出前寿司Records

よりどりみどりの音楽カルチャーサイト

リベラルアメリカの描く愛すべき保守と個人的なロカビリー

アメリカは多元的なイメージと一元的なイメージが交錯している。黒人、ヒスパニック、LGBTの権利向上や差別に対して敏感な側面もあるかと思えば、街中にアメリカ国旗がはためき、「Make America Great Again」というトランプ大統領の力強いスローガンに賛同する人が大多数いる。差別を許さないというマスメディアや芸能からのコマーシャナルすら感じるお題目と同時に、南部では根強く有色人種に対する差別が酷い。リベラルがアカデミズムで跋扈してると同時に保守的な人間も段違いに多い。多元的であるという事実と同時にアメリカのイメージはむしろ対外的には一元的。民主主義の保護者として世界の警察、カルチャーを牛耳る良質なエンターテインメントの数々、強いリーダーシップを誇る大統領の演説…。その一元的イメージが親米も反米を生む。内実は60年代以降多元的になり、最早分断すら生み出しているのに…である。

 

ジョン・ウォーターズという映画監督がいる。アウトロー達を主題にした作品を数多く撮っているアンダーグラウンドの帝王である。

 

猥雑で下品な事に焦点を当てたり、良識派を挑発するかのような作品群から悪趣味の映画監督とも称されるが、彼の根底にあるのは古き良きアメリカンカルチャーに対する根強い愛である。

 

彼の作品は当人のリベラルな気質とは別に白人が主役で街は先述した一元的なアメリカイメージの様相だ。普通のアメリカに変な連中がいて、暴れまくる。良識を壊しまくる。

 

彼が世にその名を轟かせたのは「ピンク・フラミンゴ」という作品だ。巨漢のドラァグ・クイーンが主人公で、下品かつクレイジーなアブノーマルたちが騒ぎを繰り広げるお下劣狂想曲とでもいうこの作品は、アンダーグラウンドのステージを一つ上げた。

 

その一方で、ミュージカルにもなった比較的穏便なストーリー展開の「ヘアスプレー」や「クライ・ベイビー」を出して大衆路線に舵を切ったかと思いきや、あからさまにサイコパスで悪趣味な「シリアル・ママ」や「セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ」いった作品群を出すという天邪鬼っぷりは流石としか言いようがない。

 

映画に出したいのは良識ない奴と良識ある奴の両方であり、白人の住む平穏な郊外にアウトローがいるのが愉快そのものであり、それにより引き起こされる狂想の中で本当に悲しいこと、本当に素晴らしい人をサラッと描いていきながらも最後のオチは悪趣味に仕上げる。その手法はジョン・ウォーターズ流とでもいうべき独特で真似できない(真似したくない)独自技術になっている。

 

70年代以降の規制が緩和されて映画に過激表現の波が押し寄せそのビッグウェーブに乗れた感も些か否定は出来ないのだが、永遠の反逆者ではなく永遠の天邪鬼悪戯っ子とでもいうべきジョン・ウォーターズ監督の作品を是非皆さまにも観てもらいたい。ただ、R指定作品や前述の通り過激な表現もあり最初の作品は穏便なのを選んで欲しい感があるので個人的なおススメを最後に…。

 

「Cry Baby」

f:id:delivery-sushi-records:20200523032105j:image

50年代アメリカ。不良少年のクライベイビーはええとこのお嬢様であるアリソンに一目惚れ。また、温室育ちのアリソンも今までに感じたことのない魅力を持つクライベイビーにゾッコン。しかし、周りの大人達は不良とお嬢様の恋愛に大反対で…というのが大まかな流れ。ここでもアウトローVS保守的な郊外という対立構造が描かれている。全編にロックンロールやロカビリーが流れるミュージカル仕立てでもあり、劇中のハイライトで流れてくるロカビリーには痺れるの一言である。以下、トレイラーのリンクでその魅力の一端を感じて欲しい。

  

  

 

 

 

(文:ジョルノ・ジャズ・卓也)