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退屈な日々にも祝祭を

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今めちゃくちゃキてる女性シンガーソングライターがいる。その名も「カネコアヤノ」。

いわゆる「ギター女子」がトレンドとして取り沙汰されて久しいし、元祖としてYUIやmiwaがいて、今となっては大森靖子に始まり吉澤嘉代子さユりあいみょん、コレサワ、ラブリーサマーちゃんなど枚挙に暇がない訳だが…。

その中でも、今カネコアヤノがバッチバチにキてます。「ギター女子」なんてそんなくだらない枠で語るのは正直ダサいです。決して派手さはないけど、確実に、虎視眈々と、それでいて飄々と、シーンを賑わせている。


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↑佇まいが良いですよね。


そんなカネコアヤノを聴き始めたのは、今泉力哉監督の「退屈な日々にさようならを」というインディーズ映画を観たのがきっかけ。彼女は主題歌を担当、映画本編にも出演し強烈なインパクトを残しています。

 

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↑「退屈な日々にさようならを」のポスター。劇中音楽としてchelmicoやGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーなども参加してます。

 

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↑映画のラストシーンで公園の遊具に寝そべるカネコアヤノ。全てを見透かされそうな眼差し…。完全にやられてしまいました。以来ファンです。

という訳で、私はアルバムのリリースを楽しみにしていたのですが、先日ついに『祝祭』と名付けられたアルバムが発売されました。

 

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素晴らしいジャケットですよね…。
アルバムとしては実に2年半ぶり。地道な活動を続けてきた2年間の成果として、まさに満を持してリリースされた今作。本当に良いんです。

私は先日、アルバムリリースを記念して新宿のタワーレコードで開催されたインストアライブに足を運んだのですが、大盛況でした。


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この日はバンドセットでアルバム収録曲を披露。ギリギリ右前方にあるモニターで姿を見ることが出来ました…。エレキギターを弾きながら力強く歌う彼女は、バンドメンバーの男たちに全く負けず劣らず確かな存在感を発揮していました。かっこいい!

 

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↑サイン会にも参加。店外まで続く長蛇の列で改めて人気ぶりがうかがえました。そしてご本人に「映画を観てからファンです」と直接伝えられて感無量…。

 

聞くところによると、昨年のゴールデンウィークにインストアライブを行なった際はここまで人は来ていなかったようです。1年で変わるものなんですね。すごい急成長ぶり。

 

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↑『祝祭』の中ジャケ。控えめでかわいいサイン(左下)。

 

そしてその翌日は吉祥寺のココナッツディスクで弾き語りライブがあったので、仕事終わりに駆けつけました。
しかしこちらも超満員、モニターもなく自分が立っている場所は完全に死角で、彼女の姿はほとんど見えませんでした。見えたのはギターを弾く右手のストロークが3秒くらい…。

ただ、聞こえてきた歌声は本当に素晴らしかったです。その華奢な身体のどこから出るんだ…というくらいエモーショナル。緩急をつけたボーカルワークに思わず息を呑みました。

ライブを2日連続で観たことで、アルバムがより好きになりましたね。

 

…はい、ということで前置きが長くなりましたが、少しでも多くの人にもっとカネコアヤノの魅力を伝えたい!という思いから、私なりにこのアルバムの全曲レビューをしていこうと思います。語ります。

 

早速参りましょう!

 

 

✱  ✱  ✱

 


1. Home Alone

先行シングルとしてリリースされていた曲。

私はこの曲を初めて聴いた時、すごく初期のスピッツっぽいなと思いました。というのも、アコースティックギターエレキギターを合わせた優しげなアレンジが、90年代のJ-POPやフォークロックを想起させるんですよね。すごく懐かしさを感じる。

歌詞はというと、

"傘がいるらしいけど
手がふさがるしいらない
ただの予報だよ
良い子にしてれば 大丈夫な気がしてる "

なんてことを地声とファルセットを行き来しながら歌い上げてます。アルバムの冒頭に相応しいポップナンバー。

 

2. 恋しい日々

「Home Alone」では

"行き場のない花束のため
花瓶を買いにゆく "

というフレーズがあるのですが、この曲では

"恋しい日々を抱きしめて
花瓶に花を刺さなくちゃ "

と歌われていて、前曲からの繋がりを感じられます。こういうの憎いな。

夏の晴れた休日に聴きたい。

 

3. エメラルド

"朝はエメラルド "

という歌詞から始まる一曲。イントロのギターのフレーズが印象的。

"帰りには焼肉でも食べたい
大切なのは明るい明日だ "

"帰る頃には朝焼けでも見ようよ
大切なのは君との明日 "

と歌われているように、良い朝を迎えるための曲。

 

4. ごあいさつ

サビで一気に力がこもるボーカルが良いですね…。

"しあわせだよ今
となりの君のまつ毛が落ちるのを見逃さなかったよ "

ってすごい歌詞だな。"君"との距離の近さを感じさせる秀逸なフレーズです。

 

5. ジェットコースター

アコースティックギターによる弾き語り。このアルバムは全体的に夏を感じさせる曲が多い気がします。この曲もその一つ。

"夜を迎える
星はみえないけれど
君が笑ってくれるなら
この街も悪くはないね "

って、シンプルで良い歌詞だな…。

 

6. 序章

ここも前曲からの繋がりがあって、「ジェットコースター」では

"しりたいと思うのは
可笑しなことじゃないでしょう "

と歌っていて、この曲では

"知識が増えるほど
優しく笑っていたいと
イライラ思っているよ "

なんて歌っている。葛藤みたいなものが垣間見えます。

そしてこの曲に「序章」というタイトルをつけるカネコアヤノのセンスに脱帽。

 

7. ロマンス宣言

"机の下にかくした恋心
今日も 私の全てを抑え込むのだ "

とか、

"謝りたくない 誰にも見せない
私の理想の家族計画 "

とか、密かに隠しながらも貫き通される"ロマンス"についての曲。カネコアヤノの「女の子の部分」の出し方ってちょっとひねくれてて、でもそれがすごく好きですね。

 

8. ゆくえ

こちらも弾き語り。控えめな歌い方ながら、言葉一つ一つがじんわり胸に染みる。

"ぼくたち動物なんのために
生きるかなんて 今日決める "

だったり、

"あなたの4分の3まででもいいから知りたい
失敗するよりさよならするほうが私は苦手 "

だったり、印象的なフレーズが散りばめられてます。

 

9. サマーバケーション

ストレートに夏の曲。前半はゆっくり進み、途中から盛り上がっていく展開が気持ちいい。南国っぽいギターのフレーズもいいですね。

それにしても終盤で急に

"全員きれいに同じ顔して
返事しやがって "

という歌詞が出てきて、なんというフックの作り方だよ…って感じですね(褒めてます)。

 

10. カーステレオから

ノリの良いロックチューン。でもメロディが80年代の歌謡曲っぽくて、どこか新鮮な懐かしさを感じます。

"君の不安を取り除くのは
お祈り 呪術か魔法
それがだめなら
外にでも出て 美味しいものでも食べてみな "

だってさ。かっこいい!

アウトロのギターも最高にロケンローしてます。

 

11. グレープフルーツ

前の事務所を離れる時に作ったという一曲。
この曲にも初期のスピッツっぽさを感じまして。というのも、冒頭から

"ねむいなあ
昼過ぎの各駅停車がちょうどいい
よだれを垂らすころには
花畑に魚が泳いでる "

と歌われていて、こういう夢か現か分からない白昼夢みたいな歌詞がすごくスピッツ的だな…と思ったんです。

"いまのわたし
甘い砂糖と苦いグレープフルーツみたい "

という歌詞も印象的。

 

12. アーケード

なんだかNirvanaの「Smells Like Teen Spirits」を思わせるイントロ(おそらく確信犯)でがっちりつかまれる。テンション上がりますね!

歌詞も、
"なんにもない日もプレゼントの交換しようよ
大人になったね
君って歯並び悪いね 今気づいたよ "

なんて歌っていて、どうやったらそんなフレーズ思いつくんだ?って感じです。カネコアヤノ節全開。

ライブの最後に聴きたいロックチューン。

 

13. 祝日

表題曲とも言えるラストナンバーは弾き語り。

力のこもる歌声に思わず引き込まれます。カネコアヤノの本領が発揮されるのはやっぱり弾き語りだと思わされますね。

"飽きないな
若気の至りか どうでもいいことだ
これからの話をしよう
祝日、どこに行きたいとか "

と歌われて、このアルバムは幕を閉じます。

 


✱  ✱  ✱

 


カネコアヤノの魅力は、まずこれまで語ってきたようにその歌声にあります。

 

バンドセットでエレキギターをかき鳴らしながら歌うのも良いのですが、やはり彼女のすごさを実感出来るのはアコースティックギターでの弾き語りだと思います。その出で立ちからは想像が出来ないくらいの声量、緩急のある歌い方から伝わってくる表現力の豊かさ。リスナーを否応なしに彼女の世界に引き込んでしまう不思議な(それでいて確かな)力があります。

 

それに加え、もう一つの魅力は「歌詞の普遍性」であると感じます。

 

例えば、現代社会を鋭く批判し上手く歌詞に落とし込むアーティストはたくさんいます。それこそ「インターネット」とか「スマホ」とか「SNS」とか、そういう言葉で曲を作る。それはそれでいいのですが、今回の『祝祭』にはそういった時代を感じさせる言葉は一切登場しません。カネコアヤノはあくまでいつの時代にもある言葉で、いつの時代にもある感情を綴っているんです。それが彼女の歌声に乗せられた時に、無敵になるんです。

 

カネコアヤノという存在、そしてこの『祝祭』というアルバム、間違いなく時代を超えたものになるでしょう。懐かしいようで新しい、オルタナティヴな名盤の誕生。必聴です!

 

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カネコアヤノ『祝祭』 2018/4/25 out now

1. Home Alone

2. 恋しい日々

3. エメラルド

4. ごあいさつ

5. ジェットコースター

6. 序章

7. ロマンス宣言

8. ゆくえ

9. サマーバケーション

10. カーステレオから

11. グレープフルーツ

12. アーケード

13. 祝日

 

 

↑より詳しく知りたい方はこちらを。これまでの活動についてや、本人のインタビューも読めます。

 

 

(文:おすしたべいこ)