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【スーパーカー全アルバムレビュー①】夏空へ逆ダイブ【スリーアウトチェンジ】

 

突然ですが、あなたはこのCDジャケットを見たことがあるでしょうか?

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青い背景に点線が4本、左下に控えめなロゴ。そうです、このあまりにも有名なジャケットは、日本のロックバンド・スーパーカーの1stアルバム『スリーアウトチェンジ』。音楽(特にロック)が好きな人の中にはファンを公言する人は多いだろうし、聴いたことがないにしてもその存在は知っているであろう、もはや伝説的なバンドです。

 

そんな彼らは、1997年にシングル"cream soda"でデビューしてから20周年を迎え、活動中にリリースしたフルアルバムが全てアナログ化されたのも記憶に新しいかと。

そして2018年4月25日、ついに初のオールタイム・ベストアルバム『PERMAFROST』を発表しました。

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う〜む、なんとなく3rdアルバム『Futurama』を想起させるシンメトリー具合。それもそのはず、今回のアートワークは木村豊氏によるもの。『Futurama』だけでなく、椎名林檎スピッツのジャケットも数多く手がける超売れっ子です。↓

そして今回のベスト、なんと初回盤には全MVが収録されたブルーレイとメンバーが監修したブックレット付き。これは手に入れる価値、アリです。

 

ここからは少し個人的な話になりますが、私がスーパーカーに夢中になったのはまだ自分が大学生だった2014年頃。つまりリアルタイムで彼らの音楽を聴いた世代ではない訳です。

だからこそ語りたい! 青春時代をスーパーカーと共に過ごしてきた人たちの過去への叶わぬ憧れを、自ら語ることで昇華してやりたい…!

 

ということで、このタイミングで全アルバムの全曲レビューを書かないでどうする?となった訳です。今回から全6回に分けて、素直にリリース順に書くことにしました。主観も客観も織り交ぜながら、とにかく思いの丈をぶちまけます。どうかお付き合いください。

 

 

* * *

 

 

一発目はもちろん、冒頭でも紹介した『スリーアウトチェンジ』。キャッチーなメロディとシューゲイザーの文脈で語られることも多いギターサウンドが相まって、「これこそがスーパーカーだ!」という方も多いのでは?

 

リリースは1998年4月1日。全19曲と大ボリュームながら、一切の捨て曲無しというものすごいアルバム。しかもほぼ一発録り。ジザメリもライドもオアシスも飲み込んでそれらを類まれなポップセンスで日本のロックシーンに落とし込んだ革新的な名盤。やばいです。早速いきましょう!

 

 

* * *

 

 

1. cream soda

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1997年9月21日、1stシングルとしてこの曲がリリースされた時から伝説は始まった…。ここまでシンプルかつ心を鷲掴みにされるイントロのギターがあるだろうか? いや、ない!!!

自動車なら僕の白いので許してよ。

マジでそれな。残念ながらお金ないからさ、マジで。誰に言ってんだ?

この曲のすごさは、歌詞に一切クリームソーダを思わせるフレーズがないのにどう考えても"cream soda"以外のタイトルが考えられない所だと声を大にして言いたい。日本のロック史に燦然と輝く名曲。

なお、アルバムに収録されたものはシングルとは別テイク。個人的にはシングルの方が断然好きです。

 

 

2. (Am I) confusing you?

"cream soda"のカップリング。歌詞に登場する「青い森 」はそのまま彼らの故郷である青森のことでしょう。

窓の外で僕は空見上げて
青い森をまた思い出す。

というフレーズから、当時の彼らのアイデンティティが青森と強く結びついてたことを思わせる。うーん、良い曲だ…。こちらもシングルとは別テイクですね。

ちなみにこの曲はカラオケでよく歌います。誰得情報やねん。

 

 

3. smart

ヘヴィーなギターがかっこいい! そして歌詞。

僕らはアミダで人生でも決めれるハズだし
そのうち涙で反省でもしてみる覚悟さ。

と言い放つ無敵感たるや! 若さがこれでもかってくらい溢れ出してやがる。"アミダ"と"涙"で韻をしっかり踏むあたり、当時からジュンジの作詞は冴えてます。

 

 

4. DRIVE

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後にアルバムからリカットされるミキちゃんヴォーカルの4thシングル。シンプルなアコギのサウンドがグッと来ますね。これぞ引き算のアレンジ!

ねえ、こんな日は一緒に空をながめていよう。
ねえ、そんな目じゃぁきっと涙しか見えないよ。

…なんて優しい歌詞なんだ。ミキティ〜〜〜!!!

 

 

5. Greenage

私だって言ってやりたいですよ、

遊ばれてない? 憧れてない?
こんな僕に。

なんてさ。そんなこと今どきアルファツイッタラーだって言わないよって感じだな。え?

曲自体はコードが超簡単なので、コピーしたいならまずこの曲がオススメかもしれません。

 

 

6. u

タイトルの素っ気なさ。歌詞も

会いたくなぁれ、僕に。
会いたくなぁれ、また…

とか言って謎のおまじないをかけてる。すごいよなこの歌詞。正直言ってシンプルにダサいです! 自分がボーカルだったらこんな歌詞よしてよって言います。

でも本当にギターの音が好きすぎるんだよな…。

 

 

7. Automatic wing

これもさ、歌詞ダサくないっすか…?

いや、別に今に始まったことじゃなくて、ジュンジが書く歌詞って割とダサかったり気障だったりするんですよね。この曲は特にそれが顕著というか。

子供の頃から夢に見てた空で
ステキな星には君の名前つけた。 

の時点で割と鳥肌立っちゃうけど、

土星の軌道に届いて笑顔でキスした。
時計のむこうに届けるセレナーデ。

と来たもんだ。深夜のツイートでもさすがにこんなことは言わないよ。え?

とにかく、後にJ-POPシーンで作詞家として大活躍するジュンジの伏線が、ある意味すでにここで張られていたってことだ…。

それにしても、こんな歌詞でもスーパーカーサウンドとナカコーのボーカルに乗せてしまえばあっという間に名曲になるというのが、彼らのすごさ。

 

 

8. Lucky

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あああ〜〜〜!!! このイントロが始まった瞬間にギュッと心を締め付けられる感覚!!! TLで「異性とデュエットしたい曲」のアンケート取ったら絶対1位だろうな。

2ndシングルにしてあまりにも強すぎる。

「あたし、もう今じゃあ、あなたに会えるのも夢の中だけ…。たぶん涙に変わるのが遅すぎたのね。」

ってどんなロマンチストだよ。本当に。

タイトルは「ラッキー」だけど実は「ラッキー」じゃないことを歌ってるというのも良い。

 

 

9. 333

のっけから

いい子したくてするなんてどうかしてるよ、
それなのに
どうしてボクを笑えるの?
いい子じゃなくちゃいけないの?
みんな一緒なんてスリルないんじゃないの?

と、小学校の無駄にませたクラスメイトにひたすら怒られる曲です。嘘です。

枠からはみ出ようとする、マジョリティからマイノリティへと一歩踏み出そうとする、その大切さを子供の口から言わせたような、実はメッセージ性の強い曲なのではないでしょうか。

それよか、とにかくミキの声が良すぎる。

 

 

10. top 10

何が「トップ10」なんでしょうか。それがずっと分からなくて聴く度にモヤモヤする。

 

 

11. My Way

この曲でよく言われるのが「ナカコーのデタラメ英語問題」でしょうか。ラストライブの映像を観たことがある人はナカコーが訳の分からない言葉で歌ってるのをご存じなのでは? リアルタイム世代じゃないのでよく知りませんが、この曲の歌詞をちゃんと歌ったことってあるんですかね…?

そもそもナカコーとミキが「歌詞なんてどうでもいい」と思っていたのは割と有名な話であって。自分だったらそんなこと言われたら即バンド辞めるわ…。(でも「どうでもいい」からこそ、ジュンジの時に寒い歌詞も普通に成り立ってた、とも言えるのか?)

それはともかく、この曲は疾走感があってめちゃくちゃかっこいい。大好きな曲のひとつです。

 

 

12. Sea Girl

イントロかっけえな…。でも歌詞が

みんなで行こうよ。人魚になろうよ。
サンゴの城で ダンスをしようよ。 

とか言っちゃう訳で。

ディズニーか!!!

 

 

13. Happy talking

ミキの声…。本当に良い声ですよね。めちゃくちゃ歌が上手い訳ではないけど、そこがすごくちょうど良いというか。

私とハッピートーキングしてくれる方、募集中です。

 

 

14. Trash&Lemmon

これもイントロのギターが超絶かっこいい。

そしてひたすら神様に向かって

愛を返してよ。

と連呼しまくる。奪われちゃったんだねえ〜。奪われちゃったんだよお〜。

 

 

15. PLANET

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3rdシングル。いやいや、どう考えても3枚目の貫禄じゃねえだろ…。

この曲にも"青い森"が登場しますよね。

青い森にはよく似合う
小さな僕のプライドだよ。

って、めちゃくちゃ良いフレーズだな…。

何についての歌なのかは正直よく分からない。でも言葉ひとつひとつが響いてくるし、この曲に「PLANET」というタイトルがついてるのもすごい。結成して間もない頃、コーダイの実家の六畳一間で作られた曲だそうです。名曲はどこでだって生まれる。

 

 

16. Yes,

ジザメリとライドを良い感じで混ぜたようなかっこよさ。これを聴くだけでぶち上がります。

今から 出かけようよ、ねぇ? 

と歌うミキの後ろで鳴るギターがかっこよすぎる。

 

 

17. I need the sun

だいたいでいい、未来が見えたら始めるのさ。

という歌詞がシンプルかつグッとくる。でも

アイ ニード ザ サン 

ってカタカナで表記するのはちょっと違う気がするな…。

 

 

18. Hello

「Lucky」のカップリング。この曲めちゃくちゃ好きですね。イントロから本当にかっこよくて、サビでナカコーからミキにボーカルが代わるのも良いし、少しブレイクするのもフックになってる。

青春の最中は前をじっと見つめていてよ。
運命も運勢もたぶんきっと当たってないよ。 

という、若さゆえのポジティブさが最高に気持ちいい。最高だ…。

 

 

19. TRIP SKY

ラストライブの最後も飾った約13分の大曲。

この曲はとにかくアウトロですよね。延々と続くアウトロに胸が締め付けられる。それが突然ブッツリ切れてこのアルバムは終了。その際に訪れる読後感ならぬ「聴後感」は他のバンドやアルバムではなかなか得られないと思います。

 

 

* * *

 

 

…とまあ、長々と語ってきた訳ですが。冒頭で「革新的な名盤」とか言っておきながらちょいちょいディスってないか?と思った方もおられよう。もちろんこれは愛ゆえのディスりです。ディスりなのかよ。

 

先程も述べたとおりジュンジの書く歌詞は結構な頻度でダサかったりするのですが、でもそれを含めて好きだし、それが好きだと言えるのはナカコーのメロディセンスと4人が奏でるサウンドがあってこそだと思うんです。

やがてスーパーカーは解散してしまいますが、本当に絶妙な均衡で成り立っていたバンドだったのだろうと思います。その儚さも今となっては「魅力」と言えるかもしれません。

 

私はこのアルバムは夏が似合うと思ってます。オルタナとかシューゲイザーのヒリヒリした音像って、やっぱりアスファルトに照りつける日差しとか、海岸線から見渡すキラキラした水面とか、そういう風景を想起させるんですよね。

特に『スリーアウトチェンジ』は、聴いていると真夏の青空に「逆ダイブ」したくなるような爽快感と焦燥感と青春と若さとロマンチシズムが詰まってると思います。

 

だから君も、今から出かけようよ、ねぇ?

 

 

(文:おすしたべいこ)