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風。(デスキャブとフォクシング)

    

    8月が終わった。秋の風が少しずつ出てくるこの時期だが、既に自分の中で大きな風が吹いている。それは二つの新譜が起こしているものだ。

 

Death Cab For Cutie "Thank You For Today"

Foxing "Nearer My God"

 

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今回はこの2枚のレビューを書かせてもらう。

 

 まずはUSインディの至宝、デスキャブの新譜。8/17にリリースされた。サマソニの前日だ。サマソニ前の高揚感、そしサマソニ後の余韻の中で自分は何度も聞いた。

 そんな今回の新譜について、僕の友人、あつみと共に振り返る。

 

(あつみ)

 今回のアルバムは、前作「金継ぎ」のダイナミックな印象からすると拍子抜けするほど全体が落ち着いている。だが、繰り返して聞くと #8「You Moved Away」に見られるように、リズムにとても神経が使われているという印象を受けた。


Death Cab for Cutie - You Moved Away (Official Audio)

ドラムンベースのような細かいビートにピアノ・エフェクトがかかったギターが乗るというところでは昨年リリースの名作であるザ・ナショナルの「sleep well beast」が思い起こされる。非常に今の「夏から秋に変わる間」に相応しいアルバム。#2「Summer Years」では「You can't double back to your summer years(再び夏たちへ戻ることなんてできないんだ)」と歌われ、#6「Autumn Love」という曲も収録されている。非常に季節感があり、9月中がこのアルバムの最も旬な時期だろう。

 


Death Cab for Cutie - Summer Years (Official Audio)


Death Cab for Cutie - "Autumn Love" (Lyric Video)

 

以上があつみ君の感想である。

 

 僕としても、このアルバムはこの時期にあったアルバムであると思う。だが、それ以上に「今作こそが、金継ぎを超える最高傑作ではないか」と思わせるほど、アンサンブルが分厚くて美しい。前作「金継ぎ」が午後4時の心地よい西日の中であるとすれば、今作は三日月がのぞく夜7時というところだろうか。前作に少なかった「憂い」が今作はまた戻ってきたと思う。メンバーが脱退し、新たにメンバーを加えて5人態勢となったデスキャブのスタートを飾る、素晴らしいアルバムになっている。

 

 

 さて、デスキャブの新譜のレビューはこのあたりにして、今回どうしても合わせて紹介したい新譜であるFoxingのアルバムについて、僕のレビューを書こう。

 このアルバム、なんとデスキャブから抜けたメンバーであるクリスがプロデュースを担当している。だから、今回合わせて紹介したかった。このアルバムのリリースはデスキャブの新譜よりも早かったのだけれど。

 今年のベストオルタナティブロックアルバムを受賞すべきモンスターアルバムである。

 デスキャブにも通じる憂いのあるインディオルタナに、静→動のコントラスト、打ち込み、シンセ、ストリングなどの多彩な音、ミューズのような壮大さ、エモーショナルな叫び、それがたった一枚に詰まっている。Youtubeでも全曲聞くことができるから、なんとしても聞いてみてほしい。

 本当は全曲に詳しく感想を書きたいが、長くなってしまうのでトラック#1から#5まで紹介しよう。(トラックは#12まである)

 

#1「Grand Paradise」

 壮大なパラダイスという意味。いかにもこのアルバムをよく表したタイトルでこのアルバムは始まる。打ち込みとピアノとギターの静かなAメロから突然の叫びで冷徹なアルペジオが響くサビが鳴る。しかし喧しいという感覚は全く抱かせない。閉じた世界の大きな扉が開いて、冒険が始まるような曲だ。


Foxing - "Grand Paradise" (Official Audio)

 

#2「Slapstick」

 アルペジオを前に出した静かなアンサンブルが紡がれていく、いかにもインディロックな良曲である。

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#3「Lich Prince」

 このアルバムのベストトラック。徐々に盛り上がる構成、サビの爆発もあるが、とにかく最後のギターソロが始まった瞬間に「優勝」って気分になる。ゆっくりと閉じていくラストも必聴である。

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#4「Gameshark」

 ボーカルのささやくような声とシャウトの差が美しく聞くことができる。バンドアンサンブルの間を飛び交うようにいろんな音がある。大サビへの持っていきかたがとにかくうまい。


Foxing "Gameshark" (official audio)

 

#5「Nearer My God」

 このアルバムのタイトルにもなった曲。ジャーニーの「Don't Stop Believin'」を彷彿とさせるような優しくて壮大な曲である。ボーカルの上手さがここでもいかんなく発揮されている。途中で静かに浮遊するような間を作って、大サビに持っていく展開がずるい。ギターの泣きもきいてる。PVがとても冴えない。歌詞が切なすぎる。

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 名残惜しいが、ここで紹介記事を終わろうと思う。残りは自分の耳で聞いてほしい。聴き終わった後に「とんでもない作品が今年生まれてしまった」と気づくだろう。

 

 昨今、洋楽ではロックがそれほどヒットするようなジャンルではないし、オルタナなんてなかなか注目されることが難しい。

 だが、今回のデスキャブの新譜、そしてデスキャブの元メンバーの下で生まれたFoxingのアルバムは、大きく注目され、旋風を巻き起こすと、僕は信じている。

 

 2018年の夏の終わりから秋にかけて、デスキャブ旋風が吹き上げる。誰もがこれを感じることを願う。

 

 

(文:ジュン)