリングに対する純愛ですかね……
ボカロというアイコン性に、うまく寄り添うことができた主旨のコンピ作品であると感じました。
出前寿司Recordsでは恐らくはじめてのボカロ曲作品のレビューとなりましたが、商業流通していないアマチュアの作品にもこんなものがあるんだ!というのをひとつ知っていただく切っ掛けになれれば幸いです。
特にボカロ曲によくわからない偏見があって食わず嫌いになっている人にオススメしたいですね。
本コンピは、とらのあな様にて委託通販を行っています。
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/62/98/040030629867.html
(文:夕立P / タチやん)
Aqua Timezへ
2018年5月8日、ロックバンドAqua Timezが年内解散を発表しました。
Aqua Timez、2018年の活動をもって解散 (2018/05/09) 邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)
正直に言いますけど、このような結果になってしまうことを予想をしてなかったわけではありません。
詳しくは触れませんが、ここ数年色々ありましたし。
解散発表に際してメンバーからのメッセージが公開されていましたが、それを読んで「あぁ、そういうことか」となんとなく腑に落ちました。
新作アルバムの最後の曲が「last dance」で歌詞も意味深だったのも納得いきました。
僕は2006年に発表された1stシングル「決意の朝に」から約12年間、ずっと彼らの音楽を聴きながら生きてきました。
初めて音楽に興味を持ったのも彼らの曲で初めてライブを見に行ったのも彼ら。いつぞやのライブでゲットしたベーシストOKP-STARのチップは今でも宝物です。
心からウソ偽りなく「一番好きなアーティストはAqua Timezだ」と言い切ることすらできます。そのくらい私の中で存在の大きなバンドでした。
彼らのどこに惹かれたんだろう。
改めて考えてみると色々ありますが、一番は「一人でいじけている僕と一緒にしゃがみこんでくれる」ような存在だったことです。
ニット帽のヴォーカルにドレットヘアーのベーシストという出で立ちこそインパクトはあったけど、とんでもないカリスマ性があるかと聞かれればそうでもない。
トークも上手くなくてMステに出演したときもタモリに話題振られたときにはヒヤヒヤ。ライブのMCも基本グダグダ。
歳だってデビューしたときはアラサーでそんなに若くなかった。
一言でいえばAqua Timezはあんまりスターっぽくないです。
でもそんな飾らない姿が凄く等身大に見えて、親近感が湧きました。
歌われる歌詞も押し付けがましくなくて暑苦しくない。
ただそこにいて、いじけている僕と一緒にしゃがみ込んで一緒にいてくれる。
何か強くアドバイスしてくれるわけじゃないんですよ、ただそこにいてくれて相槌をうって話を聞いてくれるような存在でした。
友達がほとんどいなくてひとりぼっちだった僕にとって、この距離感が凄く自分の孤独を分かってもらえている感じで凄く好きでした。
年を重ねるとともに色んなアーティストの曲も聴くようになって、他のアーティストのライブにも行くようになりましたが、他のアーティストの曲聴くことでAqua Timezにしかない良さも分かったりして、その度に「やっぱり戻ってくる場所はここなんだな」と思ったりしました。
Aqua Timezと小学生の頃に出会った僕も、今では二十歳を超えてファンとしてのピークは過ぎました。昔ほど熱を上げなくなっていたのも事実です。
そんな中で思い出になりつつある部分もありましたが、
思い出だけではなくてキチンと現在進行形で自分にダイレクトに響く新曲を届けてくれる…そんなAqua Timezの存在にとても頼もしさを感じていました。
今年発表された新曲「未来少女」を聞いて「あぁやっぱり好きだなぁ」と心の底から思ったのを覚えています。
Aqua Timez 『未来少女』Music Video+SPOT映像
そして漠然ですが、
「これからの人生、自分が年取ってもずっとAqua Timezは活動してくれているだろうし、それを聴きながら僕は生きていくんだろうな」と思っていました。
でもその未来が今、彼らの解散という選択とともに消えてしまいました。
予想はしていてもいざAqua Timezが解散するという事実を目の当たりにすると、そのショックは大きかったです。
Aqua Timezが存在しているのが当たり前の世界で生きてきたのに、2019年からどうやって生きていけばいいんだろう。
これからも思い出は僕と一緒にしゃがみ込んでくれるかもしれないけど、
そこには思い出じゃなくて今のAqua Timezにいてほしかった。
解散は新たなスタートとも言いますが、新たなスタートを今は祝福できそうもない。
この喪失感はどうやっても表現できないです。
正直、今も心の整理がついていません。
いつか、僕も心から「大丈夫」といえるような日が来るのでしょうか。
そんな風に言えるようになってしまえるようになる自分に怖さも感じます。
でも「大丈夫」と言い聞かせながら、生きていきます。
Aqua Timezはあんなに「大丈夫」と歌ってくれましたから。
『 大丈夫な理由なんて一つもないよ あるわけない
「でも、大丈夫」
そんな突き抜けるような 前向きさ 最後はそれが 未来を決める
だいじょうぶ。 だいじょうぶだよ。 』
(文:Showta@)
退屈な日々にも祝祭を
今めちゃくちゃキてる女性シンガーソングライターがいる。その名も「カネコアヤノ」。
いわゆる「ギター女子」がトレンドとして取り沙汰されて久しいし、元祖としてYUIやmiwaがいて、今となっては大森靖子に始まり吉澤嘉代子、さユり、あいみょん、コレサワ、ラブリーサマーちゃんなど枚挙に暇がない訳だが…。
その中でも、今カネコアヤノがバッチバチにキてます。「ギター女子」なんてそんなくだらない枠で語るのは正直ダサいです。決して派手さはないけど、確実に、虎視眈々と、それでいて飄々と、シーンを賑わせている。
↑佇まいが良いですよね。
そんなカネコアヤノを聴き始めたのは、今泉力哉監督の「退屈な日々にさようならを」というインディーズ映画を観たのがきっかけ。彼女は主題歌を担当、映画本編にも出演し強烈なインパクトを残しています。
↑「退屈な日々にさようならを」のポスター。劇中音楽としてchelmicoやGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーなども参加してます。
↑映画のラストシーンで公園の遊具に寝そべるカネコアヤノ。全てを見透かされそうな眼差し…。完全にやられてしまいました。以来ファンです。
という訳で、私はアルバムのリリースを楽しみにしていたのですが、先日ついに『祝祭』と名付けられたアルバムが発売されました。
素晴らしいジャケットですよね…。
アルバムとしては実に2年半ぶり。地道な活動を続けてきた2年間の成果として、まさに満を持してリリースされた今作。本当に良いんです。
私は先日、アルバムリリースを記念して新宿のタワーレコードで開催されたインストアライブに足を運んだのですが、大盛況でした。
この日はバンドセットでアルバム収録曲を披露。ギリギリ右前方にあるモニターで姿を見ることが出来ました…。エレキギターを弾きながら力強く歌う彼女は、バンドメンバーの男たちに全く負けず劣らず確かな存在感を発揮していました。かっこいい!
↑サイン会にも参加。店外まで続く長蛇の列で改めて人気ぶりがうかがえました。そしてご本人に「映画を観てからファンです」と直接伝えられて感無量…。
聞くところによると、昨年のゴールデンウィークにインストアライブを行なった際はここまで人は来ていなかったようです。1年で変わるものなんですね。すごい急成長ぶり。
↑『祝祭』の中ジャケ。控えめでかわいいサイン(左下)。
そしてその翌日は吉祥寺のココナッツディスクで弾き語りライブがあったので、仕事終わりに駆けつけました。
しかしこちらも超満員、モニターもなく自分が立っている場所は完全に死角で、彼女の姿はほとんど見えませんでした。見えたのはギターを弾く右手のストロークが3秒くらい…。
ただ、聞こえてきた歌声は本当に素晴らしかったです。その華奢な身体のどこから出るんだ…というくらいエモーショナル。緩急をつけたボーカルワークに思わず息を呑みました。
ライブを2日連続で観たことで、アルバムがより好きになりましたね。
…はい、ということで前置きが長くなりましたが、少しでも多くの人にもっとカネコアヤノの魅力を伝えたい!という思いから、私なりにこのアルバムの全曲レビューをしていこうと思います。語ります。
早速参りましょう!
✱ ✱ ✱
1. Home Alone
先行シングルとしてリリースされていた曲。
私はこの曲を初めて聴いた時、すごく初期のスピッツっぽいなと思いました。というのも、アコースティックギターとエレキギターを合わせた優しげなアレンジが、90年代のJ-POPやフォークロックを想起させるんですよね。すごく懐かしさを感じる。
歌詞はというと、
"傘がいるらしいけど
手がふさがるしいらない
ただの予報だよ
良い子にしてれば 大丈夫な気がしてる "
なんてことを地声とファルセットを行き来しながら歌い上げてます。アルバムの冒頭に相応しいポップナンバー。
2. 恋しい日々
「Home Alone」では
"行き場のない花束のため
花瓶を買いにゆく "
というフレーズがあるのですが、この曲では
"恋しい日々を抱きしめて
花瓶に花を刺さなくちゃ "
と歌われていて、前曲からの繋がりを感じられます。こういうの憎いな。
夏の晴れた休日に聴きたい。
3. エメラルド
"朝はエメラルド "
という歌詞から始まる一曲。イントロのギターのフレーズが印象的。
"帰りには焼肉でも食べたい
大切なのは明るい明日だ "
"帰る頃には朝焼けでも見ようよ
大切なのは君との明日 "
と歌われているように、良い朝を迎えるための曲。
4. ごあいさつ
サビで一気に力がこもるボーカルが良いですね…。
"しあわせだよ今
となりの君のまつ毛が落ちるのを見逃さなかったよ "
ってすごい歌詞だな。"君"との距離の近さを感じさせる秀逸なフレーズです。
5. ジェットコースター
アコースティックギターによる弾き語り。このアルバムは全体的に夏を感じさせる曲が多い気がします。この曲もその一つ。
"夜を迎える
星はみえないけれど
君が笑ってくれるなら
この街も悪くはないね "
って、シンプルで良い歌詞だな…。
6. 序章
ここも前曲からの繋がりがあって、「ジェットコースター」では
"しりたいと思うのは
可笑しなことじゃないでしょう "
と歌っていて、この曲では
"知識が増えるほど
優しく笑っていたいと
イライラ思っているよ "
なんて歌っている。葛藤みたいなものが垣間見えます。
そしてこの曲に「序章」というタイトルをつけるカネコアヤノのセンスに脱帽。
7. ロマンス宣言
"机の下にかくした恋心
今日も 私の全てを抑え込むのだ "
とか、
"謝りたくない 誰にも見せない
私の理想の家族計画 "
とか、密かに隠しながらも貫き通される"ロマンス"についての曲。カネコアヤノの「女の子の部分」の出し方ってちょっとひねくれてて、でもそれがすごく好きですね。
8. ゆくえ
こちらも弾き語り。控えめな歌い方ながら、言葉一つ一つがじんわり胸に染みる。
"ぼくたち動物なんのために
生きるかなんて 今日決める "
だったり、
"あなたの4分の3まででもいいから知りたい
失敗するよりさよならするほうが私は苦手 "
だったり、印象的なフレーズが散りばめられてます。
9. サマーバケーション
ストレートに夏の曲。前半はゆっくり進み、途中から盛り上がっていく展開が気持ちいい。南国っぽいギターのフレーズもいいですね。
それにしても終盤で急に
"全員きれいに同じ顔して
返事しやがって "
という歌詞が出てきて、なんというフックの作り方だよ…って感じですね(褒めてます)。
10. カーステレオから
ノリの良いロックチューン。でもメロディが80年代の歌謡曲っぽくて、どこか新鮮な懐かしさを感じます。
"君の不安を取り除くのは
お祈り 呪術か魔法
それがだめなら
外にでも出て 美味しいものでも食べてみな "
だってさ。かっこいい!
アウトロのギターも最高にロケンローしてます。
11. グレープフルーツ
前の事務所を離れる時に作ったという一曲。
この曲にも初期のスピッツっぽさを感じまして。というのも、冒頭から
"ねむいなあ
昼過ぎの各駅停車がちょうどいい
よだれを垂らすころには
花畑に魚が泳いでる "
と歌われていて、こういう夢か現か分からない白昼夢みたいな歌詞がすごくスピッツ的だな…と思ったんです。
"いまのわたし
甘い砂糖と苦いグレープフルーツみたい "
という歌詞も印象的。
12. アーケード
なんだかNirvanaの「Smells Like Teen Spirits」を思わせるイントロ(おそらく確信犯)でがっちりつかまれる。テンション上がりますね!
歌詞も、
"なんにもない日もプレゼントの交換しようよ
大人になったね
君って歯並び悪いね 今気づいたよ "
なんて歌っていて、どうやったらそんなフレーズ思いつくんだ?って感じです。カネコアヤノ節全開。
ライブの最後に聴きたいロックチューン。
13. 祝日
表題曲とも言えるラストナンバーは弾き語り。
力のこもる歌声に思わず引き込まれます。カネコアヤノの本領が発揮されるのはやっぱり弾き語りだと思わされますね。
"飽きないな
若気の至りか どうでもいいことだ
これからの話をしよう
祝日、どこに行きたいとか "
と歌われて、このアルバムは幕を閉じます。
✱ ✱ ✱
カネコアヤノの魅力は、まずこれまで語ってきたようにその歌声にあります。
バンドセットでエレキギターをかき鳴らしながら歌うのも良いのですが、やはり彼女のすごさを実感出来るのはアコースティックギターでの弾き語りだと思います。その出で立ちからは想像が出来ないくらいの声量、緩急のある歌い方から伝わってくる表現力の豊かさ。リスナーを否応なしに彼女の世界に引き込んでしまう不思議な(それでいて確かな)力があります。
それに加え、もう一つの魅力は「歌詞の普遍性」であると感じます。
例えば、現代社会を鋭く批判し上手く歌詞に落とし込むアーティストはたくさんいます。それこそ「インターネット」とか「スマホ」とか「SNS」とか、そういう言葉で曲を作る。それはそれでいいのですが、今回の『祝祭』にはそういった時代を感じさせる言葉は一切登場しません。カネコアヤノはあくまでいつの時代にもある言葉で、いつの時代にもある感情を綴っているんです。それが彼女の歌声に乗せられた時に、無敵になるんです。
カネコアヤノという存在、そしてこの『祝祭』というアルバム、間違いなく時代を超えたものになるでしょう。懐かしいようで新しい、オルタナティヴな名盤の誕生。必聴です!
カネコアヤノ『祝祭』 2018/4/25 out now
1. Home Alone
2. 恋しい日々
3. エメラルド
4. ごあいさつ
5. ジェットコースター
6. 序章
7. ロマンス宣言
8. ゆくえ
9. サマーバケーション
10. カーステレオから
11. グレープフルーツ
12. アーケード
13. 祝日
↑より詳しく知りたい方はこちらを。これまでの活動についてや、本人のインタビューも読めます。
(文:おすしたべいこ)
大人病と少女葬~アーバンギャルド「少女フィクション」(2018)
はじめに
どうも、書きたいことが多すぎて整理できない〜!なアキオです。
みんなが新生活だなんだと新たな1歩を踏み出してる中で、やっべえ書けねえやばい…みたいに頭を抱えていました。マジです。
自分の買った新譜の話をしたいけど、でもヴィジュアル系求められてる節あるよな〜…みたいに謎のジレンマに陥ってました。
読者受けをいっちょ前に意識し始めてたとか恥ずかしさの極みですね、罵りましょう。
そんな時に購入した「トラウマテクノポップバンド」アーバンギャルドの新譜。
これを聞いて…前々から、ほんとに高校生くらいの頃からぼんやり浮かんでたものを言葉にできるかな、と思って書くことにしました。
難産が故に言葉を紡ぎあげたお見苦しさ、はありますがどうかお付き合いください。
アーバンギャルド「少女フィクション」(2018)
曲目
- あたしフィクション
- あくまで悪魔
- ふぁむふぁたファンタジ ー
- トーキョー・キッド
- ビデオのように
- 大人病
- インターネット葬
- 鉄屑鉄男
- キスについて
- 少女にしやがれ
- 大破壊交響楽
アーバンギャルドを語るのにまず外せないのは、
「少女」という存在についてである。
アーバンギャルドは一貫して、「少女」と向き合ってきた。
身体的な成長と精神的成長のアンバランスさに揺れる極めてアンバランスな存在。
あろうことか資本主義社会において商品価値を与えられてしまった、子供から大人への儚いモラトリアム。
そんな危うさと生きにくさをこのバンドは一貫して代弁してきたかに思う。
そして、
- 黒髪パッツンや水玉スカートにウィスパーボイス
- シンセ特有の磁器のような硬質で滑らかな音の質感
- 気持ち悪いほどに直接的に「性」と「聖」と「生」と「病」を叩きつける歌詞
- 土台としての役割ではなく装飾的なギター
- 毒々しいまでなポップさと情報量の多い実体を感じさせる音楽。
他にもまだ特徴はあるのだが、それらはバンドの音として外側にくっきりと外殻を与えるとともに、
相反するように内面の少女的脆さと曖昧さをもたらす。
このバンドはその不安定な「少女」というものに寄り添い歌うにはあまりにも適性がありすぎた。
まるで「少女」という「あまりにも不安定すぎてフィクションのようにしか思えない対象」を
まるで自身の存在の全てで表現しているかのようである。
そうやって惹かれてきたファンは特徴的で、
音楽的共通項ではなく、精神的共通項がある様に思う。
ある人は同じように黒髪パッツンだったり、またある人はロリィタ服だったり、ある人はコスプレチックだったり…
好きな音楽はバラバラであれど、ファンの根底に共通してるのは「抵抗」だと感じてる。
ロリィタ服も浜崎容子に容姿を近付けることも、少女的な偶像であることを自分に課す。
それは世間へだけの抵抗ではなく、
時間という不可逆の圧力に対する抵抗に思え、
それは儚くも一種の矜恃を感じさせる。
だが、現実とはなんと残酷なのか、そんな時間はいつまでも続かない。望みの有無に関わらず、
「少女」から「大人」にさせられてしまう。そうやって抵抗してきたファン達ですらもだ。
それを自覚せざるを得ない世間や時間の残酷さに立ち向かい、そんなファン達の葛藤や脆さに正面から向き合ってきた。
アーバンギャルドの10年はそんな極めて真摯な姿勢の10年に思える。
その10年の歩みを総括する今回の新譜は、彼らの根本的な音楽性を曲げることなく、ファンだった人にもファンではなくなってしまった人にもアプローチできる作品となった。
1曲目の「あたしフィクション」では、
CDをまるで供養にかけるかのごとく大量に使っているMVが目を引く。
アーバンギャルド - あたしフィクション URBANGARDE - ATASHI FICTION
フィクションという虚構と脆さを感じさせる言葉と細い声質が飛び交う中に、トレードマークの水玉。
そして対比されるかのような否が応でも力強さを感じさせる情報量の多い音作りと、毒々しいまでのポップなPV。まさしくアーバンギャルドである。
そして2曲目の「あくまで悪魔」でもその表現がブレることは一切ない。
歌詞も少女的な不安定な揺れ動く自我を歌詞に載せて叩きつけているのだが、曲中で松永天馬が
「君の唇 赤くなる理由を 誰も知らない知られちゃいけない 君の瞳が 濡れてる理由を」
と歌うのを聞くと、少女的な不安定さの中に「少女」から「女」へと変わってしまう瞬間が封じ込められているかのように感じ、いつ聞いてもドキッとさせられてしまう。
ただ、詩的なものに偏らずに、
松永天馬と向かい合うように弾いてるおおくぼけいのキーボードが単純にかっこいいという、
いかにもバンドらしい部分も感じさせてくれるのは彼らのバランス感覚がなせる技だろう。
アーバンギャルド - あくまで悪魔 URBANGARDE - AKUMA DES AKUMA
この他にも8bitやシンセを軸にポップなサウンドを展開するのがアーバンギャルドの特徴的だが、
そのポップさはぬるま湯めいたものでは無い。
瀬々信のギターやドラムを交え、時にフリーキーに時に直球勝負で多様な音を詰め込んだポップを奏でる様は、
彼らのビジュアルもあいまってポップとは毒々しいものなのだ、という印象を与える。
「トーキョー・キッド」や「インターネット葬」、「大破壊交響曲」などがそうだろう。
しかし、それだけに終わらないのがアーバンギャルドの引き出しの多さである。
ところで、アーバンギャルドのボーカルは女性である。と、すればそれは何を指すのか。
浜崎容子、彼女にも当然のように「少女」だった時期、「少女」から「大人に」させられしまった時期があるのだと思う。
これが男性が少女を歌うこととは全く違う意味を持つ。
筋肉少女帯を例に取り上げよう。
筋肉少女帯も「少女」をモチーフに「何処へでも行ける少女」や「少女の王国」「少女王国の崩壊」など様々な作品を手掛けているが、大槻ケンヂが「夜想 アーバンギャルド」で言っているようにそこに男性の理想像が投影されている、と本人も述べている。
それと比較するとアーバンギャルドというのは浜崎容子という主体的女性性が存在するが故に、女性であるがゆえの「少女」への存在の揺らぎやよりリアリティを持って迫ってくるように思う。
「大人病」のような自分は昔のままではなかった、という悲哀のこもった曲に顕著である。
「真夜中のベッドで気づいたの わたしもかかったの 大人病
好きだった歌はもう聴けなくて 好きだったドレスも着なくなる」
それはまるで自分にも向けられたものの様にもあるし、
大人になってアーバンギャルドを聞かなくなったかつてのファンにも向けられたようでもある。
この曲は松永天馬と浜崎容子の共作だが、女性と男性ではこの変化の実感度合いが全く違うのだろうなと感じさせる歌詞である。
この曲こそが今回のアーバンギャルドの象徴で、まるで自身の変化やファンの変化、その全てに赦しと癒しを与えるかのように思えた。
まるで「少女」だった自分やファン達の葛藤を手厚く葬るように。思うに葬式とは遺された全ての者達のためにあるのだ。
やはり節目に相応しい 、そう感じた。
他にも紹介したい曲、できればファンの1人としてちゃんとメンバーにも触れたいのだがそれはまたおいおい。
最後に
今回の記事を書くにあたって色々読んだり、考えたりしたのだが、自分が男性であるがゆえの難産さを感じた記事であった。
しかし、改めてアーバンギャルドというバンドのファンへの真摯さやバンドとしての変化を感じることが出来た。いちファンとして嬉しく思うし、今後も彼らの作る毒々しいまでにポップな楽曲を楽しみにするばかりだ。
最後に今回の記事を作成するにあたって読んだ参考文献のようなものやインタビューを載せておく。
参考文献
制服イズム〜禁断の美学 (トーキングヘッズ叢書 No.60)
- 作者: アトリエサード
- 出版社/メーカー: 書苑新社
- 発売日: 2014/10/27
- メディア: 単行本
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私の、内なる戦い〜“生きにくさ"からの表現 (トーキングヘッズ叢書 No.71)
- 作者: アトリエサード
- 出版社/メーカー: 書苑新社
- 発売日: 2017/07/28
- メディア: 単行本
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自分の書いた記事の中ではおそらく最も様々な所から表現を考えた記事である。
引用などではないが、直接にも間接にも影響してるので、気になった方は是非。
(文:アキオシロートマグル)
Honeybloodはそんなに可愛かったですか?
いや知らんよ。toraです。
このサークルがはてなブログに移行する前にこんな記事を書かせていただきました。
delivery-sushi-records.amebaownd.com
あら懐かしい。前サイトで一番ガチで書いたのにあんまり受けなかったこの記事w
これ書いたのが確か昨年のサマソニ行く前で、その中でご紹介したデュオの中で何組かまだほとんど聴いてないデュオがいくつかあったわけです…なんか
「こんな知ってまっせ!!!」
的な体で書いてすんません…これじゃオエイシ…ゴッフゴッフ!!!!!!
そのサマソニに参加しに東京へ行ったついでに寄ったディスクユニオンで見つけたのが、先の記事でも紹介させていただいたこのデュオです!
なんか調べたら、1stの頃と今とでドラムが違うらしい…道理で変だと思ったのか…リサーチ不足ですわ…
な、スコットランド出身のHoneybloodです!
このデュオを掘り下げていきます。
~ざっくりバイオグラフィー~
オリジナルメンバーの
Stina Tweeddale (Gt.&Vo.)(写真右)
Shona McVicar (Dr.)(写真左)
は同じコンサート会場で出会います。Stinaからの声かけで2012年に結成。2014年に1stアルバムをリリースします。
が、Shonaが2013年に脱退…代わりに加入したのが今のドラマー、Cat Meyrs(写真右)です。なんかいかつい…2016年に、現在のメンバーで2ndアルバムをリリース。
(だいたいwiki調べ)
~1stアルバム ”Honeyblood”~
記念すべき1st。非常にさわやかなインディーロック感をもったアルバムです。ギターサウンドがとてもカラッとしているのがさわやかさを助長しているように感じます。
アルバムのスタートを飾るこの曲。これで完全に落ちました。ちょっとRide的なさわやかさも感じます。んん~これ聴きながら海辺をチャリで爆走したい!(???)
PVも可愛らしい。イントロからこのさわやかさ。なんかスコットランドって割とこういう感じなんすかね?Travisとか。間奏のところはシューゲイザー感もありますね。割とその辺の音楽からも影響を受けてたりするんでしょうか。
Stinaのちょいと乾いた印象を受ける声もまた味です。
ちょっぴりグランジライクなオルタナソング。ズンズンとしたドラムとともに進んでいきますが、儚げな曲調がふと現れます。
この曲なんかカントリー感あるインディーロック。Courtney Barnettっぽさもあります。
とてもUK的なインディーサウンド。これをたった二人で奏でているんだからすごい…
~2ndアルバム ”Babes Never Die”~
メンバーが変わると作風も変わる。
なーんてのはよくある話ですが、このHoneybloodも例外ではないように思えます。まあ、メンバーチェンジが原因かは知りませんがw
こちらの2ndでは、よりオルタナ/グランジポップ感が増してます。かっこいい!と思える曲はこちらの方が多いかと。暗めな曲も多め。ドラムも人が変わったからか、パワフルになった印象。
(最初の曲が”Intro”なので実質)アルバム一曲目。割と1stの雰囲気を世襲しているように思えますが、アウトロです!このリフがなんともオルタナティブ!
ギターがよりエッジのきいたサウンドになり、よりグランジぃ感じに!
サウンドはオルタナ感あるものになりましたが、曲そのものは結構さわやか痛快…ですがインディーロック的というよりグランジポップ的なさわやかさを感じます。
めっちゃクチャすきな曲。Arctic Monkeys感さえ感じるガレージでオルタナな曲。
ですが、よく聴いてみてください。
……………
ベースないか?
どうなってんだ!!!キミらギタードラムデュオでしょ!?!?
気になって調べたらこんなの出てきました。ドラムのCatに注目!
なんかパッドみたいなの叩いてベースの音だしながらドラムでリズムも刻んでおる…
すげえ力業だ!ひとりRoyal Bloodも夢じゃない!(違う)
さわやかなインディーロックサウンドとちょいとダークなグランジポップ風オルタナサウンドがダブルで味わえる…それがHoneybloodの魅力なのです!
~ルックス~
……………
何を言い出すんだ。
いや、でも大事よ今時。ほら、ジャンルは違えど、同じグラスゴー出身のLauren Mayberry(Chvrches)を見てごらんよ。
(鬼畜か)
皆さん的にはどうでしょう。Stinaは割とかわいいと思います。
では失敬~
(文:tora)
【スーパーカー全アルバムレビュー①】夏空へ逆ダイブ【スリーアウトチェンジ】
突然ですが、あなたはこのCDジャケットを見たことがあるでしょうか?
青い背景に点線が4本、左下に控えめなロゴ。そうです、このあまりにも有名なジャケットは、日本のロックバンド・スーパーカーの1stアルバム『スリーアウトチェンジ』。音楽(特にロック)が好きな人の中にはファンを公言する人は多いだろうし、聴いたことがないにしてもその存在は知っているであろう、もはや伝説的なバンドです。
そんな彼らは、1997年にシングル"cream soda"でデビューしてから20周年を迎え、活動中にリリースしたフルアルバムが全てアナログ化されたのも記憶に新しいかと。
そして2018年4月25日、ついに初のオールタイム・ベストアルバム『PERMAFROST』を発表しました。
う〜む、なんとなく3rdアルバム『Futurama』を想起させるシンメトリー具合。それもそのはず、今回のアートワークは木村豊氏によるもの。『Futurama』だけでなく、椎名林檎やスピッツのジャケットも数多く手がける超売れっ子です。↓
そして今回のベスト、なんと初回盤には全MVが収録されたブルーレイとメンバーが監修したブックレット付き。これは手に入れる価値、アリです。
ここからは少し個人的な話になりますが、私がスーパーカーに夢中になったのはまだ自分が大学生だった2014年頃。つまりリアルタイムで彼らの音楽を聴いた世代ではない訳です。
だからこそ語りたい! 青春時代をスーパーカーと共に過ごしてきた人たちの過去への叶わぬ憧れを、自ら語ることで昇華してやりたい…!
ということで、このタイミングで全アルバムの全曲レビューを書かないでどうする?となった訳です。今回から全6回に分けて、素直にリリース順に書くことにしました。主観も客観も織り交ぜながら、とにかく思いの丈をぶちまけます。どうかお付き合いください。
* * *
一発目はもちろん、冒頭でも紹介した『スリーアウトチェンジ』。キャッチーなメロディとシューゲイザーの文脈で語られることも多いギターサウンドが相まって、「これこそがスーパーカーだ!」という方も多いのでは?
リリースは1998年4月1日。全19曲と大ボリュームながら、一切の捨て曲無しというものすごいアルバム。しかもほぼ一発録り。ジザメリもライドもオアシスも飲み込んでそれらを類まれなポップセンスで日本のロックシーンに落とし込んだ革新的な名盤。やばいです。早速いきましょう!
* * *
1. cream soda
1997年9月21日、1stシングルとしてこの曲がリリースされた時から伝説は始まった…。ここまでシンプルかつ心を鷲掴みにされるイントロのギターがあるだろうか? いや、ない!!!
自動車なら僕の白いので許してよ。
マジでそれな。残念ながらお金ないからさ、マジで。誰に言ってんだ?
この曲のすごさは、歌詞に一切クリームソーダを思わせるフレーズがないのにどう考えても"cream soda"以外のタイトルが考えられない所だと声を大にして言いたい。日本のロック史に燦然と輝く名曲。
なお、アルバムに収録されたものはシングルとは別テイク。個人的にはシングルの方が断然好きです。
2. (Am I) confusing you?
"cream soda"のカップリング。歌詞に登場する「青い森 」はそのまま彼らの故郷である青森のことでしょう。
窓の外で僕は空見上げて
青い森をまた思い出す。
というフレーズから、当時の彼らのアイデンティティが青森と強く結びついてたことを思わせる。うーん、良い曲だ…。こちらもシングルとは別テイクですね。
ちなみにこの曲はカラオケでよく歌います。誰得情報やねん。
3. smart
ヘヴィーなギターがかっこいい! そして歌詞。
僕らはアミダで人生でも決めれるハズだし
そのうち涙で反省でもしてみる覚悟さ。
と言い放つ無敵感たるや! 若さがこれでもかってくらい溢れ出してやがる。"アミダ"と"涙"で韻をしっかり踏むあたり、当時からジュンジの作詞は冴えてます。
4. DRIVE
後にアルバムからリカットされるミキちゃんヴォーカルの4thシングル。シンプルなアコギのサウンドがグッと来ますね。これぞ引き算のアレンジ!
ねえ、こんな日は一緒に空をながめていよう。
ねえ、そんな目じゃぁきっと涙しか見えないよ。
…なんて優しい歌詞なんだ。ミキティ〜〜〜!!!
5. Greenage
私だって言ってやりたいですよ、
遊ばれてない? 憧れてない?
こんな僕に。
なんてさ。そんなこと今どきアルファツイッタラーだって言わないよって感じだな。え?
曲自体はコードが超簡単なので、コピーしたいならまずこの曲がオススメかもしれません。
6. u
タイトルの素っ気なさ。歌詞も
会いたくなぁれ、僕に。
会いたくなぁれ、また…
とか言って謎のおまじないをかけてる。すごいよなこの歌詞。正直言ってシンプルにダサいです! 自分がボーカルだったらこんな歌詞よしてよって言います。
でも本当にギターの音が好きすぎるんだよな…。
7. Automatic wing
これもさ、歌詞ダサくないっすか…?
いや、別に今に始まったことじゃなくて、ジュンジが書く歌詞って割とダサかったり気障だったりするんですよね。この曲は特にそれが顕著というか。
子供の頃から夢に見てた空で
ステキな星には君の名前つけた。
の時点で割と鳥肌立っちゃうけど、
土星の軌道に届いて笑顔でキスした。
時計のむこうに届けるセレナーデ。
と来たもんだ。深夜のツイートでもさすがにこんなことは言わないよ。え?
とにかく、後にJ-POPシーンで作詞家として大活躍するジュンジの伏線が、ある意味すでにここで張られていたってことだ…。
それにしても、こんな歌詞でもスーパーカーのサウンドとナカコーのボーカルに乗せてしまえばあっという間に名曲になるというのが、彼らのすごさ。
8. Lucky
あああ〜〜〜!!! このイントロが始まった瞬間にギュッと心を締め付けられる感覚!!! TLで「異性とデュエットしたい曲」のアンケート取ったら絶対1位だろうな。
2ndシングルにしてあまりにも強すぎる。
「あたし、もう今じゃあ、あなたに会えるのも夢の中だけ…。たぶん涙に変わるのが遅すぎたのね。」
ってどんなロマンチストだよ。本当に。
タイトルは「ラッキー」だけど実は「ラッキー」じゃないことを歌ってるというのも良い。
9. 333
のっけから
いい子したくてするなんてどうかしてるよ、
それなのに
どうしてボクを笑えるの?
いい子じゃなくちゃいけないの?
みんな一緒なんてスリルないんじゃないの?
と、小学校の無駄にませたクラスメイトにひたすら怒られる曲です。嘘です。
枠からはみ出ようとする、マジョリティからマイノリティへと一歩踏み出そうとする、その大切さを子供の口から言わせたような、実はメッセージ性の強い曲なのではないでしょうか。
それよか、とにかくミキの声が良すぎる。
10. top 10
何が「トップ10」なんでしょうか。それがずっと分からなくて聴く度にモヤモヤする。
11. My Way
この曲でよく言われるのが「ナカコーのデタラメ英語問題」でしょうか。ラストライブの映像を観たことがある人はナカコーが訳の分からない言葉で歌ってるのをご存じなのでは? リアルタイム世代じゃないのでよく知りませんが、この曲の歌詞をちゃんと歌ったことってあるんですかね…?
そもそもナカコーとミキが「歌詞なんてどうでもいい」と思っていたのは割と有名な話であって。自分だったらそんなこと言われたら即バンド辞めるわ…。(でも「どうでもいい」からこそ、ジュンジの時に寒い歌詞も普通に成り立ってた、とも言えるのか?)
それはともかく、この曲は疾走感があってめちゃくちゃかっこいい。大好きな曲のひとつです。
12. Sea Girl
イントロかっけえな…。でも歌詞が
みんなで行こうよ。人魚になろうよ。
サンゴの城で ダンスをしようよ。
とか言っちゃう訳で。
ディズニーか!!!
13. Happy talking
ミキの声…。本当に良い声ですよね。めちゃくちゃ歌が上手い訳ではないけど、そこがすごくちょうど良いというか。
私とハッピートーキングしてくれる方、募集中です。
14. Trash&Lemmon
これもイントロのギターが超絶かっこいい。
そしてひたすら神様に向かって
愛を返してよ。
と連呼しまくる。奪われちゃったんだねえ〜。奪われちゃったんだよお〜。
15. PLANET
3rdシングル。いやいや、どう考えても3枚目の貫禄じゃねえだろ…。
この曲にも"青い森"が登場しますよね。
青い森にはよく似合う
小さな僕のプライドだよ。
って、めちゃくちゃ良いフレーズだな…。
何についての歌なのかは正直よく分からない。でも言葉ひとつひとつが響いてくるし、この曲に「PLANET」というタイトルがついてるのもすごい。結成して間もない頃、コーダイの実家の六畳一間で作られた曲だそうです。名曲はどこでだって生まれる。
16. Yes,
ジザメリとライドを良い感じで混ぜたようなかっこよさ。これを聴くだけでぶち上がります。
今から 出かけようよ、ねぇ?
と歌うミキの後ろで鳴るギターがかっこよすぎる。
17. I need the sun
だいたいでいい、未来が見えたら始めるのさ。
という歌詞がシンプルかつグッとくる。でも
アイ ニード ザ サン
ってカタカナで表記するのはちょっと違う気がするな…。
18. Hello
「Lucky」のカップリング。この曲めちゃくちゃ好きですね。イントロから本当にかっこよくて、サビでナカコーからミキにボーカルが代わるのも良いし、少しブレイクするのもフックになってる。
青春の最中は前をじっと見つめていてよ。
運命も運勢もたぶんきっと当たってないよ。
という、若さゆえのポジティブさが最高に気持ちいい。最高だ…。
19. TRIP SKY
ラストライブの最後も飾った約13分の大曲。
この曲はとにかくアウトロですよね。延々と続くアウトロに胸が締め付けられる。それが突然ブッツリ切れてこのアルバムは終了。その際に訪れる読後感ならぬ「聴後感」は他のバンドやアルバムではなかなか得られないと思います。
* * *
…とまあ、長々と語ってきた訳ですが。冒頭で「革新的な名盤」とか言っておきながらちょいちょいディスってないか?と思った方もおられよう。もちろんこれは愛ゆえのディスりです。ディスりなのかよ。
先程も述べたとおりジュンジの書く歌詞は結構な頻度でダサかったりするのですが、でもそれを含めて好きだし、それが好きだと言えるのはナカコーのメロディセンスと4人が奏でるサウンドがあってこそだと思うんです。
やがてスーパーカーは解散してしまいますが、本当に絶妙な均衡で成り立っていたバンドだったのだろうと思います。その儚さも今となっては「魅力」と言えるかもしれません。
私はこのアルバムは夏が似合うと思ってます。オルタナとかシューゲイザーのヒリヒリした音像って、やっぱりアスファルトに照りつける日差しとか、海岸線から見渡すキラキラした水面とか、そういう風景を想起させるんですよね。
特に『スリーアウトチェンジ』は、聴いていると真夏の青空に「逆ダイブ」したくなるような爽快感と焦燥感と青春と若さとロマンチシズムが詰まってると思います。
だから君も、今から出かけようよ、ねぇ?
(文:おすしたべいこ)