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ネガとポジの狭間で - クマリデパート「シャダーイクン」

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クマリデパートの新曲「シャダーイクン」がやばい。そう、クマリデパートの新曲「シャダーイクン」がマジでやばいんです。(とても大事なことなので2回言いました)

 

クマリデパートは2016年に結成されたアイドルユニット。ekomsに所属しており、Maison book girlにとっては後輩にあたる。メンバーチェンジを経て現在の早桜ニコ(さおにこ)、優雨ナコ(ゆうなこ)、小田アヤネ(おだあやね)、楓フウカ(かえでふうか)の4人に落ち着き、2018年には作詞・大森靖子 / 作曲・サクライケンタのシングル「あれ?ロマンチック」をリリースした。

 

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(左から 優雨ナコ、小田アヤネ、楓フウカ、早桜ニコ。マジのクソカワPARTYです。マジの。)

 

そんな勢いに乗る彼女たちは2019年1月22日にシングル「シャダーイクン」をリリース! この曲がマジでやばい。何がやばいかと言うと、作詞・作曲・編曲が、サクライケンタと玉屋2060%の完全な共作なのである。そう、作詞・作曲・編曲が、サクライケンタと玉屋2060%の完全な共作なのである。(とても大事なことなので2回言いました)

 

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(「シャダーイクン」のジャケット写真。ポップかつサイケデリック。アイドルに対してサイケデリックという言葉を使うなよ。)

 

玉屋2060%と言えば、でんぱ組.incの「でんでんぱっしょん」や「サクラあっぱれーしょん」などを手がけ、彼女たちの人気の火付け役となったことをご存じの方も多いかと。でんぱ組のアイデンティティでもある "早口でまくし立てる多幸感あふれる電波ソング" を決定づけた意味においても彼の功績はめちゃくちゃ大きい訳で…。そんな玉屋氏がクマリデパートの曲に関わる、それもサクライ氏との共作と聞けばもう否応なくテンションがぶち上がる訳で…。タイトルの「シャダーイクン」という不思議な言葉も「シャイン」と「ダーク」を合わせた造語とのことで、リリース前から本当に楽しみにしていた。

 

そしていざ蓋を開けてみると…。

 

もうあまりにもサクライケンタ×玉屋2060%すぎて笑っちゃう。ここまで分かりやすい共作が存在するのか? ある意味怪作です。

 

(「シャダーイクン」MV )

 

まずイントロは完全にでんぱ組でいきなりガッツポーズ。かと思えば2番の後の間奏なんかはMaison book girlで、全体的なサウンドとしては両者の要素が驚くほどに違和感なく同居している。もちろん変拍子もぶち込まれる。あまりにも離れ業すぎやしないか…?

 

そして歌詞。「ここはサクライケンタだろうな」「このフレーズは玉屋2060%だろう」というのが分かりやすすぎる。サクライ氏に関しては「神社」という言葉が好きすぎてブクガの楽曲だけでは飽き足らず、下記の通りついに今回クマリデパートの曲にも登場させてしまった。職権乱用だ!(?)

透明な夜、青い鍵を集めて

神社の影に透けた扉を開いた

"玉屋節" とも呼べる歌詞もたくさんあり、特に

僕らはもうマイメン

なんて言っちゃう。サクライ氏は「マイメン」なんて言葉絶対嫌いだろ。(超ド偏見)

 

終盤は玉屋楽曲としてはお馴染みの大サビで盛り上がる構成となっており、ここで多幸感の臨界点を突破してしまう。そう、ここで多幸感の臨界点を突破してしまうのだ。(とても大事なことなので2回言いました)(そろそろうるさい)

ただ、その部分の歌詞が本当にやばい。

枯れてく季節 羽ばたけばもっと高く

笑っていたの 音が鳴るほうまで さあ

枯れてく季節 未来は明るいよ

笑っていたの まじわり始めてるさ!

…躁鬱じゃん。

しかし最後は

天まで 登れ煌々とシャイン↑

とまあ、アゲ〜↑な感じで締めくくる。カオスすぎる。ほとんど荒業。

 

でも本当に不思議で、曲全体としてはひねくれながらもアイドルポップとしてしっかりまとまっている。全然意味が分からない…。ネガティブとポジティブをジェットコースター並に行き来する躁鬱っぷりを見せながら、最後はハッピーエンド(?)でぶち上げるというとんでもない曲。

 

激戦と多様化を極めるアイドル界にあまりにも巨大な一石を投じるアンセムが誕生してしまった。マジでいいです。

 

※ちなみに。カップリングの「セカイケイ」はサクライ氏が作詞とは思えないほどストレートなロックチューン。というかクマリデパートは基本的に編曲は外注であり(時には作曲も)、あくまで王道アイドルを地で行く存在なのである…。

 

 

(文:おすしたべいこ)

 

 

『星』の答え(STARMARKET ライブレポート)

STARMARKET 再結成&来日ツアー

 

いったいどれだけのエモ好きがこの時を待っていただろうか。自分は完全に後追いだが。

 

発表されてすぐに名古屋でのライブのチケットを買った。

 

1stアルバムと2ndアルバムを何度も聞いて当日を迎えた。

 

そして当日。

名古屋の会場は栄のRAD。

入っていきなり泣きそうになった。

 

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星をバックに、大傑作「Sunday's Worst Enemy」のジャケットがついたドラムセット。

本当にこれから、あのSTARMARKETのライブを観ることができるんだと思うと胸が熱くなった。

 

STARMARKETの前の The Coastguards、Mirror のライブが素晴らしく、十分すぎるほど盛り上げてくれた。

その後、自分はうまく観る人の間を抜け、2列目くらいまで近づくことができた。

そして待ちに待ったライブが始まった。

 

 

 

最初は3rdアルバムから「Count With Fractions」。ブレイクのタイミングで後ろから人がたくさん飛び込んできて、いきなりもみくちゃな状態から始まった。

その次でいきなり「Carry On」。ギターがかき鳴らされた瞬間に絶叫してしまった。人が波のように飛んで揺れて、もみくちゃが更にすごくなった。何度も腕を突き上げ、「Carry On!!」で観る人が皆叫ぶ。これぞパンクのライブって感じだった。そういうライブは久しぶりで、後追いの人間なのに懐かしい気持ちになった。

続けて「Hate You Still」、「North」を簡単なMCを挟みつつ演奏。2ndアルバムがもう21年前になってしまったこと、スウェーデンを想う曲として「North」をやるんだということを話した。

そして「初期の曲をたくさんやるから」とMCをしてから畳みかけてきた。1stアルバムからの曲、「Cozy And Warm」、「Parking Lot」、「Hollowminded」を立て続けに演奏。どの曲も1stアルバムから絶対やってほしかった大好きな曲で、どの曲もイントロが鳴った瞬間から腕を突き上げていた。サビはシンガロングした。特に「Hollowminded」は本当に好きな曲で、サビは飛び跳ねていた。正直、「Hollowminded」が好きなのは少数派かもしれないと思ってたから、一体になって楽しめたのは感動した。

勢いそのままに「Into The Well」と「Amber」を演奏。12月にストックホルムであった再結成ライブの評判通り、ここまでは初期のEPと1stアルバム主体で押し切ってきた。

「ほんの少し落ち着かせるよ。ほんの少しね。」とMCで話してから、中期~後期(3rdアルバム以降)の曲をやってくれた。「Baby's Coming Back」、「Coming From The Cold」、「Into Your Arms」、「Cologne」。「Into Your Arms」は全体がゆったりと揺れながらサビで合唱が起きた。本当に、ほんの少しだけ落ち着けた時間だった。

そして、「You Can't Come」。アルペジオの優しさとサビのバースト。「これが本当に本物のエモだ」と思った。生で聴くと落差が何倍もあるように感じた。

「You Can't Come」でフィードバックの音が残りながら終わって、じわじわと続いていた。「来るか・・・?いや、来てくれ!」と思いながらやっときた。「Repetition」。全員のテンションの最高潮はこの瞬間だったと思う。東京や大阪での「Repetition」の様子も後で動画で見てみたけど、名古屋のあの瞬間のほうが絶対にアツかった。そしてその中に自分がいたことがどれだけ凄いことかという感動も感じた。生で聴いてるときは今までで一番デカい声で歌ったし、一番飛び跳ねてた。「これで死んでもいい」。そう思えた。

その後「Everybody's Gone」をやって、ラストナンバーになってしまった。そう、「Safe Bayou」だ。号泣である。涙で前が全然見えなかった。盛り上がっては落ち着いて、さらに盛り上がってはさらに落ち着いて。こんなに長い曲だっけかと思った。ずっと落差が増えていくようだった。

 

 

アンコールはあった。

Endless」。2ndアルバムのボーナストラックにある曲。とんでもないレアな曲からアンコールが始まった。

続けて「November」、「Losing Track」。1stアルバムと初期EPに収録のナンバー。とにかくこのツアーは初期の曲の網羅性が高くて嬉しかった。

〆。「Your Style」。1stアルバムの最初の曲。すべての始まりの名曲。これで終わるというところがライブのセトリの構成として美しい。もちろん自分は大はしゃぎだった。最後の力を振り絞って歌って飛んだ。

 

 

 

 

まさかのアンコール2があった。

Chuck」。1stの名曲だ。大好き。「Chuckはやってくれなかったなあ」と思ってたらめちゃくちゃ嬉しかった。体力を使い果たしてて全然ノレなかったけど、幸せだった。

 

アンコール2でもう一曲やってくれたんだけど、曲名が分からなかった・・・恥ずかしい。

 

 

 

 

以上がSTARMARKETの名古屋でのライブの全容だ。2016年にサマソニレディオヘッドを観た時くらい感動した。ライブで泣いたのもその時以来だったかもしれない。今でもあのライブは忘れられないし、ずっと記憶に残り続けると思う。

 

STARMARKET。星の市場。「星」とは何か。答えは「記憶」だ。

 

STARMARKETを聞くこと

STARMARKETを好きになること

STARMARKETを観ること

STARMARKETを好きでいること

 

そういうこと全部の「記憶」という「星」を売ってきたバンド

それがSTARMARKETだ。

 

 

 

という締めの一言を書いていたら、アニメ「ラブライブサンシャイン」の千歌ちゃんが「『私たちだけの輝き』ってなんだろう」って考えて二期の最終話で答えをだしたところを思い出した。

人混みすごそうで今のところまだ映画みてないんだよな。まだやってたら観たいな。

 

 

(文:ジュン)

 

 

ダイヤモンドは砕けない(Lithics ライブレポート)

 

ジョジョのことは全く知らないがとりあえずタイトルにしてみた。「Lithic」という単語には「石でできた」、「リチウムの」という意味があるので。

 

アメリカのポストパンクバンド、Lithics の来日ツアー。

名古屋でのライブを観てきた。

 

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そもそもどんなバンドか。

 

金属的で硬いギター

感情が一切感じられないボーカル

シンプルかつ強固なリズム隊

 


Lithics - Specs (Official Music Video)

 

こういう感じだ。

初期のストロークスよりもさらにソリッドになったような、スッカスカのロックを鳴らす。空っぽすぎて逆にクセになる。

 

現在二枚のアルバムを発表している。2枚目は昨年リリースしたばかり。注目の若手バンドだ。KEXPにも出演している。

(KEXPのライブの様子は名古屋でのセトリを合わせて下に載せる)

 

1stアルバム 「Borrowed Floors」

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2ndアルバム 「Melting Surface

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2枚目のアルバムについてはApple Musicでは半分くらいしか聞くことができない。ぜひフィジカルでゲットしてほしい。

 

というわけで、バンドの紹介はこれくらいにして、ライブレポートを書こう。

 

 

 

場所は鶴舞のKDハポン

 

初めて行った場所だけど、すごく小さなハコで、柵もなくアーティストまでの距離がゼロで観れる。カウンターで料理をもらって、二階席があってそこから見ることもできる。ゆったり見るにはうってつけの場所。(それでもパンパンに人が入ってはいたが)

 

そしてその密集した場所だからこそ、Lithicsの極限までシンプルなロックが映えた。

 

披露してくれた曲はおおよそこうだった。

 

Glass Of Water

Still Forms

Burn On Burn

Labor

Excuse Generater

African Mask

Thing In Your Eye

When Will I Die

Edible Door

 

KEXPでも最初にプレイした曲、「Glass of Water」をはじめにもってきた。彼らの曲の中では比較的しっかりとロックをしている曲で、始まりから気持ちよかった。


Lithics - Glass of Water (Live on KEXP)

 

続けて自分のお気に入りの一つ、「Still Forms」を披露。とにかく淡々と生で演奏する姿と音が素晴らしかった。


Lithics - Still Forms (Live on KEXP)

 

そして2ndアルバムの1曲目に収録のキラーチューン「Excuse Generator」。観ていた全員が乗りにノッた。


Lithics - Excuse Generator (Live on KEXP)

 

 

これくらいで紹介とレポートは終ろうと思う。長々と曲を貼るわけにはいかないので。

 

 

多分、観に行った人の中で一番自分がガチガチに予習してきたと思う。ほぼすべての曲をノリノリで聴いた。ぜひ再来日してほしい。

 

 

(文:ジュン)

 

 

天使にふれたよ!(Angelic Milk 1stアルバムレビュー)

 

2019年最初の記事がこれになります。

天使にふれたよ!、というタイトルから思い出してほしいのは、アニメ「けいおん!」がもう10年前の作品になってしまったということですよ。ジジイになってしまった・・・。

 

時の流れが恐ろしいという話は置いておいて、先日リリースされたアルバムのレビューをしていこうと思う。

 

ロシアのロックバンド、Angelic Milk の1stフルアルバム「Divine Biker Love」だ。

 

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ジャケットを見て「あっ(察し)」となるのは待ってほしい。ジャケットが変わっててもバンドをしている人のビジュアルがかっこよかったりもする。そのビジュアルがこれだ。

 

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自己完結の長いフリにお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

どぎつい見た目とジャケットから、胸焼けしそうになるようなポップバンドに見える。

だが、全然違う。ローファイで、ドリーミーで、時にはハードで、とにかくごちゃごちゃでカッコいいオルタナティブロックバンドだ。

(また、ボーカルの女の子はモデルとしても活動してるらしい。美人ってなんでもできるんだね)

 

これがアルバムの前に出したEPに収録されている曲だ。


angelic milk - "Rebel Black" (OFFICIAL VIDEO)

 

「そのビジュアルでこれ!?」と言わんばかりの、気だるい感じとサビでギターをかき鳴らす豪快さが完全にツボだ。完全にギャップ萌えだ。

そんな Angelic Milk の1stフルアルバム「Divine Biker Love」がリリースされたのは、ほんの数日前。1月9日だ。旬なうちにぜひ入手してほしい。

 

バンドとアルバムのざっくりした説明はこれくらいにして、今回のアルバムの収録曲から、自分のイチオシをいくつか紹介したい。

 

 

#2. Ball Gag Ki$$

思い切りハードロック。だけどボーカルがずっと気だるげ。作中で激しい側面を存分に見せているのはこの曲。

www.youtube.com

 

#4. Acid & Coca-Cola

今作での自分のフェイバリット。鉄琴みたいな音、歪んだ重いベース、ささやくようなエフェクトの効いたボーカル。ごちゃごちゃなのにドリーミー。曲のタイトルはぴったりだ。どこまでも沈んでいくのに体中が甘さで包まれていてやめたくない、そういう気分になる。楽曲の振れ幅がすごい。

www.youtube.com

 

#6. Celebrate

こういうオーソドックスなオルタナもやったりする。アルバムの流れで聴くと非常に良い。


Angelic Milk – "Celebrate" (OFFICIAL AUDIO)

 

 

 

 

 

ざっくりとしたレビューだが、一聴の価値は十分にある若手バンドだ。次のアルバムではもっとひねくれたロックを聞かせてほしい。

 

アルバム採点

3.0/5.0

 

 

(文:ジュン)

 

 

2018年の日本のエモい作品を紹介したい件

 

 タイトルそのままだが、日本のエモバンドがいろいろ良作を出してくれたんじゃないだろうか、2018年。もっとも、名古屋のstiffslackから知ったものが大概で、まだまだ良作はあったんだろうが。

 

 そもそも海外のエモも今年すごかった。Tangled Hair、Lifted Bells、Tiny Moving Parts、Self Evident、Gulfer、Covet、Nervus などのバンドがアルバム、EPをリリース。レジェンド枠のリリースはゲットアップキッズのEPとミネラルの新曲。もう海外枠だけでいっぱいいっぱいである。

 

 それでも日本のバンドを取り上げるのは、新作を引っさげてやってくれたライブを生で観た感動をそのままに、ぜひ紹介したいという気持ちがあるからだ。多くは生で観たバンドから選んだ。機会があればこの記事でバンドを覚えて見に行ってみてほしい。

 

 さて、前置きが長くなってしまったが、紹介したいアルバムを下に一覧でわかるようにまとめた。それぞれについて簡単にコメントしていく。

 

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1. The Firewood Project 「Causes」

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 『2018年の日本のエモアルバムの最高傑作は?』と聞かれたら真っ先に自分はこれを挙げたい。Husking Bee、Malegoat というエモエモなバンドのメンバーで構成されている。自分はレコ発で名古屋に来た時、Tigers Jawと大阪でライブした時、それぞれのライブを観た。生で体感するとベテランの技巧を感じた。2回とも、全曲が安定して綺麗なアンサンブルが聞けた。来年も是非ライブを観たい。

 アルバムはフルアルバムとしては最初の作品。ざっくりと言えば、1stアルバムの頃のゲットアップキッズをもっと甘くして、音の粗さを取ったような感じ。このアルバムはストリーミングでも聞くことができる。なのでぜひ聞いてほしい。なんとしても多くの人に知られてほしい作品、そしてバンドだ。アルバム収録曲を2つ貼っておく。


The Firewood Project - Dove In A Haze


The Firewood Project - "Ghost" (Official Video)

 

 

2. Peelingwards 「CAMELUS」 

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 Cinema Staff のメンバー二人を軸とするバンド、Peelinwardsの1stフルアルバムcinema staffの優しさのあるサウンドから比べると、ずっとポストハードコア的で、マスロック的で、という要素が合わさった硬派な作品になっている。でもボーカルは絶叫とかではない。自分は9mmの卓郎のようだと思った。散文で堅い表現の羅列が続く。それを(同じことをさっきも書いたが、)硬派な音が支えている。ヘヴィな音があるわけではないが、一体となって耳に迫る感じはなかなかの重みがある。面白い作品。レコ発で名古屋にせっかく来てくれたが、行けなかったことが心残りだ。アルバム収録曲を以下に1つ貼っておく。


peelingwards - hyousou

 

 

3. loqto 「gēo」 

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 東京で主に活動する3ピースインストバンド、loqto。今作は1stフルアルバム。今年のloqtoはカナダのgulferとツアーをして、イタリアのValerian Swingとツアーをして、マスフェスではステージのトリを務めた。ビッグなバンドになったんだなと思った。(知ったのは今年なのに何を言ってるんだろう。)アルバムはオーソドックスなインストマスロックで聴きやすい。だが、名古屋でライブを観るとすごかった。とにかく音がデカい。本当に3人で出してる音なのかと思うほど音が激しく、鬼気迫るという表現がぴったりだった。ライブ化けするバンドなんだと感じた。アルバムもいいが、とにかくライブを観ることを推奨したい。アルバム収録曲を以下に1つ。


loqto / ”Gestaltzerfall”【PV】

 

 

4. Summerman 「fan」 

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 東京・吉祥寺から。今作は2枚目のフルアルバムだ。エモというよりはギターポップに近い。ジョニーフォリナーのメンバーから成るバンド、Yr poetryを引き連れての名古屋でのライブを観た。トリプルギターが合わさる分厚い音がとにかく気持ちよかった。シューゲイザーとか轟音とかとは違う。迫るとか襲われるという音ではなく、包まれるような音。ミドルテンポの曲が多く、ブレイクの一つ一つが丁寧な感じがしててとても聞きやすい。(ライブで観るとブレイクの瞬間に全員がしっかり向き合って一気にいく感じがすごくかっこよかった。)

 Homecomingsとか好きな人、90年代みたいな良質で甘いギターポップが好きな人はぜひ手に取ってほしい。以下のアルバム収録曲を聞いてもらえればわかると思う。


SUMMERMAN - "White" MV


SUMMERMAN - Super Health - MV

 

 

5. Falls 「Egg Hunt」f:id:delivery-sushi-records:20181222174301j:plain

 またまた東京・吉祥寺から。アルジャーノンとかのエモリバイバルを彷彿とさせる正統派なバンド3ピースバンド。有名なバンドだから今更何を、という感じはあるだろうけど、今年出したEPが良かった。そしてそれ以上にライブが良かった。名古屋で今年2回見た。レコ発で来た時とSummermanとYr poetryと名古屋に来た時。突っ切る疾走感と聞かせる時にはクールな感じ、っていうこのエモの王道みたいな展開のバランスがほんとに見事で、見たライブ2回とも超楽しかったし、ずっと聞いてられるような気がした。複雑になりすぎず、簡素にもなりすぎず、ホントに絶妙。

 作品の話に戻ると、どの曲も素晴らしく、あの玉屋2060%のリミックスした曲が収録されてて、最後にはちょっとした仕掛けもある。歌詞が書かれた紙まで楽しめる。作品の外も内も面白いEPになってるので、ぜひ。

www.youtube.com

 

 

6. Emitation 「Distribution channel of the three clouds」

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 名古屋のエモバンドだ。今作は一応シングルである。全20曲収録、そのすべてが30秒程度で終わる曲だらけ。エモのわんこそば(stiffslack店長の表現らしい)。Fallsのレコ発と同じイベントで、名古屋でトリを務めたライブを観た。MCで修学旅行中にCap'n Jazzのアルバムを買った話を聞いた。彼らの名前を出す通り、荒々しくショートチューンで叫びまくるのに超爽やかなエモが楽しめた。今作は彼らにとって2作目のEPであり、1作目はこれよりは少し長い曲が楽しめる(それでも1分程度でどれも終わってしまう)。Enemiesとかalgernonとかsnowingとかのリバイバルバンドが好きなら間違いない作品。この2作目でドラムが変わって再出発という感じで、これからが楽しみで仕方ないバンドで、もうすでに自分はファンである。またライブが見たいし、新作を待っている。


Attack - Emitation

 

 

 

 

 ざっとこんなところで記事を終わろうと思う。来年もなるべく多くのライブにいって、いろんな日本のエモバンドを知りたい。

 

 

(文:ジュン)

 

 

2018年の名盤(表・裏)※ジュン選出

 どこかしこも年間ベストを発表する時期になってきたので、自分も選んでみようと思う。年間ベストというよりは、今年の良かったアルバムを表バージョン、裏バージョンで3枚ずつ選んでみた。

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 まずは表バージョンの3枚。(ランキング形式ではなく、順番は適当である)

 

1. The 1975 「A Brief Inquiry Into Online Relationships」

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2. Pale Waves 「My Mind Makes Noises」

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3. Snail Mail 「Lush

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 表バージョンということでベタベタなチョイスをしてみた。それでもやはりこの3枚は誰も外せないんじゃないだろうか。

 

 

1. The 1975 「A Brief Inquiry Into Online Relationships」

 配信された直後に聞いた。聴きやすさと少しの憂いが絶妙な塩梅である。多くの人が「OKコンピューター」を感じたようだが、自分もそうだ。それは収録曲の「The Man Who Married A Robot」が「Fitter Happier」を思わせるからではない。なんとなく全体的な構成が近いものがあると思ったということ。そして「次はOKコンピューターとかクイーンイズデッドのようでないといけない」というマシューのビッグマウスからそういう耳で聞いてしまっていたことが大きい。実際にここまですごいアルバムを作ってくるとは予想していなかった。

 このアルバムについては、我々、出前寿司Recordsとも多少の縁がある音楽サイト(勝手に自分はよきライバルだと思っている)、アポロでも配信リリース早々に素晴らしいレビューが書かれているので、そちらも読んでみてほしい。以下にリンクを貼る。

 

The 1975 の『A Brief Inquiry into Online Relationships』を徹底調査 - Apollo96

 

 

2. Pale Waves 「My Mind Makes Noises」

 これについては新譜レビューも書いたし、全歌詞も翻訳してみたしで、自分の中では今年一番思い入れがある作品。詳しくはリンクを下に貼るのでそこから。

 来年の単独来日のチケットはとりあえず押さえてあるので、なんとか行けることを切に願う。

 

(アルバム内容のレビュー)

My Mind Makes Noises レビュー(Pale Waves デビューアルバム) - 出前寿司Records

(全和訳)

Pale Waves 「My Mind Makes Noises」全和訳(前編) - 出前寿司Records

Pale Waves「My Mind Makes Noises」全和訳(後編) - 出前寿司Records

 

 

3. Snail Mail 「Lush

 渋谷まで行ってライブを見た(このサイトのリーダー、おすしたべいこと氏と一緒に見た)。最近いい音を鳴らすオルタナ女子がどんどん出てきているが、デビュー作のこのアルバムだけで確固たる地位を得たと思う。

 オルタナ女子といえば、ジュリアンベイカは来年に単独来日するし、ルーシーダカスも今年アルバムを出して、フィービーブリジャーズアメリカンフットボールのツアーを一緒に回った。そしてそのジュリアンベイカー・フィービーブリジャーズ・ルーシーダカスから構成されるスーパーユニット、ボーイジーニアスが今年初EPを発表した。この勢いは来年も続いてほしい。

 

 

 というわけで、表バージョンの3枚はここまで。続いて裏バージョンを発表しよう。名盤というより、こんなのも良かった、というのがすこしでも紹介できればというチョイスになっている。

 裏バージョンはこれだ。(数字はランキングではなく適当)

 

1. Hater 「Siesta」

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2. Exploded View 「Obey」

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3. Peel Dream Magazine 「Modern Meta Physic」

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 そこそこ話題になったアルバムで構成されているので今更感はあると思うが、こちらも紹介していきたい。

 

 

1.Hater 「Siesta」

 スウェーデンインディバンド、ヘイターの2ndアルバム。ギターの音と女性ボーカルの相性がこれも良い。ドリーミー系ともローファイともキラキラしてるとも言い難い、しかし絶妙なギターの音。歌うというよりは独りぼっちで外で自由に弾き語っているような、のびやかだけど陰も感じるような控えめな歌い方。トランペットもピアノもささやかに花を添えているような。北欧の自然が豊かな風景が見えてくるような作品。UKやUSのバンドとかばかり聞いていたが、北欧は今作が僕の初作品だった。押しつけがましい音が一つもなく、ゆったりと一体になって聞くことができる。リラックスしたいときにうってつけのアルバムになってると思う。

 

 

2.Exploded View 「Obey」

 ポーティスヘッド、ビークのジェフのプロデュースによるアーティスト。ポーティスヘッドが好きなアーティストの一つなので手に取ってみたが、これが素晴らしい。ポーティスヘッドのテイストのまま、もう少しバンドサウンドが増えたような感じというのか、なんというか。ポストパンク?インダストリアル?よくわからない。ただ、どうしようもなく音は暗い。美しい。絶望してるわけじゃないし、悲しいことがあったわけでもない、でも暗闇に身を置いていたい、そういう気分の時ってないだろうか。自分にはある。これはそんな自分にピッタリなアルバム。ノイジーな音も入っていたりして聴くほど深みに入っていけるようになってる。

 

 

3.Peel Dream Magazine 「Modern Meta Physic」

 NYのアーティスト。ファズの効いたギターに色々音が乗っかる感じでポップ。ここまでに紹介した5枚に比べると一番ごった煮になってる。しかし、どの曲もメロが甘い。あと、なんだか少し前の世代のポップスを聞いているようななつかしさもある。このアルバムを置いている店ではステレオラブを引き合いにだされている。確かにそういう感じもする。薄っぺらい紹介になってしまっているけど、裏名盤に自分が選んだ3枚のうちでは、このアルバムが一番たくさんの人に聞かれてほしい。

 アルバムの1曲目はPVが存在するので、とりあえず聞いてみてほしい。


Peel Dream Magazine - Qi Velocity

 

 

 

 とりあえず自分が紹介したいアルバムの表・裏はこれでおしまい。表は言わずもがなだろうけど、裏のほうはなるべく「聞いてなかった」って人に刺さってくれればと思う。

 

 あと、2018年はエモとかそっち系の作品が充実してたから、ジャンルを絞ってよかったアルバムをまとめてみたいと思う。

 

 

(文:ジュン)

 

夢と現実の境界を見失う60分間 - Maison book girl『yume』レビュー

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2018年11月21日、Maison book girlのメジャー2ndアルバム『yume』がリリースされた。

 

アルバムリリースの発表はekoms主催の定期ライブイベント「bmg vol.1」(2018年9月18日開催)でアナウンスされ、その衝撃的なビジュアルに湧いたのも記憶に新しい。

※ekoms:ブクガの作詞作曲編曲全てを手がけるサクライケンタが代表を務める事務所。Maison book girlやクマリデパートが所属している。

その後、アーティストビジュアルも一新。真っ赤な景色に佇む井上唯和田輪矢川葵コショージメグミの4人の姿は遠く、もはや表情すらよく見えない。Twitter上ではその色合いから「Syrup16gを彷彿とさせる」という声も多数上がっていた。

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Maison book girl アーティストビジュアル

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Syrup16g『HELL-SEE』ジャケット

 

アルバムの内容もこれまでとは一線を画しており、サクライケンタがタイトル通り「夢」を表現した21曲を収録。今回はその全曲レビューをお届けしたい。

※なお、レビューではアルバムのネタバレも含んでいるため、事前情報無しで聴きたいという方は聴いた上で読んでみてほしい。

 

 

✱  ✱  ✱

 

 

1. fMRI_TEST#2

fMRIとは下記の通り。

fMRI (functional magnetic resonance imaging) はMRIを利用して、ヒトおよび動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つである。※Wikipediaより引用

この説明を読んでも分かる通り、「夢」というテーマに沿ったアルバムとしての印象を決定づけているようなインスト曲。

この曲はワンマンライブ「Solitude HOTEL 6F hiru / yoru」(2018年11月25日開催)でも、曲と曲を繋ぐインターリュードとしてVJと共に効果的な役目を果たしていた。

 

2. 言選り_

先行シングル『cotoeri』収録のリード曲。本作ではイントロが少しアレンジされた(曲名のアンダーバーはそれゆえ。以降も同じようにアンダーバーが付けられた曲が登場する)。

作詞はサクライケンタが過去に手がけてきた歌詞を人工知能(AI)に学習させ、そこから提示された言葉を使って行われた。それにより意味が通っているようなそうではないような、独特な浮遊感を放っており、リスナーを浮世離れした何処かへと誘っていく。

 

3. SIX

階段を登った(降りた?)先で扉を開くような音が挿入されたピアノインスト曲。坂本龍一を彷彿とさせるような、どこか物悲しい音像が印象的。

タイトルの意味する所は「Solitude HOTEL」の6階のことだろうか(実際「Solitude HOTEL 6F」のhiru公演の最後とyoru公演の最初で使われていた)。

 

4. 狭い物語

アルバム発売に先駆けMVが公開され、先行配信もされたリード曲。赤い風景の中をメンバーが歩く様はアルバムのビジュアルイメージを決定づけたように思う。

曲終盤では矢川がソロでこれまでになくエモーショナルにサビを歌い上げている。ライブではそれが特に顕著で観る者を引き付けていた。

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↑ MVではただひたすら真っ赤だった世界に色をつけるようなシーンがとても印象的。

 

5. MOVE

インスト曲。心電図が止まったような音がしばらく続いた後アコースティックギターが鳴らされ、最後にバタバタと走るような音が入る。曲名通り何処かへ忙しなく移動している?

 

6. ボーイミーツガール

和田がこれまでとは違う歌唱で魅せる本作のキラーチューン。数あるブクガのレパートリーの中でもかなりポップな曲であり、今作のベストに上げる人も多い印象。エレキギターが効果的に使われ、「MOVE」の足音から想起されるような性急な曲調がリスナーを急かす。

ちなみに定期イベントの「bmg」という名称は「ボーイミーツガール」の略なのだろうか?

 

7. PAST

「過去」と名付けられたインスト曲。しかしメロディをよく聴くと1stアルバム『image』に収録された「blue light」であることが分かる。最後にドアをこじ開けようとする音とそのドアがけたたましく軋む音が鳴る。

 

8. rooms_

先行シングル『412』のリード曲。こちらはイントロとアウトロがアレンジされて収録。「ボーイミーツガール」では一度外に出ていたように思うが、ここではまた部屋に閉じこもっている。

ライブでは通常、サビの無音部分で照明が全て消え一瞬静寂に包まれるパフォーマンスでお馴染みだが、「Solitude HOTEL 6F」のyoru公演では無音部分以外ほとんどずっと真っ暗という逆の演出をし会場を湧かせた。

 

9. MORE PAST

こちらも「PAST」に続いてインスト曲…と思いきや、『bath room』に収録された「my cut」のピアノバージョンであることが分かる。4人のボーカルも新たに収録され、シンガーとしての表現力が豊かになっていることがより際立って分かる(特に井上。『bath room』時のものを改めて聴くと拙い部分も多い)。

なお「PAST」(=「blue light」)は2016年、「MORE PAST」(=「my cut」)は2015年リリースということで、実際のリリース年と連動した時系列になっている。

 

10. 十六歳_

『cotoeri』のカップリング曲。イントロがアレンジされて収録。曲調はかなり明るく、MVではこれまでになくガーリーなメンバーを見ることができるが(全てがガーリーだと思うと衝撃を受ける)、ステージを縦横無尽に走りながら歌うライブパフォーマンスを観るといつも胸が締め付けられる。

 

11. NIGHTMARE

残念ながらいい夢ばかりではない(そもそも今作で表現される「夢」はあまりいい夢とは言えない気もするが)。電車が走る音が聞こえ、終盤で急に鳴り止む。

 

12. 影の電車

「NIGHTMARE」の電車のイメージをそのまま具体化したような曲。とは言え曲調はポップ寄りでブクガの中でもかなり歌謡サイド。とにかくメロディがいい。

 

13. fMRI_TEST#3

「影の電車」のアウトロを断ち切るようにfMRIの音が鳴る。

 

14. 夢

fMRI_TEST#3」からシームレスで始まる今作の表題曲。サクライ氏はこの曲について、インタビューで下記のように語っている。

今回、14曲目が“夢”というタイトルなんですけど、京都大学で夢のことを研究している神谷之康さんという方がいて、その方に話を聞きに行って作ってるんです。

14曲目の“夢”に関しては、夢を見ているときの脳波を左右で鳴ってるハンドクラップの強弱、ベロシティにして、変な感じで音が強くなったり弱くなったりしてるんですけど、まさにあれは夢を見ているときの脳の動きで。だから、聴いていると本当に夢を見てる感じになるんじゃないか、と思って。ちょっと迷い込んだ感じになる、というか。

Maison book girlメジャー2ndアルバム『yume』インタビュー③――「ブクガの創作を押し広げた、自由と苛立ち」 | ダ・ヴィンチニュース

リスナーがアルバムを通して聴いてこの曲にたどり着いた時、おそらく夢と現実の境目が無くなるような感覚さえも覚えるのではないだろうか。壮大なサビも感涙もの。間違いなくブクガ史上最高傑作。

 

15. ELUDE

雨が降る音と鳥の鳴き声とカメラのシャッター音。どこかの温室の中で鳥の写真を撮っているかのような印象を覚える。

このインスト曲はアルバム発表前からライブのSEとしても使用されていた。

 

16. レインコートと首の無い鳥

先行シングル『elude』のリード曲。「ELUDE」はこの曲の伏線だった。これまでに見ない不穏なMVであり、この時点でもうアルバムの世界観は完全に固まっていたのだろう。ワンマンライブ「Solitude HOTEL 5F」(2018年6月23日開催)では最初と最後の2回披露され、ブクガワールドの構築に重要な役目を果たした。今後もキーとなる曲であるように思う。

ちなみに「Solitude HOTEL 5F」の最後ではメンバーがペストマスクを被って披露され、4人が居なくなった後ステージに靴だけが残されていたが、「Solitude HOTEL 6F」のyoru公演に出てきたペストマスク姿の人物たちは裸足だった。

 

17. YUME

「レインコートと首の無い鳥」のアウトロであり、次の「おかえりさよなら」のイントロをも担うインスト曲。雨の音とfMRIの音、そして曲の逆再生が流れる。巻き戻して聴くと「おかえりさよなら」であることが分かる。

 

18. おかえりさよなら

「bmg vol.1」でMVが発表され上映もされた『elude』のカップリング曲。曲調に関してはブクガのレパートリーの中でも特にバラードとでも呼べるようなストレートさがあるが、MVを観ると明確に「死」をテーマにしているような印象を受ける(どうでもいい余談だが筆者はMVの上映で泣いた)。

 

19. GOOD NIGHT

「Solitude HOTEL 5F」の最後に流れ、それから地続きのように「Solitude HOTEL 6F」のhiru公演の最初にも流れたインスト曲。錠剤を出すような音が「おかえりさよなら」からの繋がりを感じる。タイトルが示すのはただの「おやすみ」ではなく、オーバードーズによる「死」なのかもしれない。

 

20. 不思議な風船

お馴染みになったコショージが手がけるポエトリーリーディング。バックで流れる音がうるさく語りがあまり聞こえないという演出が、アルバムの最後を不穏に飾る。

「Solitude HOTEL 6F」では最後に披露され、ペストマスクを被った謎の人物たちとの共演が強烈な印象を与えていたように思う(個人的には序盤コショージが本=カンペ?を持たずに台詞を言っている所が妙に感動した)。

 

21. fMRI_TEST#1

ここに来て#1…それもそのはず、リピートして聴くと1曲目の「fMRI_TEST#2」にシームレスで繋がり、今作が終わらない無限ループの世界であり、リスナーを閉じ込めるような仕掛けになっている。

なお、「fMRI_TEST#1」「fMRI_TEST#2」についてサクライ氏は下記のように語っている。

1曲目と、最後の“fMRI(_TEST#1)”は、夢の実験をしているときの実際の音声をお借りして、使ったりしていて。

Maison book girlメジャー2ndアルバム『yume』インタビュー③――「ブクガの創作を押し広げた、自由と苛立ち」 | ダ・ヴィンチニュース

アルバムによりリアリティを持たせるための仕掛けがここにもあった(「夢」を表現するためにリアリティを持たせる、というのは何か倒錯している気がしなくもないが)。

 

 

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Maison book girlは今年4周年を迎えた。年々メンバーの歌唱力と表現力は高まっており、それに合わせサクライケンタが作り出す楽曲も変化/進化し、ライブでのVJやパフォーマンスも話題を呼ぶようになった。今では日本、いや世界でも類を見ないような唯一無二の世界観を構築することに成功した特異なグループと言える。

 

1stアルバム『image』はMaison book girlとしての自己紹介的な意味合いが強かったように思うが、今作『yume』は過去曲を伏線として使用したり(「PAST」や「MORE PAST」)、インスト曲で間を繋ぐなどし、綿密で曖昧な「夢」の世界を提示する組曲として完成させることに成功した。

リスナーはアルバムを通して聴くことで、夢と現実の境界を見失うような時間を過ごすことになるはずだ。移動中に片手間に聴くというよりも、1時間しっかり向き合って聴くに相応しいアルバム。間違いなく、2018年の音楽カルチャーの最先端に立つ凄まじい作品が誕生した。

 

 

(文:おすしたべいこ)