天使にふれたよ!(Angelic Milk 1stアルバムレビュー)
2019年最初の記事がこれになります。
天使にふれたよ!、というタイトルから思い出してほしいのは、アニメ「けいおん!」がもう10年前の作品になってしまったということですよ。ジジイになってしまった・・・。
時の流れが恐ろしいという話は置いておいて、先日リリースされたアルバムのレビューをしていこうと思う。
ロシアのロックバンド、Angelic Milk の1stフルアルバム「Divine Biker Love」だ。
ジャケットを見て「あっ(察し)」となるのは待ってほしい。ジャケットが変わっててもバンドをしている人のビジュアルがかっこよかったりもする。そのビジュアルがこれだ。
自己完結の長いフリにお付き合いいただき、ありがとうございました。
どぎつい見た目とジャケットから、胸焼けしそうになるようなポップバンドに見える。
だが、全然違う。ローファイで、ドリーミーで、時にはハードで、とにかくごちゃごちゃでカッコいいオルタナティブロックバンドだ。
(また、ボーカルの女の子はモデルとしても活動してるらしい。美人ってなんでもできるんだね)
これがアルバムの前に出したEPに収録されている曲だ。
angelic milk - "Rebel Black" (OFFICIAL VIDEO)
「そのビジュアルでこれ!?」と言わんばかりの、気だるい感じとサビでギターをかき鳴らす豪快さが完全にツボだ。完全にギャップ萌えだ。
そんな Angelic Milk の1stフルアルバム「Divine Biker Love」がリリースされたのは、ほんの数日前。1月9日だ。旬なうちにぜひ入手してほしい。
バンドとアルバムのざっくりした説明はこれくらいにして、今回のアルバムの収録曲から、自分のイチオシをいくつか紹介したい。
#2. Ball Gag Ki$$
思い切りハードロック。だけどボーカルがずっと気だるげ。作中で激しい側面を存分に見せているのはこの曲。
#4. Acid & Coca-Cola
今作での自分のフェイバリット。鉄琴みたいな音、歪んだ重いベース、ささやくようなエフェクトの効いたボーカル。ごちゃごちゃなのにドリーミー。曲のタイトルはぴったりだ。どこまでも沈んでいくのに体中が甘さで包まれていてやめたくない、そういう気分になる。楽曲の振れ幅がすごい。
#6. Celebrate
こういうオーソドックスなオルタナもやったりする。アルバムの流れで聴くと非常に良い。
Angelic Milk – "Celebrate" (OFFICIAL AUDIO)
ざっくりとしたレビューだが、一聴の価値は十分にある若手バンドだ。次のアルバムではもっとひねくれたロックを聞かせてほしい。
アルバム採点
3.0/5.0
(文:ジュン)
2018年の日本のエモい作品を紹介したい件
タイトルそのままだが、日本のエモバンドがいろいろ良作を出してくれたんじゃないだろうか、2018年。もっとも、名古屋のstiffslackから知ったものが大概で、まだまだ良作はあったんだろうが。
そもそも海外のエモも今年すごかった。Tangled Hair、Lifted Bells、Tiny Moving Parts、Self Evident、Gulfer、Covet、Nervus などのバンドがアルバム、EPをリリース。レジェンド枠のリリースはゲットアップキッズのEPとミネラルの新曲。もう海外枠だけでいっぱいいっぱいである。
それでも日本のバンドを取り上げるのは、新作を引っさげてやってくれたライブを生で観た感動をそのままに、ぜひ紹介したいという気持ちがあるからだ。多くは生で観たバンドから選んだ。機会があればこの記事でバンドを覚えて見に行ってみてほしい。
さて、前置きが長くなってしまったが、紹介したいアルバムを下に一覧でわかるようにまとめた。それぞれについて簡単にコメントしていく。
1. The Firewood Project 「Causes」
『2018年の日本のエモアルバムの最高傑作は?』と聞かれたら真っ先に自分はこれを挙げたい。Husking Bee、Malegoat というエモエモなバンドのメンバーで構成されている。自分はレコ発で名古屋に来た時、Tigers Jawと大阪でライブした時、それぞれのライブを観た。生で体感するとベテランの技巧を感じた。2回とも、全曲が安定して綺麗なアンサンブルが聞けた。来年も是非ライブを観たい。
アルバムはフルアルバムとしては最初の作品。ざっくりと言えば、1stアルバムの頃のゲットアップキッズをもっと甘くして、音の粗さを取ったような感じ。このアルバムはストリーミングでも聞くことができる。なのでぜひ聞いてほしい。なんとしても多くの人に知られてほしい作品、そしてバンドだ。アルバム収録曲を2つ貼っておく。
The Firewood Project - Dove In A Haze
The Firewood Project - "Ghost" (Official Video)
2. Peelingwards 「CAMELUS」
Cinema Staff のメンバー二人を軸とするバンド、Peelinwardsの1stフルアルバム。cinema staffの優しさのあるサウンドから比べると、ずっとポストハードコア的で、マスロック的で、という要素が合わさった硬派な作品になっている。でもボーカルは絶叫とかではない。自分は9mmの卓郎のようだと思った。散文で堅い表現の羅列が続く。それを(同じことをさっきも書いたが、)硬派な音が支えている。ヘヴィな音があるわけではないが、一体となって耳に迫る感じはなかなかの重みがある。面白い作品。レコ発で名古屋にせっかく来てくれたが、行けなかったことが心残りだ。アルバム収録曲を以下に1つ貼っておく。
3. loqto 「gēo」
東京で主に活動する3ピースインストバンド、loqto。今作は1stフルアルバム。今年のloqtoはカナダのgulferとツアーをして、イタリアのValerian Swingとツアーをして、マスフェスではステージのトリを務めた。ビッグなバンドになったんだなと思った。(知ったのは今年なのに何を言ってるんだろう。)アルバムはオーソドックスなインストマスロックで聴きやすい。だが、名古屋でライブを観るとすごかった。とにかく音がデカい。本当に3人で出してる音なのかと思うほど音が激しく、鬼気迫るという表現がぴったりだった。ライブ化けするバンドなんだと感じた。アルバムもいいが、とにかくライブを観ることを推奨したい。アルバム収録曲を以下に1つ。
4. Summerman 「fan」
東京・吉祥寺から。今作は2枚目のフルアルバムだ。エモというよりはギターポップに近い。ジョニーフォリナーのメンバーから成るバンド、Yr poetryを引き連れての名古屋でのライブを観た。トリプルギターが合わさる分厚い音がとにかく気持ちよかった。シューゲイザーとか轟音とかとは違う。迫るとか襲われるという音ではなく、包まれるような音。ミドルテンポの曲が多く、ブレイクの一つ一つが丁寧な感じがしててとても聞きやすい。(ライブで観るとブレイクの瞬間に全員がしっかり向き合って一気にいく感じがすごくかっこよかった。)
Homecomingsとか好きな人、90年代みたいな良質で甘いギターポップが好きな人はぜひ手に取ってほしい。以下のアルバム収録曲を聞いてもらえればわかると思う。
5. Falls 「Egg Hunt」
またまた東京・吉祥寺から。アルジャーノンとかのエモリバイバルを彷彿とさせる正統派なバンド3ピースバンド。有名なバンドだから今更何を、という感じはあるだろうけど、今年出したEPが良かった。そしてそれ以上にライブが良かった。名古屋で今年2回見た。レコ発で来た時とSummermanとYr poetryと名古屋に来た時。突っ切る疾走感と聞かせる時にはクールな感じ、っていうこのエモの王道みたいな展開のバランスがほんとに見事で、見たライブ2回とも超楽しかったし、ずっと聞いてられるような気がした。複雑になりすぎず、簡素にもなりすぎず、ホントに絶妙。
作品の話に戻ると、どの曲も素晴らしく、あの玉屋2060%のリミックスした曲が収録されてて、最後にはちょっとした仕掛けもある。歌詞が書かれた紙まで楽しめる。作品の外も内も面白いEPになってるので、ぜひ。
6. Emitation 「Distribution channel of the three clouds」
名古屋のエモバンドだ。今作は一応シングルである。全20曲収録、そのすべてが30秒程度で終わる曲だらけ。エモのわんこそば(stiffslack店長の表現らしい)。Fallsのレコ発と同じイベントで、名古屋でトリを務めたライブを観た。MCで修学旅行中にCap'n Jazzのアルバムを買った話を聞いた。彼らの名前を出す通り、荒々しくショートチューンで叫びまくるのに超爽やかなエモが楽しめた。今作は彼らにとって2作目のEPであり、1作目はこれよりは少し長い曲が楽しめる(それでも1分程度でどれも終わってしまう)。Enemiesとかalgernonとかsnowingとかのリバイバルバンドが好きなら間違いない作品。この2作目でドラムが変わって再出発という感じで、これからが楽しみで仕方ないバンドで、もうすでに自分はファンである。またライブが見たいし、新作を待っている。
ざっとこんなところで記事を終わろうと思う。来年もなるべく多くのライブにいって、いろんな日本のエモバンドを知りたい。
(文:ジュン)
2018年の名盤(表・裏)※ジュン選出
どこかしこも年間ベストを発表する時期になってきたので、自分も選んでみようと思う。年間ベストというよりは、今年の良かったアルバムを表バージョン、裏バージョンで3枚ずつ選んでみた。
まずは表バージョンの3枚。(ランキング形式ではなく、順番は適当である)
1. The 1975 「A Brief Inquiry Into Online Relationships」
2. Pale Waves 「My Mind Makes Noises」
3. Snail Mail 「Lush」
表バージョンということでベタベタなチョイスをしてみた。それでもやはりこの3枚は誰も外せないんじゃないだろうか。
1. The 1975 「A Brief Inquiry Into Online Relationships」
配信された直後に聞いた。聴きやすさと少しの憂いが絶妙な塩梅である。多くの人が「OKコンピューター」を感じたようだが、自分もそうだ。それは収録曲の「The Man Who Married A Robot」が「Fitter Happier」を思わせるからではない。なんとなく全体的な構成が近いものがあると思ったということ。そして「次はOKコンピューターとかクイーンイズデッドのようでないといけない」というマシューのビッグマウスからそういう耳で聞いてしまっていたことが大きい。実際にここまですごいアルバムを作ってくるとは予想していなかった。
このアルバムについては、我々、出前寿司Recordsとも多少の縁がある音楽サイト(勝手に自分はよきライバルだと思っている)、アポロでも配信リリース早々に素晴らしいレビューが書かれているので、そちらも読んでみてほしい。以下にリンクを貼る。
The 1975 の『A Brief Inquiry into Online Relationships』を徹底調査 - Apollo96
2. Pale Waves 「My Mind Makes Noises」
これについては新譜レビューも書いたし、全歌詞も翻訳してみたしで、自分の中では今年一番思い入れがある作品。詳しくはリンクを下に貼るのでそこから。
来年の単独来日のチケットはとりあえず押さえてあるので、なんとか行けることを切に願う。
(アルバム内容のレビュー)
My Mind Makes Noises レビュー(Pale Waves デビューアルバム) - 出前寿司Records
(全和訳)
Pale Waves 「My Mind Makes Noises」全和訳(前編) - 出前寿司Records
Pale Waves「My Mind Makes Noises」全和訳(後編) - 出前寿司Records
3. Snail Mail 「Lush」
渋谷まで行ってライブを見た(このサイトのリーダー、おすしたべいこと氏と一緒に見た)。最近いい音を鳴らすオルタナ女子がどんどん出てきているが、デビュー作のこのアルバムだけで確固たる地位を得たと思う。
オルタナ女子といえば、ジュリアンベイカーは来年に単独来日するし、ルーシーダカスも今年アルバムを出して、フィービーブリジャーズはアメリカンフットボールのツアーを一緒に回った。そしてそのジュリアンベイカー・フィービーブリジャーズ・ルーシーダカスから構成されるスーパーユニット、ボーイジーニアスが今年初EPを発表した。この勢いは来年も続いてほしい。
というわけで、表バージョンの3枚はここまで。続いて裏バージョンを発表しよう。名盤というより、こんなのも良かった、というのがすこしでも紹介できればというチョイスになっている。
裏バージョンはこれだ。(数字はランキングではなく適当)
1. Hater 「Siesta」
2. Exploded View 「Obey」
3. Peel Dream Magazine 「Modern Meta Physic」
そこそこ話題になったアルバムで構成されているので今更感はあると思うが、こちらも紹介していきたい。
1.Hater 「Siesta」
スウェーデンのインディバンド、ヘイターの2ndアルバム。ギターの音と女性ボーカルの相性がこれも良い。ドリーミー系ともローファイともキラキラしてるとも言い難い、しかし絶妙なギターの音。歌うというよりは独りぼっちで外で自由に弾き語っているような、のびやかだけど陰も感じるような控えめな歌い方。トランペットもピアノもささやかに花を添えているような。北欧の自然が豊かな風景が見えてくるような作品。UKやUSのバンドとかばかり聞いていたが、北欧は今作が僕の初作品だった。押しつけがましい音が一つもなく、ゆったりと一体になって聞くことができる。リラックスしたいときにうってつけのアルバムになってると思う。
2.Exploded View 「Obey」
ポーティスヘッド、ビークのジェフのプロデュースによるアーティスト。ポーティスヘッドが好きなアーティストの一つなので手に取ってみたが、これが素晴らしい。ポーティスヘッドのテイストのまま、もう少しバンドサウンドが増えたような感じというのか、なんというか。ポストパンク?インダストリアル?よくわからない。ただ、どうしようもなく音は暗い。美しい。絶望してるわけじゃないし、悲しいことがあったわけでもない、でも暗闇に身を置いていたい、そういう気分の時ってないだろうか。自分にはある。これはそんな自分にピッタリなアルバム。ノイジーな音も入っていたりして聴くほど深みに入っていけるようになってる。
3.Peel Dream Magazine 「Modern Meta Physic」
NYのアーティスト。ファズの効いたギターに色々音が乗っかる感じでポップ。ここまでに紹介した5枚に比べると一番ごった煮になってる。しかし、どの曲もメロが甘い。あと、なんだか少し前の世代のポップスを聞いているようななつかしさもある。このアルバムを置いている店ではステレオラブを引き合いにだされている。確かにそういう感じもする。薄っぺらい紹介になってしまっているけど、裏名盤に自分が選んだ3枚のうちでは、このアルバムが一番たくさんの人に聞かれてほしい。
アルバムの1曲目はPVが存在するので、とりあえず聞いてみてほしい。
Peel Dream Magazine - Qi Velocity
とりあえず自分が紹介したいアルバムの表・裏はこれでおしまい。表は言わずもがなだろうけど、裏のほうはなるべく「聞いてなかった」って人に刺さってくれればと思う。
あと、2018年はエモとかそっち系の作品が充実してたから、ジャンルを絞ってよかったアルバムをまとめてみたいと思う。
(文:ジュン)
夢と現実の境界を見失う60分間 - Maison book girl『yume』レビュー
2018年11月21日、Maison book girlのメジャー2ndアルバム『yume』がリリースされた。
アルバムリリースの発表はekoms主催の定期ライブイベント「bmg vol.1」(2018年9月18日開催)でアナウンスされ、その衝撃的なビジュアルに湧いたのも記憶に新しい。
※ekoms:ブクガの作詞作曲編曲全てを手がけるサクライケンタが代表を務める事務所。Maison book girlやクマリデパートが所属している。
その後、アーティストビジュアルも一新。真っ赤な景色に佇む井上唯、和田輪、矢川葵、コショージメグミの4人の姿は遠く、もはや表情すらよく見えない。Twitter上ではその色合いから「Syrup16gを彷彿とさせる」という声も多数上がっていた。
↑ Maison book girl アーティストビジュアル
↑ Syrup16g『HELL-SEE』ジャケット
アルバムの内容もこれまでとは一線を画しており、サクライケンタがタイトル通り「夢」を表現した21曲を収録。今回はその全曲レビューをお届けしたい。
※なお、レビューではアルバムのネタバレも含んでいるため、事前情報無しで聴きたいという方は聴いた上で読んでみてほしい。
✱ ✱ ✱
1. fMRI_TEST#2
fMRIとは下記の通り。
fMRI (functional magnetic resonance imaging) はMRIを利用して、ヒトおよび動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つである。※Wikipediaより引用
この説明を読んでも分かる通り、「夢」というテーマに沿ったアルバムとしての印象を決定づけているようなインスト曲。
この曲はワンマンライブ「Solitude HOTEL 6F hiru / yoru」(2018年11月25日開催)でも、曲と曲を繋ぐインターリュードとしてVJと共に効果的な役目を果たしていた。
2. 言選り_
先行シングル『cotoeri』収録のリード曲。本作ではイントロが少しアレンジされた(曲名のアンダーバーはそれゆえ。以降も同じようにアンダーバーが付けられた曲が登場する)。
作詞はサクライケンタが過去に手がけてきた歌詞を人工知能(AI)に学習させ、そこから提示された言葉を使って行われた。それにより意味が通っているようなそうではないような、独特な浮遊感を放っており、リスナーを浮世離れした何処かへと誘っていく。
3. SIX
階段を登った(降りた?)先で扉を開くような音が挿入されたピアノインスト曲。坂本龍一を彷彿とさせるような、どこか物悲しい音像が印象的。
タイトルの意味する所は「Solitude HOTEL」の6階のことだろうか(実際「Solitude HOTEL 6F」のhiru公演の最後とyoru公演の最初で使われていた)。
4. 狭い物語
アルバム発売に先駆けMVが公開され、先行配信もされたリード曲。赤い風景の中をメンバーが歩く様はアルバムのビジュアルイメージを決定づけたように思う。
曲終盤では矢川がソロでこれまでになくエモーショナルにサビを歌い上げている。ライブではそれが特に顕著で観る者を引き付けていた。
↑ MVではただひたすら真っ赤だった世界に色をつけるようなシーンがとても印象的。
5. MOVE
インスト曲。心電図が止まったような音がしばらく続いた後アコースティックギターが鳴らされ、最後にバタバタと走るような音が入る。曲名通り何処かへ忙しなく移動している?
6. ボーイミーツガール
和田がこれまでとは違う歌唱で魅せる本作のキラーチューン。数あるブクガのレパートリーの中でもかなりポップな曲であり、今作のベストに上げる人も多い印象。エレキギターが効果的に使われ、「MOVE」の足音から想起されるような性急な曲調がリスナーを急かす。
ちなみに定期イベントの「bmg」という名称は「ボーイミーツガール」の略なのだろうか?
7. PAST
「過去」と名付けられたインスト曲。しかしメロディをよく聴くと1stアルバム『image』に収録された「blue light」であることが分かる。最後にドアをこじ開けようとする音とそのドアがけたたましく軋む音が鳴る。
8. rooms_
先行シングル『412』のリード曲。こちらはイントロとアウトロがアレンジされて収録。「ボーイミーツガール」では一度外に出ていたように思うが、ここではまた部屋に閉じこもっている。
ライブでは通常、サビの無音部分で照明が全て消え一瞬静寂に包まれるパフォーマンスでお馴染みだが、「Solitude HOTEL 6F」のyoru公演では無音部分以外ほとんどずっと真っ暗という逆の演出をし会場を湧かせた。
9. MORE PAST
こちらも「PAST」に続いてインスト曲…と思いきや、『bath room』に収録された「my cut」のピアノバージョンであることが分かる。4人のボーカルも新たに収録され、シンガーとしての表現力が豊かになっていることがより際立って分かる(特に井上。『bath room』時のものを改めて聴くと拙い部分も多い)。
なお「PAST」(=「blue light」)は2016年、「MORE PAST」(=「my cut」)は2015年リリースということで、実際のリリース年と連動した時系列になっている。
10. 十六歳_
『cotoeri』のカップリング曲。イントロがアレンジされて収録。曲調はかなり明るく、MVではこれまでになくガーリーなメンバーを見ることができるが(全てがガーリーだと思うと衝撃を受ける)、ステージを縦横無尽に走りながら歌うライブパフォーマンスを観るといつも胸が締め付けられる。
11. NIGHTMARE
残念ながらいい夢ばかりではない(そもそも今作で表現される「夢」はあまりいい夢とは言えない気もするが)。電車が走る音が聞こえ、終盤で急に鳴り止む。
12. 影の電車
「NIGHTMARE」の電車のイメージをそのまま具体化したような曲。とは言え曲調はポップ寄りでブクガの中でもかなり歌謡サイド。とにかくメロディがいい。
13. fMRI_TEST#3
「影の電車」のアウトロを断ち切るようにfMRIの音が鳴る。
14. 夢
「fMRI_TEST#3」からシームレスで始まる今作の表題曲。サクライ氏はこの曲について、インタビューで下記のように語っている。
今回、14曲目が“夢”というタイトルなんですけど、京都大学で夢のことを研究している神谷之康さんという方がいて、その方に話を聞きに行って作ってるんです。
14曲目の“夢”に関しては、夢を見ているときの脳波を左右で鳴ってるハンドクラップの強弱、ベロシティにして、変な感じで音が強くなったり弱くなったりしてるんですけど、まさにあれは夢を見ているときの脳の動きで。だから、聴いていると本当に夢を見てる感じになるんじゃないか、と思って。ちょっと迷い込んだ感じになる、というか。
Maison book girlメジャー2ndアルバム『yume』インタビュー③――「ブクガの創作を押し広げた、自由と苛立ち」 | ダ・ヴィンチニュース
リスナーがアルバムを通して聴いてこの曲にたどり着いた時、おそらく夢と現実の境目が無くなるような感覚さえも覚えるのではないだろうか。壮大なサビも感涙もの。間違いなくブクガ史上最高傑作。
15. ELUDE
雨が降る音と鳥の鳴き声とカメラのシャッター音。どこかの温室の中で鳥の写真を撮っているかのような印象を覚える。
このインスト曲はアルバム発表前からライブのSEとしても使用されていた。
16. レインコートと首の無い鳥
先行シングル『elude』のリード曲。「ELUDE」はこの曲の伏線だった。これまでに見ない不穏なMVであり、この時点でもうアルバムの世界観は完全に固まっていたのだろう。ワンマンライブ「Solitude HOTEL 5F」(2018年6月23日開催)では最初と最後の2回披露され、ブクガワールドの構築に重要な役目を果たした。今後もキーとなる曲であるように思う。
ちなみに「Solitude HOTEL 5F」の最後ではメンバーがペストマスクを被って披露され、4人が居なくなった後ステージに靴だけが残されていたが、「Solitude HOTEL 6F」のyoru公演に出てきたペストマスク姿の人物たちは裸足だった。
17. YUME
「レインコートと首の無い鳥」のアウトロであり、次の「おかえりさよなら」のイントロをも担うインスト曲。雨の音とfMRIの音、そして曲の逆再生が流れる。巻き戻して聴くと「おかえりさよなら」であることが分かる。
18. おかえりさよなら
「bmg vol.1」でMVが発表され上映もされた『elude』のカップリング曲。曲調に関してはブクガのレパートリーの中でも特にバラードとでも呼べるようなストレートさがあるが、MVを観ると明確に「死」をテーマにしているような印象を受ける(どうでもいい余談だが筆者はMVの上映で泣いた)。
19. GOOD NIGHT
「Solitude HOTEL 5F」の最後に流れ、それから地続きのように「Solitude HOTEL 6F」のhiru公演の最初にも流れたインスト曲。錠剤を出すような音が「おかえりさよなら」からの繋がりを感じる。タイトルが示すのはただの「おやすみ」ではなく、オーバードーズによる「死」なのかもしれない。
20. 不思議な風船
お馴染みになったコショージが手がけるポエトリーリーディング。バックで流れる音がうるさく語りがあまり聞こえないという演出が、アルバムの最後を不穏に飾る。
「Solitude HOTEL 6F」では最後に披露され、ペストマスクを被った謎の人物たちとの共演が強烈な印象を与えていたように思う(個人的には序盤コショージが本=カンペ?を持たずに台詞を言っている所が妙に感動した)。
21. fMRI_TEST#1
ここに来て#1…それもそのはず、リピートして聴くと1曲目の「fMRI_TEST#2」にシームレスで繋がり、今作が終わらない無限ループの世界であり、リスナーを閉じ込めるような仕掛けになっている。
なお、「fMRI_TEST#1」「fMRI_TEST#2」についてサクライ氏は下記のように語っている。
1曲目と、最後の“fMRI(_TEST#1)”は、夢の実験をしているときの実際の音声をお借りして、使ったりしていて。
Maison book girlメジャー2ndアルバム『yume』インタビュー③――「ブクガの創作を押し広げた、自由と苛立ち」 | ダ・ヴィンチニュース
アルバムによりリアリティを持たせるための仕掛けがここにもあった(「夢」を表現するためにリアリティを持たせる、というのは何か倒錯している気がしなくもないが)。
✱ ✱ ✱
Maison book girlは今年4周年を迎えた。年々メンバーの歌唱力と表現力は高まっており、それに合わせサクライケンタが作り出す楽曲も変化/進化し、ライブでのVJやパフォーマンスも話題を呼ぶようになった。今では日本、いや世界でも類を見ないような唯一無二の世界観を構築することに成功した特異なグループと言える。
1stアルバム『image』はMaison book girlとしての自己紹介的な意味合いが強かったように思うが、今作『yume』は過去曲を伏線として使用したり(「PAST」や「MORE PAST」)、インスト曲で間を繋ぐなどし、綿密で曖昧な「夢」の世界を提示する組曲として完成させることに成功した。
リスナーはアルバムを通して聴くことで、夢と現実の境界を見失うような時間を過ごすことになるはずだ。移動中に片手間に聴くというよりも、1時間しっかり向き合って聴くに相応しいアルバム。間違いなく、2018年の音楽カルチャーの最先端に立つ凄まじい作品が誕生した。
(文:おすしたべいこ)
Solitude HOTEL 6F yoru
あまり記憶がない。
もしかしたらずっと眠っていたかもしれないし、ちゃんと起きていたかもしれない。ひょっとしたら死んでいたかもしれないし、浅い呼吸で息をしていたかもしれない。
ステージにはアルバムのジャケットにも登場する赤いベッドが左右に2つ置かれていた。hiruの最後にスクリーンに映し出された映像がそのまま実体化されていた。
hiruの"SIX"でSolitude HOTELの6階から降り、yoruの"SIX"でまた6階に戻る。昼間見ていた夢は次第に遠くへと霞んで行き、やがて完全にかき消された。
視覚を覆い尽くすVJの数々。"狭い物語"の赤で塗られた風景、"townscape"の首の無い鳥の写真、"int"の心電図のような波形、"ボーイミーツガール"の画像処理のバグのような映像、"夢"の正体不明の物体の数々。全てがサクライケンタの脳内イメージを無理矢理アウトプットし可視化したような歪さが不安を煽った。
"rooms"では無音の部分だけ照明がつき、あとはほとんどずっと真っ暗という、通常とは逆の演出がなされた。曲と曲を繋ぐインターリュードでは、ステージに置かれたベッドにメンバーが潜り込むような演出もあった。
MCは一切なく、メンバーの4人はただひたすらSolitude HOTEL 6Fの世界観を構築することに徹していた。レーザーで過度に装飾された"karma"を披露した後、4人は長いお辞儀をして本編は終了。
アンコールの"MORE PAST"(実質"my cut")を観る頃には本編の記憶さえも遠のき、通常の思考が出来なくなっていた。他にも色々と書くべきことはあるはずなのに、この場に書いてあることくらいしか思い出せていない。そう言えばペストマスクを被った4人が出てきたがそれはメンバーではなかった。あれは誰だ。
"不思議な風船"が終わるとメンバーの4人はベッドに横たわり、ペストマスクの人たちがそのベッドをステージの外に運び出してライブは終了。自分が何を観たのか理解できないまま会場を後にした。
あなたはアイドルのライブを観て「死にたい」と思ったことがあるだろうか。
あれは何か人知を超えたものだったような気さえもする。そもそも「夢」というものはそういうものだ、と思えばそれなりに合点がいくかもしれないが、視覚情報と曲の持つ力によって明らかに触れてはいけない領域に足を踏み入れていた。
全て終わった後は本当に具合が悪く、なぜかすごく死にたくなったし、一人で帰っていたら駅のホームに飛び込んでいたかもしれない。
6Fはこれで終わりではない。この物語はyumeへと続いていく。
(文:おすしたべいこ)
Solitude HOTEL 6F hiru
朝起きてすぐ、昨晩見た夢を思い出した。
僕は敵に向かって機関銃をぶっ放していたが、相手は全くダメージを受けておらずケロッとした顔をしている。どうやら特殊な防御能力を発揮していたらしく、そいつの代わりに自分の仲間が頭から血を流して倒れていた。
電車に乗り、街に出た。嗅ぎ慣れない香りと見慣れない景色。道路を走る高級車。やけに格式の高い落ち着いた街並みだった。
長い階段を登り切った先にようやく入口が見えた。大勢の人々が所狭しと立ち並んでいて心無しか空気が薄い。自分に与えられた番号を呼ばれ、ぞろぞろと中に入っていく。みんなが何を考えているのかよく分からない。
通路を抜けると暗く広い空間にたどり着いた。スクリーンに映し出された文字を見てようやく気づく。
僕は今Solitude HOTELの6階にいる。
しばらくすると、おやすみの合図と共に4人の女の子が登場した。確かまだ外は昼間だったはずで、このまま白昼夢でも見せられるのだろうか。
しかし眠りの時間は一瞬であり、すぐに新しい朝が来た。その罪をなぞるように、4人の女の子たちは歌っている。気づけば季節は一周し、僕はいつの間にかまた眠りにつき、夏の終わりを告げる夢をそっと見せられた。
再び目覚めると僕は狭い部屋の中にいた。このまま全部無くなると思うとなぜかとても安心した。しかしそれも束の間、何かに急かされるように部屋を飛び出し、モノクロの中を走っていた。それらが全て皮肉で終わると分かっていながらも。
たどり着いた先で、僕は映画を観ていた。これは今の出来事だと思っていたが、どうやら気づかないうちに過去へと移動していたらしい。もはや自分のいる場所も時間軸も分からなくなっていた。
ここで、この一連の出来事に「狭い物語」という題名が付けられていることに気づいた。何か言おうと言葉を選んでいるうちに夜が明け、僕は地下鉄に乗って別の場所に移動していた。頭が痺れている。しばらくして地下鉄は地上へと出た。青くブレる車窓をぼんやり眺めながら、全てを許していこうと思った。
地下鉄から降り、疲れ切った様子の僕を気にかけ「おかえり」と呼びかける女の子。しかしすぐに「さよなら」と別れを告げられてしまい、餞別に枯れた青い花を渡された。
どこからが夢でどこまでが現実なのか全く分からなくなっていたが、どうやら全部夢ということだったらしい。自分の身体はただただ空洞であった。
ふと目覚めると、僕は無意識のうちにSolitude HOTELの6階から階段を降りながら出口に向かっていた。4人の女の子たちはもういないが、これまでの出来事は確実にはっきりと思い出すことができた。
幾つもの夜を過ごしてきたはずなのに、時計は街に出てからまだ3時間程しか経過していなかった。
(文:おすしたべいこ)
最近また出てきた、あの一家の残した音の件
「あの一家」という風にちょっと詩的というかキザなタイトルをつけてみた。
ロックの歴史にその名を永遠に残すだろう一家といえば
The Smiths(スミス一家)
しかないだろう。
あの一家(一家じゃなくてバンドだけど)は無限ともいえるほどたくさんのフォロワーを残してきた。
そんなフォロワーの中から、まさに現在活動をしている、注目の若手バンドを二つ、今回は紹介しようと思う。下の二つだ。
(※本人たちはフォロワーと思われるのは心外というか気にしてないのかもしれないけど、今回初めて彼らを知る人たちに音のイメージを伝えるために、フォロワーという言い方をこの記事ではさせてもらう。)
まず一つ目。
Roan(ローン)
フィンランドのヘルシンキから。男子4人組で構成されているバンド。ザ・スミスのようなキラキラしたギターの音色と、北欧のポップみたいなテイストが合わさったインディロック。ザ・スミスっぽいというには割と明るめのすごく聞きやすいギターポップを鳴らしている。
今年リリースした新曲、「tell me」をまずは聞いてみてほしい。
この新曲は割と彼らの曲の中でも疾走感がある。ちょっとギターの音は重厚な気がするが、それにしても若者らしい爽やかな音楽である。
よりスミスのような音だと感じやすい曲だと、以前リリースした3曲入りのEP、「just for tonight」なんかがそれにあたると思う。リードトラックをどうぞ。
同じく同EPに収録の曲「Around the World」を。
このEPは2016年のリリース。「なんだ今更じゃないか」と思うかもしれない。
しかし。
今年、大阪のRimeoutから、このEPと最新シングルの「tell me」、そして彼らの以前のシングル曲も収録した7曲入りの日本独自盤がリリースされた。(9月ごろに出ていたのであるが)
購入はディスクユニオンなどインディロックを扱っているレコ屋、CDショップに行けば可能。(自分は名古屋の大須のとあるお店でゲット)日本独自盤はCDでしかない。サブスクリプションは今のところない。贅沢なCDである。
現地フィンランドではインディロックの期待の星としてかなりの人気がある模様。間違いなく日本でも今回の日本独自盤で人気をつかむはず。要チェックしてほしい。
日本独自盤のタイトルは「ローン」。ジャケットは上で紹介したEP「just for tonight」と同じ。ぜひ。(下がそのジャケット。なんかエモい・・・)
一つ目のバンド、Roanの話はこれくらいで。二つめのバンドを紹介しよう。
Vacations(バケーションズ)
オーストラリアからの4人組。出前寿司Recordsは1年以上前に発足したわけだが、実は自分としてはその時からこのバンドについていつか紹介したいとずっと温めていた。今回ようやく叶った。
なぜこのタイミングなのか。理由は簡単だ。
ついにフルアルバムのCDがでたからだ。(というより、春に出ていたことをようやく知った。待ってたのに恥ずかしい。)
彼らは以前からEPを2枚発表していて、どちらも公式でYoutube、サブスクリプションですべて聞くことができていた。(貼り付けたYoutube動画は彼らの2枚のEPが続けて聞ける、公式の動画だ。)
そして今回のアルバム、「Changes」がこれだ。
彼らの鳴らす音は、音自体は確かにザ・スミスのような美しいギターのアルペジオやコードの流れを聞くことができる。ただ、ちょっとレイドバックしたようなゆったりとした感じが全体的にある。
オーストラリアという美しい海が臨める国から、海の夕日を見ながら聞きたいサウンドが出てきた、という感じだ。
今回のアルバムからのシングルカットを2つ紹介しよう。
「Moving Out」
VACATIONS - Moving Out (Single)
「steady」
実はアルバムもyoutubeで公式がフルで発表している。10曲で34分というコンパクトさも大変な魅力だ。まだ聞いたことがないなら今年中に聞くべきだ。自分のように乗り遅れてしまう。
VACATIONS - Changes (Full Album)
以上2つのバンドを紹介して、この記事は終わり。
正直、「なんだよ今更じゃん」という感想しか、洋楽好きからしたら沸かないだろうと思う。
「知らなかった。いいじゃんこれ」って言ってくれる思いやりのある人がいますように。
(文:ジュン)