Solitude HOTEL 6F yoru
あまり記憶がない。
もしかしたらずっと眠っていたかもしれないし、ちゃんと起きていたかもしれない。ひょっとしたら死んでいたかもしれないし、浅い呼吸で息をしていたかもしれない。
ステージにはアルバムのジャケットにも登場する赤いベッドが左右に2つ置かれていた。hiruの最後にスクリーンに映し出された映像がそのまま実体化されていた。
hiruの"SIX"でSolitude HOTELの6階から降り、yoruの"SIX"でまた6階に戻る。昼間見ていた夢は次第に遠くへと霞んで行き、やがて完全にかき消された。
視覚を覆い尽くすVJの数々。"狭い物語"の赤で塗られた風景、"townscape"の首の無い鳥の写真、"int"の心電図のような波形、"ボーイミーツガール"の画像処理のバグのような映像、"夢"の正体不明の物体の数々。全てがサクライケンタの脳内イメージを無理矢理アウトプットし可視化したような歪さが不安を煽った。
"rooms"では無音の部分だけ照明がつき、あとはほとんどずっと真っ暗という、通常とは逆の演出がなされた。曲と曲を繋ぐインターリュードでは、ステージに置かれたベッドにメンバーが潜り込むような演出もあった。
MCは一切なく、メンバーの4人はただひたすらSolitude HOTEL 6Fの世界観を構築することに徹していた。レーザーで過度に装飾された"karma"を披露した後、4人は長いお辞儀をして本編は終了。
アンコールの"MORE PAST"(実質"my cut")を観る頃には本編の記憶さえも遠のき、通常の思考が出来なくなっていた。他にも色々と書くべきことはあるはずなのに、この場に書いてあることくらいしか思い出せていない。そう言えばペストマスクを被った4人が出てきたがそれはメンバーではなかった。あれは誰だ。
"不思議な風船"が終わるとメンバーの4人はベッドに横たわり、ペストマスクの人たちがそのベッドをステージの外に運び出してライブは終了。自分が何を観たのか理解できないまま会場を後にした。
あなたはアイドルのライブを観て「死にたい」と思ったことがあるだろうか。
あれは何か人知を超えたものだったような気さえもする。そもそも「夢」というものはそういうものだ、と思えばそれなりに合点がいくかもしれないが、視覚情報と曲の持つ力によって明らかに触れてはいけない領域に足を踏み入れていた。
全て終わった後は本当に具合が悪く、なぜかすごく死にたくなったし、一人で帰っていたら駅のホームに飛び込んでいたかもしれない。
6Fはこれで終わりではない。この物語はyumeへと続いていく。
(文:おすしたべいこ)
Solitude HOTEL 6F hiru
朝起きてすぐ、昨晩見た夢を思い出した。
僕は敵に向かって機関銃をぶっ放していたが、相手は全くダメージを受けておらずケロッとした顔をしている。どうやら特殊な防御能力を発揮していたらしく、そいつの代わりに自分の仲間が頭から血を流して倒れていた。
電車に乗り、街に出た。嗅ぎ慣れない香りと見慣れない景色。道路を走る高級車。やけに格式の高い落ち着いた街並みだった。
長い階段を登り切った先にようやく入口が見えた。大勢の人々が所狭しと立ち並んでいて心無しか空気が薄い。自分に与えられた番号を呼ばれ、ぞろぞろと中に入っていく。みんなが何を考えているのかよく分からない。
通路を抜けると暗く広い空間にたどり着いた。スクリーンに映し出された文字を見てようやく気づく。
僕は今Solitude HOTELの6階にいる。
しばらくすると、おやすみの合図と共に4人の女の子が登場した。確かまだ外は昼間だったはずで、このまま白昼夢でも見せられるのだろうか。
しかし眠りの時間は一瞬であり、すぐに新しい朝が来た。その罪をなぞるように、4人の女の子たちは歌っている。気づけば季節は一周し、僕はいつの間にかまた眠りにつき、夏の終わりを告げる夢をそっと見せられた。
再び目覚めると僕は狭い部屋の中にいた。このまま全部無くなると思うとなぜかとても安心した。しかしそれも束の間、何かに急かされるように部屋を飛び出し、モノクロの中を走っていた。それらが全て皮肉で終わると分かっていながらも。
たどり着いた先で、僕は映画を観ていた。これは今の出来事だと思っていたが、どうやら気づかないうちに過去へと移動していたらしい。もはや自分のいる場所も時間軸も分からなくなっていた。
ここで、この一連の出来事に「狭い物語」という題名が付けられていることに気づいた。何か言おうと言葉を選んでいるうちに夜が明け、僕は地下鉄に乗って別の場所に移動していた。頭が痺れている。しばらくして地下鉄は地上へと出た。青くブレる車窓をぼんやり眺めながら、全てを許していこうと思った。
地下鉄から降り、疲れ切った様子の僕を気にかけ「おかえり」と呼びかける女の子。しかしすぐに「さよなら」と別れを告げられてしまい、餞別に枯れた青い花を渡された。
どこからが夢でどこまでが現実なのか全く分からなくなっていたが、どうやら全部夢ということだったらしい。自分の身体はただただ空洞であった。
ふと目覚めると、僕は無意識のうちにSolitude HOTELの6階から階段を降りながら出口に向かっていた。4人の女の子たちはもういないが、これまでの出来事は確実にはっきりと思い出すことができた。
幾つもの夜を過ごしてきたはずなのに、時計は街に出てからまだ3時間程しか経過していなかった。
(文:おすしたべいこ)
最近また出てきた、あの一家の残した音の件
「あの一家」という風にちょっと詩的というかキザなタイトルをつけてみた。
ロックの歴史にその名を永遠に残すだろう一家といえば
The Smiths(スミス一家)
しかないだろう。
あの一家(一家じゃなくてバンドだけど)は無限ともいえるほどたくさんのフォロワーを残してきた。
そんなフォロワーの中から、まさに現在活動をしている、注目の若手バンドを二つ、今回は紹介しようと思う。下の二つだ。
(※本人たちはフォロワーと思われるのは心外というか気にしてないのかもしれないけど、今回初めて彼らを知る人たちに音のイメージを伝えるために、フォロワーという言い方をこの記事ではさせてもらう。)
まず一つ目。
Roan(ローン)
フィンランドのヘルシンキから。男子4人組で構成されているバンド。ザ・スミスのようなキラキラしたギターの音色と、北欧のポップみたいなテイストが合わさったインディロック。ザ・スミスっぽいというには割と明るめのすごく聞きやすいギターポップを鳴らしている。
今年リリースした新曲、「tell me」をまずは聞いてみてほしい。
この新曲は割と彼らの曲の中でも疾走感がある。ちょっとギターの音は重厚な気がするが、それにしても若者らしい爽やかな音楽である。
よりスミスのような音だと感じやすい曲だと、以前リリースした3曲入りのEP、「just for tonight」なんかがそれにあたると思う。リードトラックをどうぞ。
同じく同EPに収録の曲「Around the World」を。
このEPは2016年のリリース。「なんだ今更じゃないか」と思うかもしれない。
しかし。
今年、大阪のRimeoutから、このEPと最新シングルの「tell me」、そして彼らの以前のシングル曲も収録した7曲入りの日本独自盤がリリースされた。(9月ごろに出ていたのであるが)
購入はディスクユニオンなどインディロックを扱っているレコ屋、CDショップに行けば可能。(自分は名古屋の大須のとあるお店でゲット)日本独自盤はCDでしかない。サブスクリプションは今のところない。贅沢なCDである。
現地フィンランドではインディロックの期待の星としてかなりの人気がある模様。間違いなく日本でも今回の日本独自盤で人気をつかむはず。要チェックしてほしい。
日本独自盤のタイトルは「ローン」。ジャケットは上で紹介したEP「just for tonight」と同じ。ぜひ。(下がそのジャケット。なんかエモい・・・)
一つ目のバンド、Roanの話はこれくらいで。二つめのバンドを紹介しよう。
Vacations(バケーションズ)
オーストラリアからの4人組。出前寿司Recordsは1年以上前に発足したわけだが、実は自分としてはその時からこのバンドについていつか紹介したいとずっと温めていた。今回ようやく叶った。
なぜこのタイミングなのか。理由は簡単だ。
ついにフルアルバムのCDがでたからだ。(というより、春に出ていたことをようやく知った。待ってたのに恥ずかしい。)
彼らは以前からEPを2枚発表していて、どちらも公式でYoutube、サブスクリプションですべて聞くことができていた。(貼り付けたYoutube動画は彼らの2枚のEPが続けて聞ける、公式の動画だ。)
そして今回のアルバム、「Changes」がこれだ。
彼らの鳴らす音は、音自体は確かにザ・スミスのような美しいギターのアルペジオやコードの流れを聞くことができる。ただ、ちょっとレイドバックしたようなゆったりとした感じが全体的にある。
オーストラリアという美しい海が臨める国から、海の夕日を見ながら聞きたいサウンドが出てきた、という感じだ。
今回のアルバムからのシングルカットを2つ紹介しよう。
「Moving Out」
VACATIONS - Moving Out (Single)
「steady」
実はアルバムもyoutubeで公式がフルで発表している。10曲で34分というコンパクトさも大変な魅力だ。まだ聞いたことがないなら今年中に聞くべきだ。自分のように乗り遅れてしまう。
VACATIONS - Changes (Full Album)
以上2つのバンドを紹介して、この記事は終わり。
正直、「なんだよ今更じゃん」という感想しか、洋楽好きからしたら沸かないだろうと思う。
「知らなかった。いいじゃんこれ」って言ってくれる思いやりのある人がいますように。
(文:ジュン)
Cagayake! Alternative Girls(Snail MailとRatboysと・・・)
ガチでスバラシ Never Ending Girl's Rock!
・・・めっちゃ前の曲のクソみたいな替え歌でお送りしています。プリ帳とか今の女子学生使うんかな。使わんやろな。
オタク全開かつ老害めいた話はこれくらいにしておこう。今回はどういう記事を作りたいかというと、オタク全開なタイトルから察することができるだろうけど、ここ最近のオルタナをやっている女子についてだ。
先週は我ら出前寿司Recordsのリーダー、おすしたべいこによってスネイルメイルの渋谷での公演の模様を記事にしてもらった。
delivery-sushi-records.hatenablog.com
実はこのライブ、自分もリーダーと横並びで一緒に見ていた。ローファイ感たっぷりに少し枯れたような声で、原曲よりもややスローで粘っこく歌い、ギターをかき鳴らすフロントマン、リンジーの圧巻のパフォーマンスは素晴らしかった。MCがそんなにうまくないところが初々しさがあって面白くもあった。(詳しくは上記の記事を読んでほしい。)
さて、自分はさらにその翌週、10/14にまた名古屋でとあるライブを見ていた。Ratboysだ。
女性ギターボーカルのJuliaとリードギターのDaveからなるデュオだ。今回の日本ツアーは日本のバンド、The Firewood Project(Husking Beeのメンバーからなる激エモいバンド。エモが好きで聞いてないなら要チェックだ。)のアナログレコード発売のレコ発として、一緒に回ってきた。
ある程度、彼らの曲は予習していたとはいえ、自分の目当てはThe Firewood Projectと、名古屋での公演でOAとして出演のMy Young Animal(東海のエモバンド。こちらも素晴らしいバンドなので興味があればぜひ聞いてみてほしい)の2つのバンドだった。
目当ての2バンドは最高のライブをしてくれた。そして、このRatboysも全く負けず劣らずの素晴らしいライブをしてくれた。
そもそもどんな曲をやるバンドなのか。まずは聞いてみてほしい。
"Elvis is in the Freezer" by Ratboys
これらは彼らが去年、Topshelfからリリースした2ndフルアルバムの冒頭を飾る3曲だ。残りの曲もYouTubeでTopshelfの公式音源で聴けるし、Apple Musicでのサブスクリプションもある。
どうだろう。けだるさと優しさのあるボーカルと、ガレージロックのような尖ったサウンドがたまらないと思う。これを自分は生で、それも目と鼻の先で観てきたのだ。
ゼロ距離で観ると信じられないくらい幼く見え、キュートなJulia。何度も感謝の言葉を述べ、カウントをとり、ライブをリードする。ささやくような歌が心地いい。
リードギターのDaveは長髪を振り回して激しく演奏する。
エモーシャルというより、直球すぎるロックが楽しめた。
彼らのアルバムは日本版でEPもあるなど、日本でも人気がある。もし知らなかったならこれを機に聞いてみてほしい。
さて、ざっくりで名残惜しいが、Ratboysのことはこれくらいにまとめる。なぜならこの記事ではオルタナティブ女子を他にも簡単に紹介したいからだ。
まず紹介するのはTigers Jaw。
アメリカ、ペンシルバニアより。Ben WalshとBrianna Collinsの二人からなる男女ツインボーカルユニット(現在は2人体制になっている)。もうすぐツアーで日本にやってくる。
これもまたエモい。先に上げたRatboysのようにがっつりと女性ボーカルではない。(ユニゾンとかのほうが多い。リードになることもあるけど)昨年5枚目のフルアルバム、「Spin」をリリースし、それを引っさげての日本ツアーだ。5枚もアルバムを出しているのでもう新人ではなくベテランの域に入ってきてるバンドだと思うけど。とりあえずアルバム「Spin」からいくつかの曲を聞いてみてほしい。
(なお、ツアー大阪公演では先程自分が目当てにしていたThe Firewood Projectと、シューゲイザーバンド・揺らぎとの対バンになっている。絶対に行きたい。)
Tigers Jaw: Follows (Official Audio)
Tigers Jaw: Favorite (Official Audio)
Tigers Jaw: June (Official Video)
これらはアルバム「Spin」から冒頭の三曲。他の曲も公式音源、並びにサブスクリプションがある。
つづいて、Petal
女優としても活動しているシンガーソングライター、Kily Lotzを擁するバンド。彼女もTigers Jawと同郷で、アメリカのペンシルバニアから。そして画像は今年リリースされた2枚目のアルバム「Magic Gone」である。
Snail Mailとかと比べると素直で透き通るようなボーカルだと思う。ギターのサウンドも王道的な歪んだギターロックな感じ。アコースティックな曲では、彼女の歌のうまさ、声の良さがわかる。
こちらも先に出てきた作品「Magic Gone」から冒頭の三曲。"I'm Sorry"はアコースティックな序盤から途中で歪んだギターが聞ける、言ってしまえばべたべたな展開だが、その王道っぷりが気持ちいい。それはきっと彼女の声がいいからだ。
Petal - "Better Than You" (Official Music Video)
Petal - "Tightrope" (Official Audio)
Petal - "I'm Sorry" (Official Audio)
もう一つ。Covet
完全なインストマスロックバンドだ。メインは真ん中の女性、Yvette Young。ギター担当。まずは今年リリースした2枚目のEP「Effloresce」からの曲を聞いてみてほしい。
Covet - "shibuya" (ft.San Holo) (official video)
Covet "glimmer" (official video)
Covet - Sea Dragon [Official Music Video]
圧倒的すぎるギタースキル。すべての音が美しい。まだ彼女は27歳だという。末恐ろしい存在である。2枚EPを出したが、まだフルアルバムはリリースしていない。まさに始まったばかりのバンド。これからのマスロックを背負っていく存在になることは間違いないと思う。
そんなバンド、Covetだが、なんともうすぐ来日する。しかもプログレメタルバンド(ジェントとしてもとらえられる)、ポリフィアのゲストアクトとして日本をツアーするのだ。
このバンドはオルタナ好きだけでなく、メタル、プログレ好きもマークしておいて損はないと思う。実際、Covetのメンバーはデスメタルバンドもやっていたりするのだ。
とりあえず、ざっとこの3組の紹介をしておこうと思う。
もっと言えば、今年、エモレジェンド、アメリカンフットボールとツアーをしたPhoebe Bridgers、昨年のアルバムが大きな話題になったJulien Bakerもいるが、二人はすでにかなり有名だと思うので省略する。
日本では、そのJulien Bakerと共演したこともあるバンド、Homecomingsがもうすぐ新しいアルバム「Whale Living」をリリースする。Homecomingsについては以前、出前寿司Recordsのメンバーのさこれたが分かりやすい紹介記事を作ってくれているので、そっちを見てほしい。
delivery-sushi-records.hatenablog.com
今、オルタナ女子がアツい。
(文:ジュン)
Spangle call Shimokita line - 10/13 @ 下北沢近松
下北沢。
ライブを観るために何回も訪れてきたこの街で、こんな企画があった。
"spangle" @下北沢近松
出演:
ayutthaya
yule
揺らぎ
羊文学
…は? 何このメンツ。これで前売り2,400円? は? しかも企画したのがクワタナオノリさん。は? いつもお世話になっております!
という訳でついに始まったクワタさんの"俺企画"。おめでとうございます! 無事大成功に終わりましたね。今回はそのライブレポをお送りします。
ちなみに、企画名に因んでか開演前と転換時はずっとSpangle Call Lilli Lineが流れてました。は? 最高か?
✱ ✱ ✱
▽ ayutthaya
トップバッターはayutthaya!今年の6月に下北沢で観て以来の2回目。やっぱかっけ〜〜〜! しかもこの日のサポートドラムはやおたくや氏(ex. パスピエ)! うおおおおおありがとうございます…。
サウンドはオルタナティヴな感触ながら、絶妙な温度感というか、日常に寄り添い、そして彩るような優しさがayutthayaの音楽にはあると思います。テンションがちょうどいいんですよね。それでいてアンサンブルは鉄壁。めちゃくちゃノリノリではないけど確実に酔いしれる。これが中毒性ってやつか。あとボーカルのおみたおさん、普通に顔が好きです。何言ってるんですか?
ラストの"mottainai"がかっこよすぎて「このままライブが終わるのもったいない」と思いました。ガハハ。
mottainai (MV) - これ超好き。何回も観てる。
✱ ✱ ✱
▽ yule
こちらは9月に法政大学の企画で観て以来の2回目。ここから最前列のどセンターで観てました。
6人編成で織り成す綿密なアンサンブルが素敵なバンドです。非常にオーガニックなサウンドが心地良い。ギターのmagさんなんか、ボウイング奏法やっちゃってましたからね。他にもアコースティックギター、シンセサイザー、グロッケンなど、幅広い楽器も特徴。目をつぶると、のどかな田園風景が浮かんでくるようです。かと思えば、力の込めた演奏もしてくるあたり、ロックバンドなんだなと思わされますね。
そしてボーカルのAnnaさん、非常に見目麗しいお方だ…。タンバリンをシャンシャンしてる姿がとても良かったです。
10/28には初のワンマンライブも開催するとのことで、これからのさらなる活躍に期待大です!
ゴーストタウン (MV) - どことなく北国の空気感を感じられて良い。
✱ ✱ ✱
▽ 揺らぎ
ここであることに気づく。あれ? 今日出てるバンド、全部ボーカルが女性なのでは…? 偶然なのか、狙ってなのか。ということでお次はこの日一番のウィスパーボイスバンド、揺らぎ。
相変わらず最高でした。リハから音デカいしチューニングすらシューゲイズしてくる鬼っぷり。
鋭いドラムがやばすぎました。特に"Unreachable"の冒頭。からの、何もかもすべて出し切って果てるようなドラミング。そして悲鳴のようで怒号のようなギター。感情からサウンドへの繋がりがダイレクトだ…。
ベースの裕介さんも自ら「音がデカすぎる」って言ってました。じゃあ他のみなさんは大丈夫なんですか…? とにかくビリビリに痺れました。
Twitterで見かけた「自覚を持って明確に曖昧なことをやっている」という感想があまりにも適切でしたね。
Unreachable (MV) - もっともっと「追いつけない」場所まで行ってほしい。
✱ ✱ ✱
▽ 羊文学
トリです。羊だけどトリ。羊だけど。
いよいよ会場も人で溢れ出し、最前列の柵に押しつけられるくらいの大盛況っぷり。もうこのサイズの箱には収まらないバンドなんだということを実感しました。
何気に久しぶりに観ましたが、まず思ったのが「ユリカちゃん髪切った?(CV:タモリ)」。ドラちゃん…。フクダくんは相変わらず脚が細いしデデデデの小比類巻。
そして1曲目の"ドラマ"から目をカッと開いてどこに視線が行ってるのか分からない塩塚モエカ。曲に込めた情念のようなものを見た気がしてゾワゾワしました。
"若者たち"の引き裂くようなギターから流れ込むイントロ、何回聴いても最高ですね。その瞬間だけ延々とリピートしたい。
終盤、MCでは塩塚氏から主催であるクワタさんに向けてこんな言葉が。
「クワタさんがライブハウスに通いつめた結果、今日の企画があって、それがソールドアウトしたということは、本当に素晴らしいです」
ずっと前から羊文学のライブに行っていたクワタさん。もちろん羊だけでなく、色々なライブに毎日のように通いつめ、様々なミュージシャンとの関わりの中で得られた信用が、クワタさんにはあります。そしてこの日、満を持して、素晴らしいブッキングでイベンターとしてのデビューを果たしました。いやはや。まさかこんな日が来るなんて。
アンコールの"天気予報"でこの日のアクトはすべて終了。約4時間、あっという間でした。
天気予報 (MV) - 良い曲だ。
(ちなみに塩塚氏、先日Yo La TengoのJamesからギターにサインをもらってまして、最前列だったのでそれがバッチリ見えました。カメの絵ですか? 見かけによらずかわいいサイン。人は見かけにヨラテンゴ。)
✱ ✱ ✱
本当に素晴らしい夜でした。私は最前列で大好きなバンドたちを観られる幸せを噛み締めました。どのバンドもこれからどんどん人気が出て、それも叶わなくなると思います。とても貴重な瞬間を目の当たりにできていることを誇りに思います。
そう言えば、終演後「近松はライブ後につけ麺屋になる」という怪情報を得たので、次回は是非とも食べてみたいですね。
クワタさんにとっては、イベンターとしての出発点であり、しかもソールドアウトということで、感無量だったかと思います。私自身、素敵なバンドのブッキングに感謝するとともに、少なからず込み上げるものがありました。
本当にお疲れ様でした! そして、"spangle"の2回目がもしあるのなら、とても期待しています。
Special Thanks:
さこれた、塩塚モエカ、みらこ
(文:おすしたべいこ)
This Will Destroy You「New Others Part One」レビュー
新譜レビューというにはずいぶんと日が経ってしまった。(リリースは9月の末だった)
轟音系ポストロックバンド、This Will Destroy You の新譜、「New Others Part One」について今回は記事を書いていこうと思う。
あらかじめに断っておくと、僕はこのバンドのことは全然知らない。1stアルバム「Young Mountain」が今年で10周年を迎えたということ、そして新譜がでるということで聴いてみたバンドだ。Explosions in the sky が好きなら、という謳い文句に期待して聞いてみたとおり、1stアルバムを聞いて魅了されてしまった。それがこのアルバムのリリースの前日だった。
そういうわけで、この新譜は僕にとって2枚目の彼らのアルバムだ。浅いけれど、聞いてみた感想を率直に書いていきたい。
#1「Melted Jubilee」
シンセサイザーの音と無機質で打ち込みのようなドラムにつつまれた落ち着いたインスト。キラキラした音もあり、優しい感じがする。SEなどいろいろな音が詰まっているなかで、高揚させるギターのアルペジオが淡々と紡がれていく。美しい。
#2「To Win, Somebody's Got To Lose」
This Will Destroy You - To Win, Somebody's Got to Lose
これも鍵盤の音と無機質なドラムをバックにギターが紡がれる曲。ほとんど同じテンポで続いていくが、中盤の静けさがまるでシガーロスの「Voka」のように美しい。眠くなる。そこからまた単音を紡ぐ音楽にもどっていく。#1と似たような曲といえばそうかもしれないが、これは夕暮れ時に聞きたくなるような感傷的な音が全体的に聞こえている。
#3「Syncage」
This Will Destroy You — Syncage
これも鍵盤で始まるが、最初からかなり不穏な空気を醸し出してくる。そしてドラムのブレイクと共にスピード感のある轟音に包まれる。ドラムがかなりスピーディで、ハードコアとかのパンクロックのようだ。だが、轟音自体は暴力的なものよりは、やはりExplosions in the skyのような優しい感じがする。「すごくいい」と思っていたらあっという間に終わってしまう。4分半の曲で、それほど短いわけではないけれど、体感は3分ないくらいだ。さわやかな轟音に飲み込まれる気持ちがいい曲。
#4「Allegiance」
ダンスミュージックやエレクトロニカのような曲。Radioheadの「treefingers」のように、ギターはほとんど飾り。今作中で一番落ち着いた雰囲気をもつメロウナンバー。
#5「Weeping Window」
This Will Destroy You - Weeping Window
前の曲のアウトロから流れるように始まる。実質、前の曲と合わせて一つの曲。ゆっくりと音を引き継いで紡がれていく。打ち込み(ドラム?)の音が入ってくる。ベースが入ってくる。ギターの音がどんどん大きくなる。だが、轟音はこない。静けさに戻っていく。ギターがまるでストリングのような音を奏でる。
ここで轟音。重い。モグワイやほかの轟音系バンドには感じたことがなかった感想だ。音が重いのだ。ドラムがダイナミックだからだろうか。テンポ自体がスローだからだろうか。ゆっくりと頭をゆらして聞ける。ストリングのようなギターの音もずっと響いている。残響が吸い込まれながら終わるラストも美しい。
#6「Like This」
クラウトロックみたいな不穏なビートをぼんやりとした音で包んだ曲。これもかなりエレクトロニカみたい。
#7「Go Away Closer」
あっという間にきてしまったラストナンバー。今作で唯一、バンドサウンドを主軸とした曲。冒頭から聞きやすいギターポップみたいなメロとテンポ。インストだけど。高音をかき鳴らすということもない。さわやかなラスト。
と思ってたらドラムのブレイクから一気にメロウになって轟音が炸裂する。ピアノの音をバックにひたすら美しくかき鳴らされるギターの高音。恍惚としてくる。ドラムのビートだけが最後に残って、フェードアウトして終わる。これぞ轟音系ポストロックバンドだ、という曲を最後にやる粋な演出がニクい。
以上が全曲のレビューだ。たった7曲。たった38分のアルバム。轟音系のポストロックアルバムの中では今までの中でもトップクラスの聴きやすさだった。アルバム・曲のメリハリも◎。
調べてみると、彼らは他のアルバムでもクラウトロックに接近したりだとかの作品を作っているらしい。10周年を迎えた1stアルバム、そしてこの新譜から、彼らをもっと知っていきたいと思う。
最後にアルバムの採点
3.5/5.0
いいアルバムではあるが、まだまだ聞き込みや彼らを知っていくことで後から評価が上がっていくと思うので、伸びしろを込めてこの点数で。
(文:ジュン)
真っ赤なジャガーと静かな熱狂 - Snail Mail @ 渋谷WWW X 10/6
2018年10月6日。
Snail Mailことリンジー・ジョーダンがついに東京にやって来た。
4日の大阪公演に続いて2度目となるワンマン。
△ リンジー・ジョーダン
今年の6月にデビュー・アルバム『Lush』をリリースしたばかりの彼女。にも関わらず、チケットはソールドアウト。会場はほぼ満員の状態であまり隙間がない。期待値の高さが伺える。
開演の19時をだいぶ過ぎた頃、会場が暗転し歓声が上がる。バンドメンバーと共にリンジーが登場した。
"Instrumental Intro"からの"Heat Wave"でいきなりぶち上がる。とにかく歌声が素晴らしい。微かな儚さを忍ばせながらも、どこまでも届いて行きそうな伸びやかなボーカル。あっという間に彼女の世界に引き込まれた。そして若干19歳で堂々とした佇まい。すぐに彼女が天才だと悟った。
△ Heat Wave (MV)
そして、リンジーの歌声には不思議な作用があって、じっと聴いていると、自分でも忘れていた幼少期の原風景のようなものを記憶の奥底から呼び覚まされるような感覚に陥る。もちろん彼女はそれを意識してやっている訳はないし、持てるポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた気がした。
セットリストは『Lush』からほぼ全曲と2016年リリースの『Habit』から数曲。ここから始まっていくという強い意志を感じた。
https://itunes.apple.com/jp/album/habit-ep/1132854902?at=10l8JW&ct=hatenablog
ステージング自体はとてもシンプル。必要最低限の機材で必要最低限の照明。ドラムセットもエフェクターも飾り気はないし、VJも一切ない。演奏も特別に派手なことはやらない。ある意味ものすごく潔い。
サウンドはどこまでもローファイでありつつも、常に静かに熱狂を孕んでいるようで、それが時折爆発する時のリンジーの表情や歌声やギタープレイが愛おしくて仕方がなかった。音源だけではこの感覚は伝わらない。仄暗い中に光が差して浮かび上がる彼女の姿に神々しささえ覚えた。
途中、リンジーが「Lost my guitar pick…」と言って会場を和ませる場面も。年相応だと感じる部分は拙いMCだけで、演奏中はあまりにも貫禄があって隙がない。
名曲"Pristine"ではこの日いちばん力強いリンジーを観ることができた。寝かしつけていた熱狂を一気に噴出させるような力のこもったギターとボーカルが本当に素晴らしかった。
終盤、バンドメンバーがステージを去り、リンジーがたったひとりで真っ赤なジャガーを弾きながら"Anytime"を力強く歌う姿を観ていたら、よく分からないけど、なぜかすべてのことは大丈夫なんだなと思った。彼女の歌にはそれだけの力があるし、その度合いは誰も計れない。
https://twitter.com/osushitabeiko/status/1048546200864022528?s=21
Thank you for coming,
初めての東京でのライブに立ち会えて幸せでした。また日本で素敵なライブをしてください。
(文:おすしたべいこ)