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ジャンプの伝統と改革を成し遂げた優秀な息子へ一時の別れを… 〜「鬼滅の刃」最終回に寄せて〜

先日、週刊少年ジャンプ令和2年24号に於いて人気漫画の「鬼滅の刃」が本編最終回を迎えた。昨年のアニメ化以降、漫画史に残る驚異的なペースで売り上げを伸ばし社会現象にまでなった「鬼滅の刃」は、ひとまず有終の美を飾った。

 

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その人気の理由は多くの有識者が語っており、敢えて作者がその薄い見識を晒す事はないとも思うのだが、よろしければ以前私が個人のnoteに書いたこの記事も参考にして頂ければと思う。

 


勧善懲悪的なストーリー展開でありながらも、その主人公の優しい憧憬が敵に向けられる時(これは作者である吾峠呼世晴氏の見ている、感じている目線でもある)にただのスカッとするお話ではなく鬼という存在に対する意味とそしてそれでも罰せられねばならないという強い意志を読者に提示している。また、戦いにより味方も容赦なく敵により破れて死んでしまったり(そもそも第一話から主人公と妹以外の家族は残酷な目にあっている)非常にジャンプの王道展開でありながらも作者個人の考えが色濃く反映されており、生と死が同価値で生きる者と死する者が全く容赦なく分けられながらも死者の意志は次世代に継がれていく。甘く期待ある余談を許さない過去回想、ラスボスの全く同情する予知のない言動等々…それを貫いた結果が浅く引き伸ばされたり、安易なテコ入れがされることなく名作漫画の中でも屈指の綺麗なラストを飾ることは出来たのは作者の力量、時代性、そして編集の好判断だろう。

 

NARUTO」「こち亀」「BLEACH」といった前の時代を引っぱった作品達が10年代の初め〜半ばから次々と連載を終了していき、次世代の不安が連載陣に薄らと蔓延する中で2016年から連載をスタートした「鬼滅の刃」。爆発的に人気に火がついたのはここ一年ではあるが、いわゆるジャンプを卒業した世代の「ジャンプ漫画なんて今は腐女子向けばっかりw」という偏見ある層が読んでも「面白い」と思える作品は一貫して生まれている。「ぼくたちは勉強ができない」(これは主人公の好感度を高めることによりヘイトを偏り溜めがちなラブコメの世界に於いてリスク分散をするという近年ラブコメ手法をジャンプで成功させた)や「呪術廻戦」(BLEACHフォロワーでありながらもダークさやショッキングホラーのような風味に見事な伏線を張っていく読書感はジャンプではかなり斬新)に「アクタージュ」(女性主人公で演劇の世界というおおよそ少年漫画で扱うには持て余す世界を見事にライバルキャラを立たせたり主人公の魅力で成立させたジャンプの記念碑になりうる作品)など。今一番勢いがあるのは「チェンソーマン」(映画的な視点のコマ割り。ダークでホラーな世界、主人公が明るいバカだが非常に好感が持て暗くなりすぎなく、笑えるシーンもあるゴアな正統少年漫画といえる王道を歩む異端児)だろう。

 

勿論、「ワンピース」という安定の人気作がしっかりと屋台骨を支えている前提があるにせよ、良い作品ならば意外と一見少年漫画なのか?という作品でも紙面に馴染んでいくとわかってきたのがここ数年の傾向ではないだろうか。その嚆矢が「鬼滅の刃」だと思っている。私が鬼滅を読んだ時に感じたのは作家の独自性が強くストーリーや設定もすごく好みだが、ジャンプの中では隠れた名作として終わりそうだな…という感想だった。メインストリームは「ヒロアカ」や「ハイキュー!」みたいな作品が歩むのだろうな…と。だからこそせめて、漫画オタクこそがしっかり推していくか…という気持ちでいたら、結果は予想を遥かに超えるメガヒットである。アニメというブーストはあるにせよ、「NARUTO」や「BLEACH」でジャンプを知った世代の私がジャンプでは微妙かな?と感じた作品がトップに躍り出るという世代交代をまざまざと見せつけられた形となった。「鬼滅の刃」からジャンプを読み始めた子供たちはそれを基本形にジャンプらしさを認識するだろうし、「呪術」や「アクタージュ」がジャンプに連載されてた事も覚えるだろう。つまり、ジャンプらしさが今、「鬼滅の刃」により一つまた更新され、その更新された旗印の元に新たな才能が集い切磋琢磨しているのが現状なのである。

 

漫画界に間違いなく偉大な功績を打ち立てた「鬼滅の刃」は、その優れた作品性によりジャンプらしさの意識をまた変えた。「北斗の拳」「ドラゴンボール」「スラムダンク」「ワンピース」「NARUTO」「BLEACH」といったジャンプらしさの中に新たな時代の価値観として肩を並べたのは間違いない。王道の殿堂にも籍を置きながらもジャンプの今を改革した偉大なる少年漫画「鬼滅の刃」にしばしの別れを…そして、新たな未来のジャンプの柱を期待しつつ私は単行本を読み返すのだった…。

 

追記:劇場版楽しみですね。僕は煉獄さんが大好きなんです。


 

(文:ジョルノ・ジャズ・卓也)