森の中の川。そこにいる自分。 (disengage)
旧サイトおよび現サイトの始動時に偶然にも同じ人物の旧譜を買っていたのでそれを記事にしようと思う。その人物とはジムオルーク。
この記事で扱う作品を紹介しよう。
「disengage」だ。
(※旧サイトでの自分の最初の記事は「Happy Days」だった。それは美しいアコギの音色とノイズが絡み合う壮大なミニマルミュージックだった。その旧サイトでの記事はこちら https://delivery-sushi-records.amebaownd.com/posts/2730153 )
発表は1992年。ジムオルークの作品の中では割と初期のものになると思う。彼は多彩な音楽を作ることができる音楽家であることは読者も知っていよう。そしてこれはドローンミュージシャンとしての彼の作品群でも評価が高いようなので購入した。
まずはトラックリストを紹介する。
Disc 1
#1 Mere (Part 1)
#2 Mere (Part 2)
#3 Mere (Part 3)
Disc 2
#1 A Young Person's Guide to Drowing (Part 1)
#2 A Young Person's Guide to Drowing (Part 2)
そう。このアルバムは二枚組でそれぞれが一つの組曲になっている。Disc 1 がトータル45分程度、Disc 2 がトータル50分程度になっている。
構成はかなり聞くことに労力が必要そうだが、それは正しくない。理由はそれぞれの組曲をレビューしながら説明する。
まずはDisc 1 の組曲について。タイトルの「Mere」というのは「ほんの」、「単なる」、「一介の」という意味を持つ単語だ。その意味の通りにこの組曲はシンプルで静謐なドローンミュージックになっている。だからといって音の数が極端に少ないということではない。一つ一つの音をゆっくりと伸ばして響かせながら、別の音がひっそりと現れたり、溶け合ったり。Part 1 の冒頭から風の音のような静かな音がいつのまにかドローンが聞こえてくるところから、かなりこの組曲の世界に引き込まれる。組曲全体で大きな動きやすべてを覆いつくすようなノイズは無い。聞き流すBGMとしても目を閉じて音に浸ることもできる。この曲はジャケットにも表れているような森の中にある川をイメージさせる。生き物は全くいない、ただ静かに流れていく川の水面。それをのんびりとただ眺めている。そんな気分になる。だから45分という長さが苦ではないのだ。
次に Disc 2 の組曲。こちらもドローンミュージックであるが、Disc 1 と比べると動きがある。Disc 1 でイメージさせられた川辺にいた自分(つまり聞いている君だ)にフォーカスがあてられたような気になる組曲になっている。Part 1 がとにかく素晴らしい。ドローンに重ねられるのは水と風のサウンドエフェクトと電子音。特に水の音がいい。というのは、ちょうどその音が川辺に少し足をいれて一歩一歩進んでいるような音をしているからだ。「あまりにも川が気持ちよさげなので少し入ってみた」という人の動きを感じる。電子音のループがすこしずつ聞こえてきて大きくなっていきながら終わるという展開は、川に入って何か考え事をしている人の頭の中のようだ。組曲のタイトルからすると、絵について考えているような。これがPart 1である。Part 2 はそれと比べると暗く、無機質なドローンだ。途中に入る音はなにかの金属音だけ。非常に人工的な音楽であると感じる。今までの幻想を現実に引き戻すようだ。今までのイメージにいた人が夜の暗い森の中を帰っていく。そんな映像かもしれない。(金属音がちょうど、パイプとパイプがぶつかるような音なので、川辺に持ってきたテントか椅子かを持って歩く時の音だと考えると、自分は納得できるからだ。)このように幻想を見せてから現実に徐々に戻すというような流れを考えると、この組曲は心地よく聞ける。
ぜひこの作品はなるべく周りに他に音がない状況で聴いてほしい。部屋にいながら静かに森の中にいることができる贅沢を感じてほしいからだ。
では採点。
3.5/5.0
どうしてもDisc2 #1 A Young Person's Guide to Drawing (part1)が良すぎて他がかすんでしまうので、これくらいで。
(文:ジュン)