怠惰なギターに溺れる - Ulrika Spacek
最近、なんとも気怠げなバンドを見つけた。ロンドンを拠点に活動する、その名もUlrika Spacek(ウルリカ・スペイセク)。
Spotifyのオススメに出てきて、その初見では読めないバンド名とジャケットのアートワークに「ときめき」を覚えた。それで思わず再生した瞬間、これは来たぞ、と。
「再生」という言葉はとても良い。それまでは、少なくとも自分にとっては眠っていた音楽を、自分の手で「再び生かす」という行為、それが「再生」である。そんな感動を久々に与えてくれたのがUlrika Spacekだったわけだ。
バンドは2014年に結成。トリプル・ギター編成の5人組だ。一部のメンバーは前身バンドを含めると2002年頃から活動していたらしい。これまで2枚のアルバムと1枚のEPをリリースしている(2020年3月現在)。デビュー・アルバムとなったのは、2016年の『The Album Paranoia』。
このアルバムについて、「乾燥剤を頬張ったSpacemen 3みたいなサウンド」と評されているのを見つけて思わず笑ってしまった。言い得て妙、である。
そう。このバンド、とにかくアルバム全体から漂う倦怠感とサイケデリックなサウンドがクセになる。調べると、よく「クラウト・ロック」のバンドだと紹介されていることが多いようだが、どちらかと言えば、それこそSpacemen 3やDeerhunter、Sonic Youthなど、US/UKのサイケデリック・ロック〜シューゲイザー〜インディー・ロックの影響が強いような気がしてならない。
ギターの音色は砂漠のように乾いており、形の定まらないヴォーカルは煙のようにゆらゆらと立ち昇っていく。このサウンドが引き起こす酩酊感が、もうたまらないのだ。
そのサイケデリックな音像を踏襲しつつ、より洗練されたようなサウンドを聴かせたセカンド・アルバム『Modern English Decoration』も素晴らしい。「ときめき」を覚えたのはこのジャケットだった。
昼下がり、食事を終えた後ソファーに深く沈み込み、気付いたら微睡んでいる…。彼らの音楽を聴いているとそんな感覚に陥る。そこから抜け出すには強い意志が必要だ。つまり一度その心地良さを知ってしまったら、深い。
あるいはその感覚は、ドラッグ・カルチャーに結びついたような、もっと危険な香りがするかもしれない。そう言った点では、ヒッピー・ムーヴメントやドラッグと強い結びつきがある「クラウト・ロック」を引き合いに出すことにも合点がいく。何を隠そう、彼らはカリフォルニアの音楽フェス、Desert Daze(デザート・デイズ)にも出演経験があるのだ。
デザート・デイズと言えば「サイケデリック・ロックの祭典」であり、そこかしこからマリファナの匂いが立ち込めているというある種の「桃源郷」のようなフェスだ(カリフォルニアでは大麻は合法)。彼らが出演した2018年はTame ImpalaやSlowdive、Warpaint、さらにはMy Bloody Valentineも名を連ねている。
砂漠で行われるフェスで、砂漠のように乾いたギター。これがマッチしないはずがない。
気になった方は、是非彼らの怠惰なギターに溺れてみてほしい。
よろしければこちらも是非。僕が運営しているシューゲイザー専門サイト『Sleep like a pillow』にて、彼らのディスクガイドを書きました。
(文:おすしたべいこ)