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ありえん尊みが深いボカロのカプ「ゆかいあ」について本気を出してみたらヤバかった

 

VOCALOIDカップリング「結月ゆかり×IA」について本気を出して考えてみたコンピ『惑星軌道』

 

同人・個人サークル「ハガネノウサギゴヤ」がリリースしたボカロのカップリングについてをテーマとしたコンピ作品『惑星軌道』について述べていきたいと思います。なお筆者も楽曲で参加していたりします。その部分だけ熱が入るかもしれないのでご了承ください。

 

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ゆかいあとは何か?

まずこれについて説明……というよりは、このコンピそのもののテーマなのでどこまで触れていいものなのか気を遣う部分なのですが、ざっくり申しますと「結月ゆかり」と「IA」というボカロキャラの百合カップリングです。キマシタワー

で、具体的に「ゆかいあ」って何よ?という問いかけをコンピ主催であるKAI氏が投げかけ、それに対して主催を含む13人のボカロPが答え、もとい応えたものがこちらの作品となります。

 

www.nicovideo.jp

 

コンピのテーマとしては相当抽象的なものとなっていることもあり、出揃った楽曲のバリエーションも幅広いです。バンドサウンド、ゆったりしたエレクトロニカ、クラブサウンドといった趣の歌モノが集まっています。

収録曲:
1.マケモノループ/ねじ式
2.ゲームをしよう!/ギャル子P
3.Freesia/来栖遥希
4.Seven Waves/Nia
5.Memorial Fantasy/はてぃ~
6.Sole/CloA
7.Love forever/夕立P
8.春の風に包まれて/Van=jin
9.TRUST DISTANCE/grief art
10.N.X.T./将
11.Shining ray/池本
12.3.8cm/y/Nyxiluca
13.星彩イルミネイター/KAI

サークルカット・告知イラスト:
愛我みちる

ジャケットイラスト:
夏目チョコ

マスタリング:
かごめP

それではひとつひとつ、少しではありますが曲について触れていきます。

 

各楽曲レビュー

Tr.1 - マケモノループ / ねじ式


バンドサウンド+ピアノやシンセの音でワチャワチャと騒がしく幕を開ける。Vo.のまくしたて方もあり、いわゆるステレオタイプ(というよりは筆者の偏見的)なボカロヒットソングそのものの姿を思わせます。3連符でのキメとタメを両立したフレーズなど聴きどころが満載です。

 

Tr.2 - ゲームをしよう! / ギャル子P

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ゲーム実況プレイ場面も差し込まれる、チップチューン的な音でアプローチしている「ゲームサウンド」というのを重視している。完全なチップチューンではなく、リズムトラックはデジタルなドラムが担当していますが、これによってノリをより分かりやすいものに仕上げています。

 

Tr.3 - Freesia / 来栖遥希


しっとりゆったり、浮遊感とキラキラ感した曲調が心地よい。ちなみにタイトルであるフリージア花言葉は色によって異なるようです。白はあどけなさ、黄は無邪気、赤は純潔、紫はあこがれ、淡紫は感受性を表すとのこと。ゆかいあ的には紫や白の花言葉をチョイスしていそうなところでありますが、どこまで歌詞を深読みするかも楽しみのひとつですね。

 

Tr.4 - Seven Waves / Nia


アンセミックで派手なシンセが耳と心臓を揺さぶるストイックさを感じさせながら、メロディアスかつリズミカルなゆかいあの歌唱がキャッチーさも内包したバランス感覚が素晴らしい。身体をあずけられるビートが文字通り波となって打ち寄せてきます。

 

Tr.5 - Memoprial Fantasy / はてぃ〜


どこか中世ファンタジック系なゲーム音楽を思わせる曲展開が、恐らく1990年代のゲーム時代を生きてきた人にぶっ刺さりそうな感触のあるTr.5。所々に差し込まれる金物の音にも味がありますね。

 

Tr.6 - Sole / CloA


ゆったりとしたリズム感でマイナー調の曲。クラブサウンド寄りの楽曲ですが、緊張感溢れる展開は、じわじわと耳から侵食していく感覚で「ああ!」となることうけあい。

 

Tr.7 - Love forever / 夕立P

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筆者の曲です。アダルティなダンスナンバーで、シンセやギターなど諸々の楽器のリフをうまいこと使って展開していく曲構成です。Aメロとサビのみの、コンパクトな構成ですが、双方で若干、音色的なアプローチが違ってきているので、ダンスナンバーながら緩急もついています。

詳しい解説は下記の記事でやっていますのでそちらからどうぞ。

rainyrainy.echo.jp

アルバムの配置としては真ん中に位置していることもあり、この曲でちょっとした転換という意味合いもあるカンジです。
ちなみにJOYSOUNDでのカラオケ配信もされていたりします。カラオケ音源なども配布しているので、聴いたらリミックス・アレンジしたり歌ったりしよう!

 

Tr.8 - 春の風に包まれて / van=jin


お馴染みのチャイムの音が鳴り響く、学生のジュブナイル的なものをモチーフにした楽曲ですね。疾走感と清涼感のある、フレッシュな曲です。

 

Tr.9 - TRUST DISTANCE / grief-art

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作者の名前に似つかわしくないほど(失礼)ポップで多幸感に溢れる曲調となっています。キックの音が重たすぎず軽くもなく「ちょうどいい」ので、音の分厚さの割にとても軽快に聴くことができます。反面、どっぷり浸かって聴けるだけの細部の作り込みも一聴すれば分かるような、音の配置の丁寧さも光りますね。

 

Tr.10 - N.X.T / 将


HR/HM由来に思えるギターの音の質感やリフにまず度肝を抜かれますが、よくよく聴き込んでみると、どこかいわゆるビーイング系が今の時代まで続いてきたらどんなサウンドになっていたか?と思わせるような構成になっています。ヒロイックなサビの展開がお気に入り。

 

Tr.11 - Shining ray / 池本


前曲よりさらにヘヴィーなサウンドでゴリゴリ攻めてきます。そのヘヴィネスな部分にメロディアスかつ「ちょうどいい」スピード感のゆかいあの歌唱が乗っかって、エモーショナルな楽曲に仕上がっています。

 

Tr.12 - 3.8cm/y / Nyxiluca


しっとりとしたバラード調の切ないメロディーがたまらない!激しく掻き鳴らされた前2曲で存分に使った体力を回復させてくれるような曲調でありながら、むしろそういう存在であるが故にエレジーな曲調がより引き立つものとなっています。

 

Tr.13 - 星彩イルミネイター / KAI


ドラマチックなイントロから既にラストを飾るに相応しい曲調であることが容易く想像できるこの曲。サビのリズム感・歌心が90年代V系の雰囲気をうっすら感じさせたり、曲中にまぶされているシンセサウンドの多様さだったりと、リスナーの心を揺さぶる要素を満載で美味しい曲です。

 

作品について

抽象的なテーマであるが故に、バリエーションに富んだ内容の作品となっています。前述したとおり、ポップ・クラブ・バンドサウンドの3つが主軸となっているのは間違いありません。
一貫しているのが、この「ゆかいあ」というボカロキャラのカップリングに対する純愛ですかね……
ボカロというアイコン性に、うまく寄り添うことができた主旨のコンピ作品であると感じました。

出前寿司Recordsでは恐らくはじめてのボカロ曲作品のレビューとなりましたが、商業流通していないアマチュアの作品にもこんなものがあるんだ!というのをひとつ知っていただく切っ掛けになれれば幸いです。
特にボカロ曲によくわからない偏見があって食わず嫌いになっている人にオススメしたいですね。

 

本コンピは、とらのあな様にて委託通販を行っています。

http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/62/98/040030629867.html

 

(文:夕立P / タチやん)