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ピーキー・オヤナギが語るジャニーズ名曲選②SixTONES/Imitation Rain

 

SixTONES/Imitation Rain

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あなたはもうお聴きになっただろうか?

 

 

ご覧の通りメンバー皆ずぶ濡れである。

SixTONESは2015年に結成。メンバーはジェシー京本大我松村北斗高地優吾森本慎太郎、田中樹の6名。故ジャニー喜多川氏による命名。当初は“シックストーンズ”と発音したがその後“ストーンズ”に変更。「原石」「6つの音色」といった意味合いがある。テレビだけでなくYouTubeに積極的に露出するグループ。そんな彼らのデビュー曲がこのImitation Rainだ。

 

PVはブルーバックにCGを重ねた幻想的なシーンと、実際の水、雨、炎を使ったセットと激しいダンスが組み合わさったリアルでエモーショナルなシーンで構成されている。クールな静けさと圧倒的な熱量の激しさが同居しているのだ。静と動。

 

音の方も雨音のようなピアノの旋律が奏でられたかと思えば、静けさを切り裂くギターの音色とずっしりとしたバスドラで幕を開けるイントロからもはやシェイクスピアテンペストの始まりのような劇的なものだ。

この曲誰が作ったのかと言えばあのX JAPANYOSHIKIである。

 

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知らなかった人も納得である。

(そういえばENDLESS RAINって曲あったよね)

 

 

ヴィジュアル系的でもありジャニーズ的でもある「ガラス」「薔薇」などの歌詞のワードはヴィジュアル系とジャニーズ音楽の融合のようにも思える。

さらにはX JAPANの代表曲「紅」まで歌詞に入っているのだ。

これまでのジャニーズのデビュー曲は基本的に勢いや歌詞のトンチキさ、青さを滲ませたものであったが、SixTONESは年齢的なものも含めてまだあどけない少年ではなく成熟した大人としての売り出し方ではないだろうか。

 

YOSHIKIの作風とSixTONES自体の持つ洗練されたポテンシャルが合わさり、ジャニーズのデビュー曲らしからぬ壮大さを讃えたバラード楽曲になった。

作り手の作家性を出しつつも、彼らが最高に輝けるように作り上げる。流石と言ったところである。

試行錯誤を重ね、本来の完成の予定から半年程遅らせてたとの話もある。(「SixTONESメンバー全員に音域を調べて、元々転調はなかったが、ここまで高音がでるならと転調もいれた」「世界を目指すなら、歌詞もあえて全部英語にしようとも思ったが、それは先方から半分は日本語でお願いしますと言われた」など)

X JAPANのアルバムも出来栄えに納得が行かず最終的にお蔵入りにしてしまうYOSHIKIらしいエピソードだ。

 

 

↑レコーディング風景はこちら

 

YOSHIKIは現副社長、滝沢氏の熱心な思いと海外での活動を視野に入れたSixTONESの目標や思い描く夢に共感し、オファーを受けたそうだ。デビュー曲はエッジの効いた激しさの中に優しさや美しさも持ち合わせる、「意図的に“YOSHIKI メロディ”を取り入れた」大作に仕上げられている。

 

YOSHIKIコメント>
「滝沢さんからお話をいただいたのは、ジャニーさんがご存命の頃でした。
あまりにも自分のスケジュールが過密だったため、安易に引き受けると後々ご迷惑をかけると思い、
お断りするつもりでお会いしましたが、滝沢さんの熱心な思いに心を打たれ、また『SixTONES』が
海外でのJ-POPのイメージを一新させる可能性を秘めたグループだと確信したので、楽曲提供および
プロデュースを引き受けさせて頂きました。楽曲については滝沢さんとも話し合い、意図的に‟YOSHIKIメロディ”を取り入れました。先見の明を持つ滝沢さんのもと、メンバー個々の魅力に加え、高度な歌唱力とパフォーマンス力を持つ『SixTONES』という素晴らしいグループが今後どのように進化していくのか、とても楽しみです。
デビュー、おめでとうございます。」

 

とのことで、コメントからもその高い期待値を伺わせる。SixTONESは今後は世界に向けても今後活躍の機会を伸ばしていくことだろうと思う。

 

思えばX JAPANもそうだが亡くなられたジャニー喜多川氏も初代ジャニーズの頃から米国進出と商業的な成功は悲願であった。そんな思いも馳せてしまう。

 

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彼らの始まりを告げる文字通りの序曲として放たれたImitation Rain、日本のアイドルとして、アジアのアイドルとして彼ら自身も言うよう「デビューは通過点」でしかないのだ。

とりあえずCDもだいぶ売れたし今後はサブスク化なども期待したい。

 

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(文:ピーキー・オヤナギ)

 

コロナショックから生まれた不屈のエンターテインメント「無観客ライヴ」


世界はいま未曾有のパニック状態にある。中国は武漢より発症されたとされる新型コロナウイルスによる一連の騒動を称して「コロナショック」と呼んでいるそれだ。


誰もがこの未知のウイルスから身を守る術を、解決法を知らずに怯えて過ごしている。時にはデマに踊らされスーパーに長蛇の列を作り、最低限の防衛作のためのマスクを買うために躍起になったりしている。通りに人の姿は無く、子供たちの笑顔も曇り模様だ。そう、誰もが怯えている。身体それ以上に疑心暗鬼という人の心にまでコロナウイルスは浸透し、人々を混乱に陥れている。もしかすると「病は気から」なんていう先人の言葉は人の心にこそ病理は巣食うものだという意味があったのかもしれない等と考えてしまうほどに人々の心の衰退は著しい。


だからこそ、こんな時だからこそ音楽は必要だ。何よりもエンターテイメントそれ自体がとても重要かつ必要なものだ。しかし、悲しいかなコロナショックの余波はエンターテインメント業界にまで押し寄せてきているのも事実だ。


コロナショックによるアーチストらのライヴやコンサート等のイベントでのそれぞれの対応に注目が集まっている。ライヴやコンサート等のイベントの規模が巨大であればあるほど動く人間とお金が発生する。それに伴う中止やキャンセルによる破格の金銭や人員的な損害、しかし、コロナウイルス拡散の脅威に背に腹はかえられず苦心の果てに中止やキャンセルとなるケースも多いのが事実だ。確かにコロナウイルス拡散の予防には繋がるやもしれないが、その分の損害は金銭や人員それと同等もしくはそれ以上に精神的にもアーチスト自身とそしてファンに負担として大きく降りかかっている。


人には心がある、窮地のこんな時代だからこそ"拠り所"を求めている。そんな"拠り所"となりうるエンターテイメントがそれら自体が窮地にあるようにも思える、この状態をより感覚的に察知している人はたくさんいるはずだ。


しかし、一部のアーチストらにはアーチストという職業柄からセンシティブな面を保持にしながらそこからより強靭にアーチストとして突き抜けた"返答"をする連中もいる。それは「無観客ライヴ」の実施と配信を行うアーチストらのことである。


ムーブメントとまではいかないが、一つのトレンドにもなりそうなこの「無観客ライヴ」の実施と配信は奇しくもより今の時代性にコミットした形式として発展する可能性を秘めていると俺は考えている。「無観客ライヴ」だからこそのパフォーマンスも開拓の余地があり、まだまだ面白味があるのではなかろうか。


何よりもこの「無観客ライヴ」という形式からは人類の不屈のエンターテインメントの気骨と意思を感じる。ウイルスごときに人の娯楽は、喜びは止められはしないのだという気骨と意思を感じるのだ。実施される背景は基本的に好ましいものばかりではないが、窮地にありながら逆ギレに近いような勢いで生まれたこの新しいエンターテインメントスタイルを好意的に楽しむことこそコロナウイルスがもたらした直接的な病理以上に膨れ上がった醜悪な疑心暗鬼に勝利する人類の叡知の剣とは言えまいか。



確かにコロナウイルスとそれに伴ったコロナショックは恐ろしい存在だ。けれどもこの世界にはエンターテインメントがある。


「いつも心に音楽を…」


(文:Dammit)

歌姫不在の時代にアジアの元祖歌姫を思う。

 

このサイトで何か一つ記事を書くのも久々だ。久々の皆様との再会に謝辞を。初めての方には初めましての挨拶を述べさせて頂きたい。音楽や漫画、アニメが好きなオタクの戯言をまた、書き連ねていくが何卒、寛大なお心で読んで頂けるとありがたい。当方、メンタルは豆腐なもので…。

 

まず最初に怠惰で偏屈な自分をまた、音楽レビューの世界に誘ってくださった友人のDammit氏に感謝を述べたい。氏の誘いがなければ再びこのように真剣に音楽の真髄に関して自分が思考を巡らせることもなかった。感謝してもしきれない恩人である。ありがとうございます。

 

さて、前置きはここまでにして、タイトルの歌姫不在とは…まさに昨年に年号も変わり、令和の世となった今。歌姫という存在が日本にいるかというぼんやりとした疑問である。平成の歌姫・安室奈美恵が令和を迎える前に引退し、同じく平成にカリスマ歌姫として鳴らした浜崎あゆみはプライベートでの芸能ゴシップや自伝的著作の発売での話題など、いまいち本業での取り上げられ方が微妙である。それでも未だ根強いファンがいるのがカリスマたる由縁か。余談ではあるが非常にお若い人気タレントのゆきぽよさんがあゆの歌をカラオケで良く歌うとの趣旨の発言をテレビでされていて、未だにマイルドヤンキー感の強いギャルの間では響く存在なのは間違いない。

 

昭和に国民的歌手、歌姫として君臨したのは美空ひばりである。まだ子供の頃から天才歌手として知名度を上げ、戦後の焼け跡のラジオから美空ひばり笠置シヅ子の歌声が流れてくるシーンというのはまさに戦後復興の忘れ難い一コマだったに違いない。

 

その後、山口百恵(彼女はアイドルから歌姫への成長という新しいスタイルを提示した)やアジアからはテレサ・テンが登場し、女性が歌う歌謡曲の大きな波がまさに日本全体を元気にしていった。しかし、我々は美空ひばりテレサ・テンといった巨人たちに大きな影響を与えたとある歌手がいたのを知っている。いや、歌姫を語る上で知らねばならない。彼女の名は李香蘭。本命は山口淑子。日本人でありながら中華風の芸名を名乗り、日本、満洲国、中華民国、香港とアジアを股にかけて活躍した元祖アジアの歌姫である。

 

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彼女の音楽的バックボーンはまさに生まれ育った満洲の風土がそのまま彼女に受け継がれている。これすなわち、日本、中華、ロシア、西洋の和洋露中折衷とでもいうべき幅広い音楽的素養が彼女を日本人初のアジアスターへと押し上げた。日本語と中国語のバイリンガルでどちらもネイティブの歌い方が出来、アジア的な美人である彼女はまさに五族共和の象徴とでもいうべき存在だった。

 

結局、戦争の終結により満洲国は無くなり、日本は大陸から利権を一切手放し、李香蘭も日本へと帰ってくるのだが、彼女の歌は今でも日本以上に中国、台湾はもとより東南アジアでも歌い継がれている。戦後日本が音楽の大衆性のソースを西洋に求め始めたのに対して、アジアの人々は、大東亜共栄圏という途方もない理想を夢見た大日本帝国の一つの理想であり、誰よりもアジア的な知見があり、優しい女性である李香蘭を愛し続けたのだ。なんとも、美しく儚い話ではないだろうか…

 

元祖歌姫李香蘭はその後、日本で芸能活動をしたり国会議員として精力的に活動する。しかし、晩年の彼女の写真や動画を見て思う個人的な感想は、複雑な時代を生き抜き、数奇な人生を過ごした天才歌手というよりは、なんだかアジアに縁のある普通の女性というものだ。激動の時代に国や世界に時には振り回されながらも生き抜いた奇跡の女性の最期は静かなものだった。2014年に94歳という大往生を遂げた。生きた歴史がまた、一つ失われた瞬間だったに違いない。

 

遠藤誉先生のこの記事にも詳しいが戦後の大陸の人々はテレサ・テンを通じて李香蘭の歌を知っている。

 

アジアの歌姫のバトンタッチのようで筆者はなんとも感動を覚えてしまう。しかし、文中にもあるように、残念ではあるが共産主義の国においては李香蘭テレサ・テンといった優れたアジアを股にかけ活躍したアイコン的歌手は、利用されたり簡単に弾圧されてしまうのも事実。ただ、歌が上手く素晴らしい歌姫で終われない時代があったことも忘れてはいけないのではないだろうか。いかに、カルチャーの力が全体主義の世界に於いて脅威か。そして、また、時にはそれを利用しようとする社会主義の恐ろしさに背筋が寒くなる限りだ。

 

話は最初の疑問に戻るが、今の時代に歌姫となる太公望と言うべき人はおそらくネットから現れる。米津玄師がまさにネット発のバンドマン的アティテュードのミュージシャンかつ自分が生まれた場所や時代に楔を打ち込んで次のステップへと駆け上がっていった。有象無象の上手い歌い手に終止符を一旦打てるまだ見ぬカリスマこそが次なる令和の歌姫となる。そしてその人は李香蘭のように多彩なバックボーンが必要となるであろう。シンプルに歌がうまいだけでは利用される時代からシンプルに歌が上手いだけでは埋没してしまう時代への移り変わりは平和で豊かさの証左ではあるがなんとも難しく、ワンアンドオンリーの難しい時代だとも感じる。令和の世は李香蘭を超える日本発のアジアの歌姫の登場を期待したいものだ。

 

結びに変えて個人的李香蘭のおススメの曲を三曲選んだので、興味があれば聴いて欲しい。ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

 


(文:ジョルノ・ジャズ・卓也)

 

【ライブレポ】2020.2.29.超笹祭(太平洋不知火楽団,うみのて,呂布カルマ,笹オケ,NEW OLYMPIX,spo-kyz)

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笹口騒音率いる太平洋不知火楽団のレコ発ライブであり、笹口さんの他の3バンド(うみのて、笹口騒音オーケストラ、NEW OLYMPIX)も出演するスペシャルなイベント。しかも、オープニングゲストのspo-kyzに加えて、スペシャルゲストに呂布カルマ! 開演前のSEは森高千里が流れていた。

以下、各アクトの感想を書く。添える動画は過去のライブのものやMVです。



・spo-kyz

 

 

オープニングを飾るのは、ナニワのピンク・フロイドことspo-kyz。

僕と笹口さんの問題意識は近いところもあって、今の日本の音楽には悪魔的な音楽を演奏するバンドが少ないってこと。脳味噌をダークに染め上げ、ハラワタからグッとくるような音楽ね。

spo-kyzは緩やかなbpmの上で妖しく歌っていた。男性ボーカルも女性ボーカルも妖しいし、ベースの奏でるリフもハーメルンの笛吹き男のように妖しい。音が爆発するところは、悪魔の決起集会といった趣き。その中でもフサフサのウサギの被り物をしたバイオリニストの奏でるバイオリンが天まで響くように美しかった。最後にギターボーカルが自身のギターを抱えながら転げ回る姿は何かに祈っているような真摯さがあった。

踊ってばかりの国が好きな方なら、ハマりそう!



・笹口騒音オーケストラ

 

 

「おんがくのじかん」でスタート。「A.I.」など名曲を挟みつつ、「バードマン」「世捨て人になっちまっただ」など新曲を披露。最後に演奏した「名曲の描き方」はやっぱり良かったなぁ。鉄壁のリズム隊の演奏も、ホーンセクションもアコーディオンも、もちろん笹口さんのウクレレやギターも気持ち良かった!

「世捨て人になっちまっただ」では自分もいともたやすく世捨て人になった気楽さで聴くことができる。あー、働かないで毎日宴会なんて、最高だー!

そこには、天使的な音楽の多幸感があった。清らかさと愉しさで僕の心は弾む。悪魔的と天使的の音楽性の振り幅こそ、笹口さんの凄まじさだ。

重大発表とは、5月に上野の野外水上音楽堂で投げ銭ライブをし、そこでニューアルバムも出るということ! これは楽しみ!



・NEW OLYMPIX

 

 

相変わらず鬼気迫っている「もはや平成ではない」からスタート。今回の新曲は「歌を残したい」かな。どの曲もめちゃくちゃカッコ良かった!

特に森岡さんのギターが安定感あって、エフェクターを使った幽玄を感じさせるような音色も最高! 大内ライダーさんのベースもニューオリンピックスに馴染んできた感じ。ラストは「?」。この曲はNEW OLYMPIXのマニフェストのような曲なので、呂布カルマ目当てに来た方にも刺さってくれていたら嬉しい。



呂布カルマ

 

 

MCでは笑いを取りながら、ラップであらゆるものをディスりながら、表現者として、ラッパーとして真摯な姿をそこに見た。ファンになってしまいそう。

「ヤングたかじん」、カッコ良かったなぁ。新曲も良い。身体に響く重低音が心地よく、それに乗る呂布さんのラップも素晴らしく、とても気持ちの良い時間だった。

ただ、「フェミニズム、ブス」とディスっていたことが引っ掛かったんだけど、お行儀良くフェミニズムを肯定するよりも、ディスる方が呂布さんらしいと納得がいった。(行き過ぎたフェミニズムは問題だけど、フェミニズムには女性の権利や自由を推し進めてきた意義や歴史があると僕自身は思っている。)どんなこともディスったり、嫌ったりする自由があるよね。その自由を呂布さんのラップには感じたな。そのディスが気に入らなくても、心の根っこでは通じる部分があるから呂布さんのファンになれるよ。あー、クールコアなラップがヤバカッコ良かった!

笹口さんの一人称が「私」というのがチャームポイントだというMCもあった。確かにそうですね!



・うみのて

 

 

本日のベストアクト。

サポートに電子パッドのころさんを入れて7人体制のうみのて。これは最初から「MUTEKIの歌」を演奏するつもりか…!と思っていたら、そうだった。呂布さんが客演でステージに乗ってラップを披露する。

その後も様々な曲を演奏したが、旧・うみのての代表曲は演奏しないストロングスタイルだった。「砂漠です」はやはり名曲だなぁ。エロくて可愛い女の子に出演してもらって良いMVにしていただきたい。

終わる頃には、僕はもうほとんど感動してしまった。6人のうみのてのメンバーそれぞれの凛とした姿がまぶしかった。シン・うみのての「21st Century Soundtrack」も素晴らしいね! 光り輝いていた。

 

 

太平洋不知火楽団

 

 

今日レコ発の太平洋不知火楽団。「八百屋」からスタートし、新たな代表曲の「売春歌」を披露する。楽譜で表記するのは不可能と言ってもよい笹口さんのギターのニュアンス。イカレてるけどイカしてる。大内ライダーのステージアクションもド派手だったし、ツガネさんのドラミングもパワフルだった。最後の「ADHD」に笹口さんの音楽を好きなリスナーのアイデンティティが記銘されていた。病気か、病名はついていないがどこかしらビョーキなのだ。つまりは、多数派に馴染めない少数派。

最初から最後まで直線的に流れるように続くライブで、元気をもらった。瞬発力といったら、太平洋不知火楽団! 今日買ったCDも近いうちにレビューします。

 


・YAOAY(笹口騒音)

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↑バンドver.ですが…。

「うるう年に生まれて」を弾き語りで披露。「音楽を鳴らして あなたの声を聞かせて」という最後の歌詞には、音楽を鳴らし、ツイッター上やネット上の反応を求める笹口さん自身が映り込んでいた。覇気があり、真に迫る演奏に、ライブハウスの観客が丸ごと吸い込まれていった。



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2/29土@西永福JAM

笹生誕9才記念
超笹祭

出演
YAOAY(a.k.a.笹口騒音)
太平洋不知火楽団
うみのて
笹口騒音オーケストラ
NEW OLYMPIX

SG:呂布カルマ
OG:spo-kyz

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↑ステージ上に置かれていた目玉おやじ

 

 

(文:遊道よーよー)

 

寡作の天才 George Michael

 

みなさん、George Michaelはご存じでしょうか。

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この質問を僕の同じくらいの年代の人にすると

高確率で「誰?」って返されます。

でも

Wham!ってグループ知らない? そのグループでLast Christmas歌ってた人なんだけど」と聞くと

「あぁ、あの曲歌ってる人ね!」と返ってきます。

 


Wham! - Last Christmas (Official Video)

 

George MichaelとAndrew Ridgeleyによるイギリス発のポップグループ Wham!

彼らは日本でも大人気で、中でもLast ChristmasはレコードとCDの合算でミリオンセラーを突破しています。

クリスマスシーズンになると街中でよくかかってますし、クリスマスのスタンダードソングとして定着した感すらありますね。

 

またGeorge MichaelWham!在籍時にソロで出した「Careless Whisper」は

西城秀樹郷ひろみにカバーされて、それぞれヒットを飛ばしており、日本でのWham!の認知度は高いと思われます。

あ、そういえば映画「デッドプール」のエンディングでも流れてましたこの曲。


Wham! ~ Careless Whisper -- Deadpool

 

 

 

ではGeorge Michaelが今、知られてないのはなぜか?

それは彼がWham!解散後に本格的にスタートさせたソロ活動がその音楽的な成功とは裏腹に活動自体が順調とは言えなかったから。

(あとあんまり日本に来てくれなかったから笑)

 

2ndアルバム「LISTEN WITHOUT PREJUDICE VOL. 1」を巡るレコード会社との泥沼裁判、その影響で中止になった「VOL.2」のリリース。

裁判の長期化(結果は敗訴)で6年の歳月を経てようやくリリースされた3rdアルバム「Older」。

ようやくしがらみから解放されたと思ったのも束の間、1998年に公然わいせつ罪で逮捕、ゲイであることのカミングアウトして音楽以外の部分で注目を集めてしまう。

その後、恋人と母親との別れによる創作のスランプから復帰して2004年に8年ぶりにリリースされた4thアルバム「Patience」。

そして「Patience」を最後に彼が2016年に亡くなるまでオリジナルアルバムは発表されませんでした。 

 

Patience

Patience

 

 

 

全世界トータルセールス1億枚越えという華々しい功績とは比べ物にならないほど困難な道のりだった彼のソロ活動

天才的なソングライティング力とヴォーカルを兼ね備えているのにも関わらず、

身に降りかかった様々な困難、そして本人の完璧主義が重なって30年以上のキャリアの中で残したアルバムはわずか数枚。

まさに寡作の天才と言うべきでしょう。

 

2000年代はベストアルバム「Twenty Five」を出して、数十年ぶりにツアーを行ったものの、日本での公演は1991年が最後、それ以外でも2005年にドキュメンタリー映画ジョージ・マイケル 素顔の告白」でプロモーション来日したのが最後。

言ってしまえばソロデビュー後はWham!の頃に比べると日本と接点がかなり少なくなってしまっています。

特に僕と同世代(20歳前後)の人なら音楽に興味が無いとまずGeorge Michaelを知る機会が無いですよね…2000年代はあんまり曲出してないし、ライブをしに来日すらしてないんだもん。

 

 

 

同じMichaelの名前を持ち、寡作の天才でもあったMichael Jacksonも2000年代は真偽の定かでないゴシップネタとマスコミによる誹謗中傷のせいで不遇な時期を過ごしていました。

2009年にThis Is Itツアーでの音楽復帰を高らかに宣言。ツアーの開催は彼の急死で叶いませんでしたが、その死によってようやく音楽的に再評価されました。

 

George Michaelに関しては音楽の制作はしているという情報はあったものの、ほぼ引退に近い状態で話題になるのもゴシップネタばかり。

リスペクトを表明するアーティストも増えてきた中ではありましたが、音楽的な話題が無い中で亡くなったのでその後、音楽的な再評価はあまり為されなかったような気がします(特に日本では)。

 

 

そんな彼が最後に遺したのはライブアルバム「Symphonica」でした。

 

SYMPHONICA

SYMPHONICA

 

 

 本人の楽曲とカバー曲を40人編成のオーケストラをバックに披露するライブアルバムで4thアルバム「Patience」から約10年ぶり。作品毎にリリーススパンが開いていく寡作っぷり(笑)

日本では国内盤が出てません。もはやリリース自体知られてなかったんじゃないか疑惑がありますが、知られないのがもったいないほどに素晴らしい内容。

ヴォーカリストとして自身のヒット曲のみならず、スタンダードソングを自身の解釈を交えて巧みに歌いこなす様はまさに圧巻

 

ソングライターとしての彼も天才ですが、個人的に彼はヴォーカルが一番素晴らしいんじゃないかと。

40人編成のオーケストラがバックにいるのでサウンド自体がかなりゴージャスなんですけど、そのオーケストラを前にしても彼のヴォーカルが圧倒的な存在感を発揮。

そして寡作ではあったけど、重ねてきた年数は無駄ではないということを感じさせる味のあるヴォーカルを聞かせてくれます。

Wham!しか知らない人は成熟した大人の歌い方を聞かせてくれる今作はビックリするんじゃないかなと思います。

 


George Michael - Let Her Down Easy

 

このアルバムに関してはググってみても感想を上げたり、レビューしてるサイトやブログが少ない。やっぱり知られてないのかなぁ・・・と悲しい気持ちになります。

それがこの記事を書いてる一因でもあるんですけども、やっぱり何事もきっかけが必要ですよね。George Michaelは落ちぶれたわけではなくて、凄いのに日本では知られてないだけですし。

この記事が再評価のきっかけに、なんて大それたことは言うつもりは無いですけどGeorge Michaelというアーティストに興味を持つきっかけの1つになれればいいなと思います。 

 

 

 最後にライブの名演を2曲ほど…


George Michael - Freedom '90

 


Queen & George Michael - Somebody to Love (The Freddie Mercury Tribute Concert)

 

 

(文:Showta@)

 

怠惰なギターに溺れる - Ulrika Spacek

 

最近、なんとも気怠げなバンドを見つけた。ロンドンを拠点に活動する、その名もUlrika Spacek(ウルリカ・スペイセク

 

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Spotifyのオススメにてきて、その初見では読めないバンド名とジャケットのアートワークに「ときめき」を覚えた。それで思わず再生した瞬間、これは来たぞ、と。 

「再生」という言葉はとても良い。それまでは、少なくとも自分にとっては眠っていた音楽を、自分の手で「再び生かす」という行為、それが「再生」である。そんな感動を久々に与えてくれたのがUlrika Spacekだったわけだ。

 

バンドは2014年に結成。トリプル・ギター編成の5人組だ。一部のメンバーは前身バンドを含めると2002年頃から活動していたらしい。これまで2枚のアルバムと1枚のEPをリリースしている(2020年3月現在)。デビュー・アルバムとなったのは、2016年の『The Album Paranoia』。

 

 

このアルバムについて、「乾燥剤を頬張ったSpacemen 3みたいなサウンド」と評されているのを見つけて思わず笑ってしまった。言い得て妙、である。

 

 

そう。このバンド、とにかくアルバム全体から漂う倦怠感とサイケデリックサウンドがクセになる。調べると、よく「クラウト・ロック」のバンドだと紹介されていることが多いようだが、どちらかと言えば、それこそSpacemen 3やDeerhunter、Sonic Youthなど、US/UKのサイケデリック・ロックシューゲイザー〜インディー・ロックの影響が強いような気がしてならない。

ギターの音色は砂漠のように乾いており、形の定まらないヴォーカルは煙のようにゆらゆらと立ち昇っていく。このサウンドが引き起こす酩酊感が、もうたまらないのだ。

 

そのサイケデリックな音像を踏襲しつつ、より洗練されたようなサウンドを聴かせたセカンド・アルバム『Modern English Decoration』も素晴らしい。「ときめき」を覚えたのはこのジャケットだった。

 

 

昼下がり、食事を終えた後ソファーに深く沈み込み、気付いたら微睡んでいる…。彼らの音楽を聴いているとそんな感覚に陥る。そこから抜け出すには強い意志が必要だ。つまり一度その心地良さを知ってしまったら、深い。

 

あるいはその感覚は、ドラッグ・カルチャーに結びついたような、もっと危険な香りがするかもしれない。そう言った点では、ヒッピー・ムーヴメントやドラッグと強い結びつきがある「クラウト・ロック」を引き合いに出すことにも合点がいく。何を隠そう、彼らはカリフォルニアの音楽フェス、Desert Daze(デザート・デイズ)にも出演経験があるのだ。

デザート・デイズと言えば「サイケデリック・ロックの祭典」であり、そこかしこからマリファナの匂いが立ち込めているというある種の「桃源郷」のようなフェスだ(カリフォルニアでは大麻は合法)。彼らが出演した2018年はTame ImpalaやSlowdive、Warpaint、さらにはMy Bloody Valentineも名を連ねている。

砂漠で行われるフェスで、砂漠のように乾いたギター。これがマッチしないはずがない。

 

 

気になった方は、是非彼らの怠惰なギターに溺れてみてほしい。

 

よろしければこちらも是非。僕が運営しているシューゲイザー専門サイト『Sleep like a pillow』にて、彼らのディスクガイドを書きました。

 

 

(文:おすしたべいこ)

 

ピーキー・オヤナギが語るジャニーズ名曲選①SMAP/がんばりましょう

 

初めまして。ピーキー・オヤナギが語るジャニーズ名曲選ということで始めさせて頂きたいと思います。

 

さて、今回紹介するのは1994年発表のSMAPの名曲「がんばりましょう」。

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この楽曲はジャニーズで初めてサンプリングを導入した楽曲である。


音楽におけるサンプリングとは、過去の曲の一部のメロディーラインや音源を引用し、その音を再構築して新たな楽曲に取り入れる技法のこと。主にアメリカのヒップホップ・R&Bで積極的に取り入れられ、90年代初頭から日本のメジャーシーンでも使われるようになった。

 

90年代は日本でも小沢健二スチャダラパーによる「今夜はブギー・バック」(1994年)や電気グルーヴの「Shangri-la」(1997年)などがヒットを飛ばしている。渋谷系やその周辺のアーティストと共振するようにこの曲もまたサンプリングが大胆に使われている。アイドルソングの歴史に燦然と刻まれることとなった。


同曲において、まずイントロに使われているのが、アメリカのアーティスト・プリンスが91年に発売したアルバムに収録されている楽曲「Gett Off」の一部である。

 

 

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歌舞伎の声ネタも入った「がんばりましょう」の印象的なイントロは、サンプリングの賜物なのである。そしてそれ以上に大胆にそのまんま使われているのが、70年代終盤から80年代初頭にかけて活動したソウルユニット・niteflyteの1曲「You Are」だ。

 

 

 

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niteflyteは米・マイアミ出身のディスコ/ファンク/ソウル・グループ。サンディ・トレノとハワード・ジョンソンを中心に結成。1979年にセルフ・タイトル作「ナイトフライト」(邦題「夢のマイアミ・ナイト」)でアルバム・デビューし、シングル「イフ・ユー・ウォント・イット」が全米37位とヒットを記録。81年に2ndアルバム「ナイトフライト2」を発表。「You Are」は同作に収録。

同ユニットは、その活動期間は短いものの、発売した2枚のアルバムにはソウルファンにとって馴染みの深い名曲が複数収められており、あの久保田利伸も憧れのアーティストとしてその名を挙げる、知る人ぞ知るユニットだ。「You Are」も、特別ポピュラーな曲というわけではないが、ソウルミュージックファンには思い入れの深い1曲。

「がんばりましょう」のサビの最初のフレーズ「Hey Hey Hey Girl どんな時も」という部分は、この「You Are」の同じくサビの最初のフレーズ「Hey, hey, hey you are all the reasons why」という部分のメロディーラインをサンプリングし、ほぼそのまま使用している。これにより、「がんばりましょう」は、(当時の)若い女性ファンだけでなく、ソウル好きの音楽通の人たちまでハッとし、ニヤリとするエッセンスの入った1曲となった。


1970年代ソウルと1990年代アイドル・ポップスの融合というのは、まさに当時大いなる挑戦であったと思う。

それだけチャレンジ精神にあふれた実験的な曲だ。
実際にこれ以降、J-POPにサンプリング技法は増えていったという。
だからこそ「がんばりましょう」はJ-POPの歴史的にも意義のある1曲として評価したい。

 

そしてもう一つ特筆すべきは歌詞である。それまでのジャニーズソングと言えば憧れの王子様やスターの視点からの恋愛ソングが歌われたものが多かった。しかしながらこの曲、一般人の視点で歌われている。しかも情けない日々にも挫けない日常を生きる人々の歌だ。

 

かっこいいゴールなんてさ
あッとゆーまにおしまい
星はひゅるっと消えていた
また別の朝だった

ジリリ目覚ましが鳴り 血圧はどん底
寝グセだらけの顔で なんだかなぁ もう

Hey Hey Hey Girl
どんな時も くじけずにがんばりましょう
Hey Hey Hey Boy
かっこわるい 朝だってがんばりましょう

 

辛い毎日にこの歌で救われた人も多いだろう。

そう、SMAPはジャニーズのアイドルという鎧を脱ぎ捨てて一般の視点に立てた新しいアイドルだったのだと思う。現にSMAP木村拓哉を筆頭にドラマでの成功、SMAP×SMAPなどのバラエティの本格的な進出により90年代の若者像を背負うことになる。

 

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(文:ピーキー・オヤナギ)