イアン・マッケイが起こした革命。ディスコードレコードとストレートエッジ
今回もPUNKについて書かせてもらおうと思う。
Ian MacKaye(イアン・マッケイ)という人物を知っているだろうか。
彼は高校生ながらに音楽レーベル「Dischord Records」を立ち上げ、80年代のハードコアシーンの先頭に立った男である。
今回はイアン・
・音楽活動
彼は1972年に初めて学校の仲間とバンドを組み、そこから
The Teen Idles、Minor Threat、FUGAZIなど数多くのバンドを結成する。
(厳密には他にも多くのバンドに携わっているが今回は特出するバンドについて紹介する)
The Teen Idles(ティーン・アイドルズ )
1979年結成
1980年解散
活動期間は短いが彼らの活動が後述するDischord Recordsというレーベルを作った。
ジャンルとしてはこの頃はまだガレージパンク色が強い。
トランジスタアンプを無理やり歪ませたようなギターと疾走ドラム、歌というより雄叫びに近いのだが要所でテンポを下げたり気だるそうに歌ったりとユーモアさもある。
『Minor Disturbance Ep』というミニアルバムを出しており、何度かリイシューもされている。
Dischordのルーツとして1度は聴いてほしい1枚だ。
ほとんどの曲が1曲あたり1分前後なので1枚通しても10分以内に終わる。
The Teen Idles - Minor Disturbance [Full Album]
MINOR THREAT(マイナースレット)
80’sハードコアを語る上では欠かせないバンドの一つだろう。
1980年に結成
1983年に解散(今知ったがその間に一度解散している。)
このトランジスタアンプをファズで歪ませたサウンドはUSハードコアの代名詞ともいえるだろう。
彼らのサウンドや曲調はその後の音楽にも強い影響を与えており、ここからエモ、メロコアなどパンクがさらに枝別れをする分岐点としてよくあげられる。
3枚のEPをリリースしているが、現在はそれらすべてが収録されたコンプリートベストがあるのでそれを聴けばマイナースレットを全曲網羅できる。
個人的にPUNK史を語る上では欠かせないアルバムだ。
Minor Threat - Complete Discography Full Album (1989)
Fugazi(フガジ)
1987年結成。
ジャンルとしては80年代ハードコアに位置付けされるが、その活動や音楽スタイルは少し風変わりでポストロックやエモ、アバンギャルドなど様々な捉え方をされる。言ってしまえばFugaziというジャンルが確立していたのだろう。(イアン本人は当時新しかった「エモ」というジャンルに分類されることを嫌がっていた)
従来のパンクバンドと違いモッシュ行為などをしないように諌め、ライブ前に観客にあらかじめ歌詞カードを配布し曲をしっかり聴いてもらうように努めていた。
モッシュしたい客だけフロアに残し、残りの客をステージにあげるなど前衛的なライブ活動をいくつも行なっていた。
またイアンの意向によりライブのチケット代は子供なども気軽に来れるように絶対に6ドル以下にするなど音楽シーンを守り、後世につなげるための活動に注力したバンドとしても有名である。
オススメのアルバムは2枚ある。
1枚目は『Red Medicine』
Fugazi - Red Medicine [1995, FULL ALBUM]
こちらはマイナースレットのようなハードコア色が強い。
サウンドはさらに極悪になり、歌は詩的に、メロディックになっている。
2曲目のBed for the Scrapingは後世に残したい1曲と言っても良いだろう。
かっこいい。
2枚目は『The Argument』
Fugazi - The Argument [2001, FULL ALBUM]
こちらは『Red Medicine』と比べるとかなりダウナーでパンクというよりポストロックなどに近い気がする。
このアルバムがスタジオアルバムとしては最新のアルバムであり、Fugaziの後期最高傑作である。ハードコアやパンクがあまり好きじゃなくてもこのアルバムはかっこいいと思うのではないだろうか。
歌詞もかなり詩的でぜひ歌詞を見ながら聴いてほしい。
・Dischord Records
イアンはティーンアイドルズの活動で得た収益を使って自身のレーベルを作った。
それがDischord Records(ディスコード・レコーズ)である。
スタンスとしては仲間内でのレコード制作、流通を手がける地元密着型レーベルであり、自身が良いと思ったバンドしかリリースしないのだが、それはある意味インディーズレーベルの理想であった。
後にディスコードはハードコアシーンに大きな影響を与えるバンドを多く輩出し、ワシントンD.Cにディスコードありと世界中に知らしめたのである。
その影響は発足され40年経った今でも根付いており、ディスコードのバンドは多くのアーティストに影響を与えている。
ディスコードのアーティストで何を聴いて良いかわからないのであれば、このアルバムがオススメである。
『20 YEARS OF DISCHORD BOX』
このオムニバスは2000年までのディスコードのバンドが大体網羅されている。
その中でもオススメのディスコードのバンドを簡単に紹介する。
(脱線してしまうので細かい説明は省略)
Void
Faith Void Split (1982) (full album)
Embrace
Embrace - Embrace LP (1987) [FULL ALBUM]
Jawbox
Jawbox - Grippe (Dischord Records #052) (1991) (Full Album)
この3バンドは1980〜1990年代を代表するディスコード系のバンドだろう。
・Straight Edge
イアンの活動はひとつのライフスタイルも生み出すことになる。
それがStraight Edge(ストレートエッジ)である。(SxEと表記されることもある)
ストレートエッジとは音楽文化における思想で、飲酒、喫煙、違法薬物、快楽目的の性行為を戒めることを基本理念とし、それまでのロック音楽の「セックス、ドラッグ、ロックンロール」という概念に対しての反抗を意味している。
その起源はイアン・マッケイの初期のバンドThe Teen Idlesの活動まで遡る。
当時高校生だった彼らはアメリカツアー中、未成年という理由で数々のクラブなどで出演を断
そこで彼らは店のオーナーを説得し自らの手の甲に×
この印はThe Teen Idlesが出した唯一のEPのジャケとなり、いつしか手の甲の×印は禁欲のシンポルとなった。
その後イアンはマイナースレットの楽曲「Straight Edge」でDON'T SMOKE, DON'T DRINK, DON'T FUCKと歌い「喫煙をしない」「ドラッグをしない」「酒を飲まない」「快楽目的のセックスをしない」という思想がストレートエッジ思想として定着していったのであった。
しかしその思想は徐々に膨れ上がり、一部のファンの中で宗教的な捉えられ方をされてしまう。
主にワシントンやボストンのクラブなどでは酒を飲んでいる客に殴りかかったり、タバコを吸っている人に水をかけたりと過激な人間が増え暴動に繋がってしまった。
イアンの考えとしてはストレートエッジは個人の意識の持ち方であり強要するようなものではなく宗教的な禁欲思想には共感しないと発言している。
ストレートエッジ思考は現代でも多くの標榜者がおり、その層はハードコアや音楽アーティストの幅を超え多くの人に共感されている。(現在では禁欲からさらに進み菜食主義なども取り入れられることが多い)
1980年代はPUNKというジャンルにとって大きな分岐点と言われている。
これまで、あくまでアンダーグラウンドだったPUNKが80年から90年にかけてエモやポップパンク、ポストパンクなど様々な形に変化し、PUNKというジャンルは世界で認知されメジャー化していった。
そんな過渡期の中、
The Teen Idles、Minor Threat、Fugazi、
それぞれのバンドは常にシーンの先頭に立っていた。
Dischord Records
ワシントンD.Cから多くのバンドを輩出し、USハードコアの中枢を作り上げた。
Straight Edge
そしてその思想は音楽シーンだけではなく多くの人々の思想や概念の標榜となった。
それが、イアン・マッケイが起こした革命 なのである。
(文:ゴセキユウタ)